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第二十三話:天は自ら助くる者を助く

第二十三話

 恵理奈の顔がどういったものなのか知った次の日、学園の下駄箱でその顔を思い出していた。

「……可愛かったなぁ」

 椎子と恵理奈は双子だそうなので似ていた。一卵性ってやつかな。元気がにじみ出る椎子の顔より、俺は恵理奈の顔の方が好きかな。似てるけど、やっぱり違う。

「夢川君、おはよう」

「あ、おはよう」

 噂をすれば何とやら……目の前に黒子の面が現れた。

「何だかにやけてません?」

「いや、気のせいだろ」

「お姉ちゃんからラブレターが来たとか」

「ありえねぇー」

 下駄箱を開ける。そこには上履きすら入っていなかった。

「むしろ、取られて行く方ではないだろうか」

「……そうかもしれないですね」

 どこからともなく上履きが俺へめがけて飛んでくる。そして、軽い足音が通り過ぎていった。やれやれ、あとで折檻が必要のようだな。

「なぁ、恵理奈」

「何ですか? また、放課後デートですか?」

「デート? 何だそれ、違うぞ」

「そ、そうですか」

 何故だかショックを受けたような恵理奈を無視して俺の仮説を試したかった。

「昨日の十二時過ぎから一時にかけて、何してた?」

「え? えーと、お風呂に入ってそれから寝ました。詳しい時刻は覚えてません」

「そうか」

「あの、それが何か?」

「気にするな。ありがとう」

 もしかしたら、早速俺の仮説は当たったのかもしれないな。教室に行って色々と考えたかったので恵理奈と別れようとしたら腕を掴まれる。

「何だ? 今、ちょっと忙しいんだが……」

「全然忙しそうに見えません」

「ポーカーフェイスなんだよ」

 にこっと笑って見せた。しかし、黒子の面は変わらない表情で俺を見ていた。

「夢川君って、相手のスケジュールとか気になるんですか? 結構、束縛するタイプなんですね」

「相手のスケジュール管理?」

 この子は束縛とかよくわからない事を言うなぁ。

「あ、でも事細かに恵理奈の行動がわかっていれば尚の事いいかもしれない」

「ええっ?」

「よければ詳しく教えてほしいんだが……」

 黒子の面を確認しなくても、携帯電話の画面で確認できるならそれに越したことは無い。スケジュール帳みたいなものを作って、チェックしていけばいいのだ。

「絶対に無理ですーっ」

「え、あ、おい……」

 何だ、引きとめておいて恵理奈の方が走っていってしまったぞ?

 何かまずい事でも言ってしまったのだろうか。

 まぁ、また聞けばいいだろう。とりあえず仮説を補足する材料は手に入ったし。

 俺も教室へ行こうとしたら肩を掴まれる。

「ちょっと、冬治」

「ん? 何だ、由乃か」

「あんたね、アリスに何か連絡したようじゃないの。まずはあたしに報告するのが義務でしょ」

 凄く睨まれた。相手を竦ませる様な睨み方であるが、慣れてしまった俺にはなんともない。

 アリスが由乃に報告するのも当然、予定済みだ。

「悪かったよ。実は、首なし幽霊を見つけたっぽいんだ」

「首なし幽……霊?」

 あっという間に由乃の顔が青ざめた。

「由乃に報告しようと思ったんだけどさ、ほら、ユウカの調査をしているじゃないか? だから手を煩わせるとまずいかな―ってアリスに聞いたんだよ。幽霊じゃなくて、否定の透明人間の可能性もあるなぁって思ったんだよ」

「冬治はそいつを……見たの?」

 目の前にいる吸血鬼の顔色は既に悪い。そして、身体が小刻みに震えている。

「ちらっとな。旧校舎に先生から頼まれた物を置きに行ったとき、女子生徒がいたんだよ。曲がり角を曲がったんで何でこんなところにいるんだろうと俺もそっちに見に行った」

「へ、へぉえ、それで? 全然、怖くないけど」

 へぉえ、ってどういう発音だよ。しかし、今日は頑張るね。昨日なんてテレビからユウカが出てきたら卒倒してたのにな。まぁ、既に腰を抜かす一歩手前だがな

「……曲がり角を曲がったらさ、いないんだよ。ほら、あそこって曲がり角を曲がったら屋上につながっているだけじゃん? そっちに居るのかなって扉を見たら、鍵がかけられているし、鎖も巻かれてた。当然、出られないんだよ。でも、屋上には確かに人の気配がする。さすがに俺も恐くなってさ、逃げようとしたら……肩を叩かれた」

「ひっ……」

 悲鳴をあげて白目をあげそうになるが、踏ん張っている。今日はしぶといな。余程俺がアリスに連絡したのが気に入らないと見える。

「後ろ振り返ったらまずいって思ったよ。そのまま何となく自分の足元を見たんだ。なんというか、日がさしていたから影が見えるんだよね。影が映ってる。俺しかいないはずなのにもう一つ、影があった。影を見てたら、その首がぽろって……」

「ふぅっ……」

「あ、由乃? 由乃っ」

 やばい、どうやらやりすぎたようだ。全身から力が抜けて気絶しちまったみたいだ。

「……」

「あれ? 富木さん?」

 富木さんが俺の方をじっと見て、何かを決心したかのように旧校舎へ走っていった。何なんだろうか。

 自己否定型の透明人間の調査は俺の専任になった。

 ユウカの調査で忙しいとのことで、構っていられないそうだ。

「じゃあ、ユウカの調査が終わったら手伝ってくれるか?」

「……駄目よ。駅前の神社跡地とか噂の半漁人とか他にも仕事があるものっ」

 まぁ、これで由乃から突っ込まれることはないだろうな。内心ほくそ笑みながら俺は仮説を図書館で考えるのであった。

「……頭隠して、尻隠さず。間違いねぇ、お風呂に入っているときはあの子の顔が現れるんだっ」

 この仮説を試すにはどうするか……やっぱり、恵理奈にお風呂に入ってもらわなくては始まらない。

 しかして、すんなりお風呂に入って俺に見せてくれるわけもないだろう。うーん、胸は椎子よりあるし、おしりも安産型……なんて、考えている場合ではない。

 問題は胸とか尻とかではなく顔である。

「別に俺が面食いというわけでもない」

 お風呂に入っているとき、恵理奈が考えていることは何だろう。それを日ごろから考えれていれば、顔を否定することは無くなるのではないだろうか?

「ま、今は仮説を実証させる方を優先しよう」

 お風呂に入っている恵理奈から文句を言われず、見る方法はたった一つだ。

 ばれたら捕まってしまうが、恵理奈のためだ仕方がない。あの子に黒子の面なしで生活してほしい。

 俺は使える道具がないかNKKに連絡をするのであった。


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