7-12
大柄な坑夫の体が、くの字に折れ曲がって後続の男たちへと勢いよく吹き飛んだ。
階段の踊り場で数人がドミノ倒しのように重なり合い、くぐもった悲鳴と怒声がもつれ合って文字通り転がり落ちていった。
「ひゅー、いいパンチ。昔よりキレが増してるんじゃない?」
「黙って手を貸せ、ドクトル」
ロイが殴った手を軽く振りながら部屋を出て、ジャクリーヌも楽し気にそれに続く。
「あっ、私も」
「心配ない、寝てろ。明日も早いぞ」
「おやすみなさい、いい夢を」
バタン。と無情にも扉が閉められ、カリンは一人、隙間風の吹く冷え切った部屋に取り残された。
「……いや、寝られるわけないでしょ、こんな状況で!」
二人が姿を現したのに反応したように、吹き抜けからもはやただの喧嘩の域を超えた、怒号と鈍い打撃音、そして木材が砕けるひときわ大きな破砕音が響き、カリンの足元の床板がビリビリと震え……情けない悲鳴と、何かが階段の手すりを突き破って一階へ転落していく音が聞こえてくる。
「本当に……どうやって寝ろって言うのよ」
カリンは毛布にくるまりながら、焼けた石の入った革袋をぎゅっと抱きしめた。
薄い床板からは絶え間なく、殴る、蹴る、物が壊れる音、そして時折、ジャクリーヌの楽しげな笑い声が聞こえてくる。
どうやら銃撃戦にはなっていないようだが、酒場は完全に戦場と化しているらしかった。
しばらく耳を澄ませていたカリンだったが、やがて好奇心と、ほんの少しの心配が勝り、そっと立ち上がった。
冷たい床を歩き、機能を果たさなくなったドアを押し開けて、階下の吹き抜けを恐る恐る見下ろす。
そこでは、荒くれ者の坑夫たちを相手に、まるでダンスでも踊るかのように立ち回る二人の姿があった。
ロイは手近な椅子を盾にして男たちの突進をいなし、そうかと思うと、拳やブーツを顔面や腹、金的に叩き込む。
ジャクリーヌはドレスの裾を翻しながら、磨き上げられたバーカウンターを滑るように移動し、並んだ酒瓶を次々と男たちの頭で割っていく。
「後ろよ、Mon chéri(モン シェリ:マイダーリン)!」
「黙ってろ!」
背後から迫る大男の大振りをロイが身を沈めてかわすと、すかさずジャクリーヌが投げたグラスが顔面にクリーンヒットし、ロイのつき上げた拳が顎を砕く。
無駄のない連携。
互いの死角を補い合うその動きは、長年命を預け合った者同士にしかできない芸当だろう。
カリンは、先ほどの「とってもホットな関係」という言葉を思い出し、なぜだか無性に腹立たしいような、胸の奥がモヤモヤするような複雑な気分になった。




