8-2
しばらく並んで手綱を操ると、陽炎が揺れる地平線の向こうに黒々とした給水塔と、無骨な木造建築が並ぶ駅馬車町が見えてきた。
絶え間なく吹き付ける乾いた風が砂埃を舞い上げ、町全体をセピア色にくすませている。
「ぱ、パル……」
「パルコヨトル。コヨーテの泉とかそんな意味だ」
名前こそ瑞々しいが、実際には砂と埃と、石炭の匂いにまみれた荒れ果てた吹き溜まりだ。
「泉なんてあるの、ここ?」
馬を駅前の繋ぎ柱に結びつけながら、カリンが口の周りの砂をポンチョで拭う。
「前はな。開拓で川の流れが変わって以降は地下水を蒸気機関車に飲ませるための、ただの巨大な井戸だ」
ロイは馬から荷物を下ろすと、タウンホールをしり目に一際大きい酒場兼事務所の重たいスイングドアを押し開けた。
中に入ると、外の刺すような熱気が嘘のような薄暗さと、饐えたような安酒の匂いが立ち込めていた。
スイングドアを押し開けると、店内にはすでに何人もの荒くれ者や冒険者たちがたむろしており、ドアの軋む音と同時に刺すような視線が一斉に向けられた。
だが、店の奥、酒樽をひっくり返した即席のテーブルでカードを繰っていた人影が、その視線を押しのけるように豪快な笑い声を上げた。
「遅かったじゃないか、フレミング! それに……おや、相変わらず可愛いムヘールも一緒かい?」
短く切り揃えられた黒髪に、露出の多いラフな作業着。
日焼けした黒い肌に目立つ白い歯を見せて笑うのは、数ヶ月前にあの列車防衛戦で共に死線をくぐり抜けた女冒険者、ラッキーだった。
「ムヘール(妻)じゃないってば!」
「ははっ! 覚えててくれたかい、エルマーナ(妹よ)。少し背が伸びたかねぇ?」
カリンが即座に食ってかかるが、ラッキーは嬉しそうに立ち上がり、カリンの頭を乱暴に撫で回した。
カリンは文句を言いながらも、どこか嬉しそうにそのハグを受け止める。
「2つ。気が済んだなら説明してもらえるか?」
ロイは二人のやり取りを横目に、カウンターへ歩み寄って安酒のグラスを二つ頼むと、カウンターに寄りかかり振り返った。
「あいかわらず愛想がないねぇ。だがまっ、アンタが来てくれて助かったよ。今回の仕事は手数が要るんでね」




