7-13
カリンが踊り場に肘をついてそんなふうに唇を尖らせていた、その時だった。
「あのアマの連れだ! あのガキもグルに決まってる!」
乱闘の輪から弾き出された血だるまの男の一人が、手すりの隙間から身を乗り出しているカリンに気づき、血走った目で階段を駆け上がってきた。
手には割れた酒瓶が握られている。
「えっ!? ちょっと、私は関係ないってば!」
慌てて後ずさるが、男の足は速い。
カリンは一瞬ホルスターに手を伸ばす……が先ほどから抱きしめていた『焼けた石の入った革袋』だけだ。
「ええいっ、もう!」
カリンはやけくそ気味に、その革袋を男の顔面めがけて思い切り投げつけた。
「っちぃぃぃぃぃ!?」
見事に顔面で熱々の石を受け止めた男は奇声を発してのけぞり、そのまま階段を転げ落ちて下で暴れていた別の男たちを巻き込んで盛大にノックアウトした。
足元に転がり落ちてきた男達に視線を向けたロイとジャクリーヌがピタリと手を止めて二階を見上げる。
「……寝てろと言ったろ」
「ふふっ、お見事ね」
重なった男たちにブーツを乗せ、ロイが呆れたように声をあげた。
「うるさいってのっ!! ドンガラドンガラ!」
カリンが顔を真っ赤にして怒鳴りつけると、二人は顔を見合わせて肩をすくめた。
「だそうだ」
「ええ、お遊びはここまでね」
そこからの二人の動きは、まさに蹂躙だった。
残っていた数人の男たちはロイの容赦ない鉄拳と、ジャクリーヌが的確に叩き落とす酒瓶で、あっという間に小汚い絨毯に変わり、数分で酒場には、男たちのくぐもったうめき声と、ストーブの薪が爆ぜる音だけが残された。
「……さて、紳士淑女諸君」
ひっくり返ったテーブルと砕けたグラスの山を前に、顔役のバランがカウンターの奥から低い声を出した。
手には、彼自身の愛用らしい水平二連のショットガンが握られている。
「この盛大なツケ、どう払う気だ?」
「俺を見るなよ。奢りはそこの女だ」
ロイが親指で背後を指し示すと、ジャクリーヌは優雅なため息をつき、先ほど巻き上げたばかりの分厚い札束が挟まれたマネークリップから数枚を取り出した。
「野蛮な男たちのおかげで、裾が汚れちゃったわ。……これで足りるかしら? ゲングェット(ダンスホール)の使用料迷惑料込みで」
彼女がカウンターに無造作に数枚の高額紙幣を滑らせると、バランは片眉を上げてそれを素早く懐へ収めてショットガンを下ろした。
「釣りは出ねぇぞ」
「商談成立ね。それじゃあ、おやすみなさい」
ジャクリーヌはウインクを残し、何事もなかったかのように床に転がる男たちを踏んで階段を上がっていった。
カリンは続いて階段を上ってきたロイを待ち構え、ジト目で彼らを睨みつけた。
「……で? ストレス発散は終わったの?」
「ああ、いい運動になった」
「おかげで少し体が温まったわ。代わりに石は冷えたようね」
ジャクリーヌのからかうような視線に、カリンはハッとして階段の下を見た。
革袋の口から転がり出た石はビールと血の海に転がっている。
「あぁっ! 私の命綱っ!!」
「自分でやったんだろ」
「そうだけど! 凍え死んじゃうからロイのコート、朝まで借りるからね!」
カリンはドスドスと足音を立てて自分の部屋へと戻り、扉を乱暴に閉め……ついに丁番から外れた扉が音を立てて倒れた。




