8-1
厳しい雪の峠を越え、馬首を南へ折って数日が過ぎた頃。
容赦なく吹き付けていた身を切るような吹雪はいつしか乾いた風へと変わり、眼前に広がる景色は、一面の白銀から赤茶けた岩肌が連なる無骨な世界へと一変していた。
「……暑……。数日前まで凍え死にそうになってたのが嘘みたい」
カリンはトレードマークのポンチョの襟元をパタパタと煽って風を入れながら、埃っぽくカラカラに乾いた口からうんざりした声を上げた。
「ここが砂漠なの?」
「いや、ここはまだ荒野だ。本物の砂漠はもう少し先を行ってからになる」
照りつける強烈な陽射しの中、ロイは帽子のつばを深く下げ、馬の歩みに合わせて揺られながら淡々と答える。 二人の視界に広がる見渡す限りの赤茶けた大地には、乾燥に強いサボテンや低い灌木がまばらに生えるのみで、生き物の気配は頭上を旋回するハゲタカくらいしかない。
「……で、私たちはどこに向かってるの? ひたすら南に来てるけど」
カリンが水筒のぬるい水を一口含んでから尋ねると、ロイは前方の地平線を顎でしゃくった。
「駅だ。横断鉄道のな」
「へぇ、切符を買うの?」
「いや、切符を買うわけじゃない」
ロイは短く答えると、鞍に吊るしたリピーターのストックをポンと叩いた。
「ギルドが人を集めているらしい。腕利きの同業者をかき集めてるらしい。ラッキーと合流する」
「ラッキーって……まさか、列車強盗?」
カリンが目を丸くすると、ロイは忌々しげに蠅を払って首を振った。
「ただの強盗なら軍や探偵社の連中が対処する」
「じゃあまた変な話し?」
カリンがうんざりした顔で首を傾げた。
先日のターキー鳥のスタンピードの悪夢がまだ記憶に新しいのだろう。
「だろうな。だが報酬は悪くない。それに……この先の砂漠を馬で越えるより、鉄の塊に乗ってタダ飯を食う方が賢いだろう?」
「タダ飯は魅力的だけど……この辺まで来ると牧場は難しそうだね」
文句を言いながらカリンは水筒の残りをあおり、愛馬の腹を軽く蹴ってロイに並んだ。




