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第十六話:丸くとも一角あれや人心

第十六話

 五月頭、幽霊であるユウカと共に俺は学園へやってきていた。

「ユウカにお任せっ」

「……大丈夫かな」

「ほら、幽霊だから周りの人は見えないかもよ」

 中には見える人もいるわけで、どういうことか学園に来るまで出会った人間すべてがユウカをみて尻もちをついたり逃げ出したりしていた。

 その点を指摘すると彼女は首を傾けて考えた。

「それは……冬治君だって宇宙人が普通に道を歩いていたら驚くよね?」

「そうだな」

「だから、幽霊が歩いていたらやっぱり驚くと思うよ」

 ばっちり見る事が出来る幽霊が授業中、廊下を歩いていたら大パニックになる事だろう。

「……やっぱり、ユウカに人外を探してもらうの失敗だったかな」

「わたしは別に由乃ちゃんから体の隅々、調べてもらってもいいんだけれど……その人外に含まれるんだよね」

 それは由乃が全力で否定するのだ。この前なんて一生懸命自室の扉にお札を貼りまくっていた。吸血鬼がお札って……そう笑ったら切羽詰まった顔で睨まれた。

「そろそろ俺の部屋で寝るの辞めてほしいんだけどなー……」

「減るものでもないし」

「いや、精神ポイント的な何かがごっそり無くなるんだよ」

 ユウカが寝返りを打つと何故だか本棚の本が勢い良く飛び出てきたり、寝苦しいと思って目を開けるとユウカが俺の腹に乗っていたりするのだ。

 心臓に悪いことだ。あと、健全な男子生徒にとっても非常に悪いもんだ。

 触ろうとしても寝ているときは触れないのか普通に手がすり抜ける。眠りが浅いときは触れるみたいだけどさ。

「朱音さんもよく俺とユウカの同室を許可してくれたもんだ。ユウカは幽霊だけど女の子だし」

「そう言うところ、好きだよ冬治君。朱音さんはわたしと間違いを犯しても子どもが生まれないって思っているみたい」

 今晩試しにどうですかとユウカが言ってきたが聞こえない。

「なぁ、ユウカ……ちゃんと消える事って出来るか?」

「幽霊ですからできますよー」

「じゃあ、お願いだ。授業中に人外がいないかどうか調べてくれ」

「具体的にはどうすれば?」

「んー、ま、ユウカの事を視認出来れば人外の可能性が高いな」

 ステルスモードのユウカを由乃は察知できんが、察知する人外もいるかもしれない。

「おっけー……報酬は熱い抱擁?」

「食べ物をお供えするよ」

「了解」

 言うが早いか、ユウカは姿を消してしまった。

「いい奴なんだけどなぁ、羽目を外すことが多々あるし……」

 今朝も由乃を驚かせていた。もう、驚かせ方が凄くて顔を洗って自分の顔を見ていた由乃がひっくりかえって泡を拭いていた。

「ちょっとやりすぎたかも」

 てへへと笑うユウカに詳しく聞くと由乃の胸元から血まみれで登場して見せたらしい。それは誰でも倒れるだろうなぁ。

「ま、ユウカに期待しておくか」

 俺は楽観的に教室へと向かうのであった。

「ここでビスマルクが登場するわけですね」

「あっ……」

 社会の授業中、俺の前の席である富木さんがいきなり声を出した。視線は廊下の方を向いており、それにつられて何人かが廊下を見る。しかし、何もいなかった。

「どうかしましたか?」

「えっと、何でもないです。すみません」

「では授業を進めますね」

 先生が再び授業を始めても富木さんは廊下を見ている。俺も廊下を再び見たが、誰もいなかった。

「……冬治君、何か見える?」

「いんや、何もいねぇなぁ」

 隣の椎子が聞いてきても素直に答えるだけだ。

「もしかして透明人間が出たのかも」

 少しだけ面白そうに椎子がそんな事を言った。

「透明人間か……だったらなんで富木さんが見えるんだよ」

「あれじゃない? 特別なセンサーが目に埋め込まれているとか実は富木さんは魔法少女だったとかさ」

 そんなのあり得ねぇよと言おうとしたら先生がこっちを睨んでいた。俺はしかたなく教科書に顔を埋めるのであった。

 放課後、携帯電話にメールが来ていて『いた!』と打たれている。

 ユウカが携帯電話をもっているとは聞いてないが題名の所にユウカと書かれていたので彼女からだろう。

 わかったと返信すると、午後六時に屋上におびき出すと言うメールが返ってきた。

「六時か……由乃にはまだ教えないほうがいいだろう」

 その人外が人に危害を成さないのなら由乃に報告する必要はない。下手に刺激して襲われたり、ユウカが危険な目に遭ったら大変だ。俺はそう思って時計を確認するのであった。

「あれ? 富木さん?」

「えっ……な、何?」

 彼女が俺の事を(というより、男を)恐がって苦手なのは知っているが大きなバックをもっていれば気にもなる。朝にはなかったしな。

「重たそうだね、手伝おうか?」

 こういうところでポイントを稼ぎ、富木さんの中での俺の株をあげるのだ。

「いや、いいから……じゃ、じゃあさよならっ」

 そのまま走っていってしまった。

「……そういえば初めて挨拶された気がするな」

 一歩前進だと思いたい。


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