2-4
「……悪いな」
ちょっとした未練を振り払うように小さくつぶやいて繋ぎ木から手綱を解く。
満載した樽を揺らす荷馬車の前を強引に横切り道を横断すと、目当ての施設は道を挟んですぐの場所にあった。
「……こいつか」
保安官事務所の掲示板。
貼りだされた数枚の手配書の中からじいさんの好々爺じみた笑みを思い出しつつ一枚を剥がして歩き始める。
「ギルドと州知事の連名か。まぁ、大物だな」
珍しく小さく微笑みながら、手配書をカバンにしまうと馴染みの宿の繋ぎ木に馬を繋ぎ、鞍から銃とサドルバックを取り外して肩に担ぐ。
馬を優しく撫でてから、乾いた路地に積もった砂を蹴りながら、年季の入った木の扉を押し開けた。
「いらっしゃい。お部屋をご案内しますか?」
「ああ、一部屋……」
「ううん、二部屋っ!」
背後から乱暴に扉が開く音が聞こえ、ロイは小さくため息を吐き出した。
「もちろん。二階の4号室と5号室をご用意いたします。他にご要望はございますか?」
息を切らしながら向けられる、強い視線を背中に感じながらロイは再び小さく溜息をつき、彼女の方を振り返ることなく宿の受付に向かって言った。
「風呂を用意してやってくれ」
フロントの男は礼儀正しく頷くと、浴室の利用料とチップを受け取った。
だが、ロイはそれを確認することもなく、きしむ階段を上り二階廊下の突き当り、4と銘板の貼られた扉を開けた。
「ねぇ」
ロイは一瞬足を止め、振り返らずに短く答える。
「部屋は隣だ」
それだけ言って閉めようとしたドアの隙間にカリンのブーツが素早く差し込まれ、ドアが無理やり押し開かれた。
「あれで、はい、さよならって寂しいと思わない?」
悪質なセールスの様に強引に部屋に滑り込んできたと思えば、ツカツカと我が物顔で部屋を横断し、安宿の堅いベッドに腰かけて頬を膨らませる。
「ああ、慣れたほうがいい」
だが、ロイは気にせずサドルバッグを置き、薄汚れたダスターコートと帽子を脱ぎながら答えた。
彼の冷徹な返答に、カリンは一瞬言葉を失ったように固まっていた。が、すぐに憮然とした表情で腕を組む。
ロイも気にせず椅子に腰をおろし、足をサイドテーブルに組んで乗せると目を閉じた。
気まずい沈黙が訪れ、カリンは小さくため息を吐き出すと室内を見渡す。
安宿なだけあって部屋の作りは非常にシンプルで、家具と呼べるものは今ロイが足を乗せている部屋の中央に置かれた申し訳程度のテーブルセットの他には、ベッドくらいしか見当たらない。
そうして気まずい沈黙が流れる中、部屋の外から床を軋ませる音が聞こえ、カリンは静かにガンベルトに手を伸ばす。
が、ロイの姿勢が変わらないのを見て、再び腕を組み直した。
「入室いたします、中尉殿。と、お嬢さんもご一緒でしたか」
「おじいさん?」
ノックの後、酔っている割にはしっかりとした足取りで部屋に入ってきた人物とカリンが驚いたように視線を見合わせる。
「お取込み中でしたら後にしましょうか?」
「必要ない」
悪戯っぽく提案したじいさんに、ロイは目を閉じたまま答える。
「よいのですかな? おそらく……」
「そいつの取り分は俺の方から出す」
「何の話?」
自身の知らぬ間に二人の間に何らかの合意が形成されたことに不満そうにカリンが首を突っ込む。
「それではお嬢さんにも聞いていただく必要がありますな」
じいさんはカリンに微笑みかけると、しわくちゃの手配書をポケットから取り出してテーブルに置いた。




