7-8
ギルドの報奨金を受け取って峠を越える頃には、粉雪は完全な猛吹雪へと姿を変えていた。
吹き付ける風が刃となって頬を切り裂き、視界は数メートル先すら白く濁って見えない。 不満そうな馬のいななきすら風の咆哮にかき消される中、ロイの背中とジャクリーヌの馬車が揺らすランタンの頼りない灯りだけが、カリンにとって唯一の命綱だった。
「ねぇ! これ、本当に道合ってるの!?」
凍りついた手綱を握りしめ、風の音に負けじとカリンが叫ぶ。
先頭を行くロイは速度を緩めず、肩越しに低く鋭い声を返した。
「無駄な体力を消費するな! もう着く!」
その言葉の通り、風の唸りに混じってかすかに血と脂の匂いに上書きされるような、燃える石炭と安い油の強い悪臭が鼻腔を突いた。
やがて真っ白な雪のカーテンの向こうに、ぼんやりと滲むオレンジ色の灯りがいくつも浮かび上がってきた。
吹雪の隙間から見える谷間にへばりつくように作られた開拓地。
目を凝らせば黒ずんだ丸太と粗末なトタンで組まれた無骨な建物が身を寄せ合い、あちこちの煙突から重たい黒煙が雪空へと吐き出されている。
入り口に立つ銃を持った見張りの男たちが、吹雪の中から現れた一行を見て怪訝そうに顔を見合わせた。
が、ロイの鋭い眼光と馬車に積まれた大量の麻袋、そして天井で揺れる『歯の看板』を見ると、何かを察したように無言で道を空けた。
「着いたわ。相変わらず、泥と石炭の嫌な匂いがするわりにお金の匂いのしない街ね」
ジャクリーヌは御者台で手綱を引くと、雪の積もった外套をバサリと翻した。
口ぶりとは裏腹に、カリンから見た横顔はカモを見つけた肉食獣のように楽しげに笑っている。
「いいか、まずは肉の換金だ。顔役のところへ行く。取引が終わるまで勝手な行動はするなよ」
ロイが馬から降り、雪を踏みしめながら釘を刺すが、ジャクリーヌは聞こえないふりをして街の中央、こんな吹雪にも拘らず僅かに喧騒の漏れ義超える酒場兼賭場へと視線を向けていた。
「分かっているわよ、中尉さん。でも、私の可愛い『患者』たちが、首を長くして待っているの。冷えた身体を温めるには、強い酒と熱いブラフが一番でしょう?」
赤い唇を歪めて笑う彼女を横目に、カリンは安堵と疲労で深く息を吐いた。
ひとまずは凍死の危機から脱したらしい。
「……早く、暖かい部屋で泥みたいに眠りたい……」
カリンの切実な呟きは、喧騒と煤煙に包まれた開拓地の夜風に虚しく吸い込まれていった。




