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数時間後。
すっかり日の落ちた郊外の森が望めるフロンティアの小高い丘の上。
明るい焚火の光を囲むように、カリンと老人。そして繋がれた二人の馬の姿があった。
「ところで、今回の獲物。詳しく聞いてないんだけど?」
小高い丘の稜線に腹ばいで寝そべり、双眼鏡を構えたカリンがパチパチと燃える焚火の音をバックに問いかける。
「おや、そうでしたかな? 先住民の呼び名でウェンディゴ。お嬢さんにも馴染みのある言葉にするとウェアウルフ……といったところですかな」
答えながらじいさんはヤットコで焚火の中から真っ赤になったるつぼを取り上げ、そっと中の液体を円錐型の型に注ぎ入れる。
「へぇ……狼男。そういうのがこのあたりに? ……それで街のそばに牛の死体があったんだ」
じいさんの手元に置かれた欠けた月色に光るインゴットをチラリと見てから呟き、カリンは革の双眼鏡をふたたびのぞき込む。
そうすると、曇った視界の先に、頭上を照らす星々と月の下。愛馬の傍らで小さいランタンの明かりでいつも持ち歩いている革表紙の手帳のページをめくるロイの姿が映し出された。
「気になりますかな?」
遠く聞こえるフクロウの鳴き声と焚火の音に耳を澄ませながら、型が冷えるのを待っているじいさんが声をかけた。
「だって、向こうは一人でしょう? 見張りはしっかりしてないと」
「中尉殿であれば問題ありませんよ」
「そうなの?」
双眼鏡を覗いたまま、カリンはじいさんに聞き返す。
「ええ、もちろん。そうですな、少し昔話をしましょうか」
焚火に薪をくべながら答えるじいさんは、カリンの返事を待たずにまるで過去を見ているようにスッと目を細めた。
「中尉殿とは内戦以来の間柄でしてな、北軍の同じ連隊におりました。もっとも、中尉殿は入隊のために大学を繰り上げ卒業したエリートの騎兵士官。ワシは冒険者稼業から安定した報酬目当てに飛びついただけの散兵でしたが」
「北軍……」
「ええ。もっともそのような立場ですからお会いしたことは数えるほど……」
「ですが。」と、呟きながらじいさんはまだ熱い銀の弾丸を型から取り外し、ヤットコで慎重につかんだまま焚火にかざして形をチェックする。
「今でもよく覚えております。戦争も終盤に差し掛かったグレイスプリングス。進駐していた我々の中隊が突然反撃を受けて撤退することになりましてな」
懐かしむような細い目で軽く握って弾丸の温度を確かめると、やすりでゴリゴリと形を整え始め、そうかと思うと蜜蝋の染みたぼろ布で優しく拭う。
「我々散兵隊が遅滞戦闘。つまりは殿を務めたのですが、いやはや、あの時以上に死を覚悟した戦闘は今となっても経験したことがありません」
歴戦の傷の刻まれたオータムフィールド銃工廠製のライフルが焚火のゆらゆらとした火に照らされ、じいさんの手の中でまるで呼吸をしているように見える。
そんななじみ深い相棒にエサを与えるように火薬入れから火薬を流しいれ、慣れた手つきで突き固めた。
「我々が命からがら林へ逃げ込んだのを見た連中は、なんとしてでも我々を皆殺しにするべく追撃するために散開して……そこへ中尉殿の中隊が突如雷鳴のごとく斬り込んだのです」
先ほどの弾を銃口へ落とし入れ、再び突き棒で突き固めながら、じいさんは楽しそうに言った。
「連中は散開状態で横っ腹から騎兵に斬り込まれ、なんとか林に逃げ込んで来る連中は我々の狙撃に倒れる。あとには南部野郎共の死体だけが残っており……おっと、失礼」
「別に大丈夫。私が生まれる前の話でしょ?」
何も言わずに聞いていたカリンの出自を思い出し、じいさんが慌てて謝罪する。が、カリンは特に不快感を示すこともなく、双眼鏡を覗いたまま小さく首を振って見せた。
「ええ、申し訳ございません。とにかく……林から這い出た我々を迎えた中尉殿はまるで……まるで、聖書の救世主のようでした」
「それが、二人の出会い? それからずっと中尉殿って呼んでるんだ?」
じいさんは頷き、雷管を袋から取り出すと、カリンの隣に伏せてライフルを構えた。
「はい。といっても、当時はまだ若き騎兵少尉殿でしたが……」
「ふふっ、想像もつかないな。ロイに若い頃があったなんて」
カリンが小さく微笑んで双眼鏡を下し、じいさんの方をチラリとみると、相変わらずの好々爺然とした笑顔と目が合った。
「勿論ですとも、よろしければ中尉殿についてとびっきりのお話しいたしましょうか? 例えば……あれは確か……」
「……待って」
再び記憶を手繰るように目を細めたじいさんに、再び双眼鏡を構えていたカリンが鋭く声をかけた。
「ロイの馬が何かに気が付いた」




