2-2
しばらく道を進むと、徐々に街のシルエットがはっきりとしてくる。
気が付けば幾つもの分かれ道が合流し、馬車道の轍もくっきりと濃くなり、開けた街並みが目の前に広がる。
街の入り口に着くと御者は高級そうな懐中時計を取り出し、安心したように歯の抜けた笑顔を浮かべた。
「ここまでだ」
「あいよ、ありがとさん」
カリンの前を横切る様にロイが荷馬車に近づき、御者が革のバッグから取り出したマネークリップを受け取った。
「あれ?多い」
「チップだよ。うまいもんでも食べな」
そんな様子を見ていたカリンが首をかしげると、御者は歯の抜けた口で微笑み、荷下ろし場へ向かって荷馬車を操った。
「ありがとう! またね」
「ああ、またな嬢ちゃん」
カリンが帽子を振り、御者も名残惜しそうに手を振り返す。
「……行くぞ」
しばらく黙って見守っていたロイが手綱を引き、カリンもそれに続く。
「これからどこに行くの?」
「まずは報酬を山分けする。その後は……まぁ、ご自由に」
「ご自由にって……」
肩を竦めながら言うロイの後を追い、カリンは不満そうに呟いた。
フロンティアでは珍しい立派なガラス窓のはまった家や商店が立ち並ぶ人通りの多い街並みを、ロイに誘導されるように歩きながらカリンが興味深そうに街並みを見渡す。
賑やかな街並みは馬で行くには気を付けないと人を轢いてしまいそうなほどの賑わいだった。
しばらく歩いたのち、やはり冒険者ギルドの紋章が描かれたサルーンの前に拵えられた繋ぎ場へ馬を繋いだ。
「ここなら安くて飯もある」
「来たことがあるの?」
「何度かな」
満室というプレートのかけられたスイングドアと二重扉になっている木のドアをロイが押し開けると、カランカランとドアに取り付けられたカウベルが鳴った。
「わぁ、いい匂い!」
冒険者や地元の客。更には汽車を待つ人間だろう流れ者で賑わうフロアには豆と香草、それに少し焦がしたベーコンの匂いが混ざったスープの香りが充満しており、カリンのすきっ腹を容赦なく刺激した。
「適当に座ってまずは飯にしよう。 そして……」
「中尉殿!」
ロイの言葉を遮り、歩兵帽を被った老人が奥のテーブルから手を振った。
「え、誰?」
「あのじいさん、まだ生きてたのか」
苦笑しながら歩み寄るロイに続いて、カリンも混雑したフロアをすり抜けていく。
「随分とお久しぶりですな、中尉! それに、お初にお目にかかりますな、お美しいお嬢さん」
「一年ぶりだな、”じいさん”」
「はじめまして、ええと……」
「はじめまして、お嬢さん。ここらではじいさんで通っております」
ロイが勢いよく椅子に腰かけるのをしり目に、カリンは古い歩兵帽を外した老人の差し出した手を握り返して微笑んだ。
「それじゃ、はじめまして、おじいさん」
「ええ、失礼ですがお嬢さんのお名前は?」
「カリンです。カリン・オハラ」
「おお、なんと! お名前までお美しい! お生まれは南部の旧家、ご家系は旧大陸は北方系ですな?」
「ええ、母の家系がそのあたりの出身だと聞いています」
お茶目に人差し指を立てながら人好きのする笑みを浮かべた老人につられてか、カリンもクスクスと笑いながら答えて席に着いた。
「では、中尉! まずは一杯やりましょう! それと、ここは酒を頼めば食事は取り放題ですからな」
「ああ、知ってるよ」
「失敬。キャシー、いつものやつを!」
じいさんがウェイターを呼び止めて三本指を上げると、ほどなくして三杯のグラスがテーブルに並んだ。




