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第二十五話:身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあり

第二十五話

 椎子のブルマが無くなった次の日から俺は調査を始めていた。

「あ、もしもし……お疲れ様です。俺です。夢川冬治です。由乃と俺が通っている羽津女学園で実は盗難事件がありまして。はい、これだけだとちょっと悪さした生徒の所為かも知れません。知っての通り、俺はこの学園に調査に来ているんですよ。由乃から人外の調査を命令されています。これがどうも人外の匂いがしているみたいでして……。盗られたものと根拠? 盗られたものはブルマです。根拠はありませんがね。でも、被害者は確かにいますし、人外の仕業だったのなら早めに手を打っておいた方がいいのではないでしょうか……透明人間がやったんじゃないかと俺は思ってます」

 それから数度のやり取りをしてようやく暇な女性の吸血鬼数十名を羽津学園に派遣してくれることになった。

「……見てろよ犯人め」

 それから十分後、俺の所属している三年B組に二十名の吸血鬼がやってきた。全員が黒いスーツに赤いネクタイをしている。

 クラスメートがぽかんと見ている中、俺は吸血鬼達に挨拶を始める。

「初めまして皆さん。呼びつけたのは私、夢川冬治です。今回貴女達に頼みたいのは何者かに奪取された間山椎子さんのブルマです。ブルマと言えど、侮ってはいけません。これを盗んだ犯人は只者ではない可能性があります。気を引き締めてください」

 ごくりと吸血鬼の誰かがつばを飲んだ。何と言われて此処に派遣されたのだろう。まぁ、それは今、気にすることではない。

「この学園の平和と、繁栄……そして、NKKを脅かすかもしれない輩の可能性もあります。芽は芽のうちに摘まねば厄介な花を咲かせる事でしょう。百日草のようにね。では、左から五人ずつでチームを組んで下さい。リーダは区切ってから左一番目の方です。一チームは一階を……後は各階を調査して終わったら私に報告。報告を終えたところから旧校舎へ向かってください。途中、容疑者を見つけ次第各自捕縛をお願いします。逃げられた場合は一階と四階担当以外は上下階のリーダーに報告して柔軟に対応をお願いします。何か質問はありますか?」

「ありませんっ」

 二十名の吸血鬼は緊張した面持ちでそう言った。後から聞いた話、この人たちはNKKの中でも特別な時にしか動かないスペシャリスト達だったそうな。

「そうですか。では、行ってください」

「サー、イエスサー」

 あっという間に出ていった吸血鬼達を頼りがいのある人たちだと思う。ただ、彼女達だけを働かせるわけにもいかない。

「ゆ、夢川君って何者?」

「あの人たち誰?」

「俺はただの羽津女学園三年生だ。そんで、あの人たちは俺に協力してくれる心優しい人達。これから屋上から校舎の壁を見ながらおりてくる」

 ロープを災害用袋の中から取り出して肩に担ぐ。フックもついているし、これだけ丈夫なら俺の体重も充分支えられる事だろう。

「ちょーっ、冬治君っ」

「何だ椎子? 俺は今からブルマを探す旅に出る」

「あたしのブルマ盗難事件を凄く大げさにしてない?」

「してない。大丈夫だ。」

 いつもより椎子は焦っているようだった。やっぱり、椎子も女の子だな。自分の身に着けていたものが無くなって本当は動揺していたんだろう。

「状況、ちゃんと分かってる? ゴキブリ倒すためにロケットランチャー持ってきてない?」

「持ってきてない。それに、状況はちゃんと分かっているさ」

「じゃあ、説明してみて」

 教室から出る為の扉を通せんぼしはじめた。

「椎子のブルマが盗られた。だから俺は見つけるためにアドレス帳にある友達に助けを求め、暇だったあの人たちが来てくれたんだよ」

「ほ、本当? あの人たち何だか軍人さんみたいな感じだったけど?」

「気のせいだろ。別に軍人でも何でもないさ」

 ただの暇だった吸血鬼さん達だ。

「さ、どいてくれ」

「まだ説明してもらってないよ。そもそも屋上から校舎の壁を見るってどうやって見るの?」

「こうやってフックを腰につけて、伝って降りる。何か痕跡があるかもしれないし、ブルマが張り付いているかもしれない」

 ブルマが校舎壁に張り付いていたなら無くなったと勘違いもするだろう。その場合はびっくりはするけれど盗まれていなかったからよしとしよう。

「全部説明したぞ」

「嫌だ、どかない。納得できないよっ」

「授業もあるんだ。いい加減にしろ……」

 力づくでも俺は行くぞと言おうとして頬を思いっきりはたかれた。

「いい加減にするのはそっちだよ冬治君っ。屋上から伝って下りるなんて落ちたら死んじゃうよ? ただの三年生なんでしょ? それに、この前あたしを保健室に連れて行ってくれたとき叱ってくれたよね? 冬治君が怪我したら、あたし嫌だよっ……死んじゃったらどうすればいいのっ」

 そういって抱きしめられた。

 頭に血が上っていた俺はすぐ耳元で泣きじゃくる椎子の声で心が落ち込んでしまう。

「椎子、俺が……間違ってた。まさか、お前が泣くなんて思わなかった」

「うん、うん……ごめんね、痛かった?」

「おかげで目が覚めたよ」

 そして、クラスメートたちの声も聞こえてきた。

「何、この見ている側とやっている側の温度差」

「近年まれに見る盛り上がりよね」

「当事者達だけのね」

 そして、それから三十分後……四チームはブルマを盗んだ犯人を捕らえ、俺の所へと報告を済ませると帰っていったのだった。

「何だぁ、猫が取っていったのか」

「猫を捕まえるために二十人も来るとか……あの人達どんだけ暇なんだろ」

「しかし、猫も凄いねぇ」

 事の顛末を知りたがっていたクラスメートの前で俺はそう報告するのであった。何せ、本当の事を言っても信じてもらえないだろうからな。

 猫、という部分は嘘ではない。ただ、あの猫は普通の猫ではないと報告を受けている。駅前に居ついた猫で、たまに消えるそうだ。財布をとったのもどうやら猫らしく、匿名として学園に届けられたらしい。

 家に帰ったらさらなる情報を由乃から教えてもらう事が出来るだろう。

「冬治君、よかったね」

「ああ、お前のブルマが戻ってきて良かったよ」

「はい、じゃあブルマあげるね?」

「はぁ? いらねぇよ」

 別にブルマが欲しくて頑張ったわけではない。

「そっか、じゃあ眼を閉じて?」

 足が出る部分に手を突っ込むとにこっと笑っていた。その程度なら俺もわかるぞ。

「そういってブルマを頭からかぶせる気なんだろ?」

「そんなことしないよー……無駄に頑張りすぎちゃった冬治君に、お礼をね」

 黙って目をつぶると鼻の頭に湿った何かが当たった気がした。そして、同時にクラスメートたちが騒ぎ始める。

「目を開けていいよ?」

「ん……?」

 目を開ける。其処にはいつもの光景が、クラスメートたちがきゃーきゃー言っている教室が広がっていた。

「……?」

 ははーん、さては椎子の奴俺の鼻にブルマを押しつけやがったな?

 アイコンタクトを椎子に送ると彼女は照れて下を見るのであった。


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