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解体された大量の肉塊を塩漬けにし、麻袋に詰めて馬へと積み込む作業が終わる頃には、空はすでに薄汚れた鉛色へと沈みかけていた。
風が一層冷たさを増し、舞い散る雪が容赦なく頬を殴りつけてくる。
「……で、これからどうするの? この大量の肉を持って旅を続けるの?」
カリンが尋ねると、ロイは湿気た葉巻に火をつけ、紫煙を吐き出しながら雪の深まる北の空を見上げた。
「次の街で肉を売る。……それと、このヤブ医者をどこかの賭場に叩き込んで手切れにする」
「酷いわね、ロイ。せっかくの旅なんだから、もう少し楽しませてくれてもいいじゃない?」
悪びれもせず笑うジャクリーヌに、ロイは小さくため息を吐き出した。
寒風が吹きすさぶ鉛色の空の下、紫煙と白い吐息を溶け合わせながら、ロイは馬の腹帯を強く締め直した。
「楽しむ? お前といても、いつの間にか身ぐるみ剥がされて雪山に放り出されるのがオチだ。手切れ金代わりに仕事の分け前を渡したら、俺たちは西の街道へ抜ける」
「つれない人。昔はもっと情熱的だったのに」
ジャクリーヌは芝居がかった仕草で胸に手を当て、しおらしく肩をすくめてみせた。
だが、その青い瞳には相変わらず冷徹で聡明な光が宿っている。
彼女は雪の上で丁寧にナイフの血脂を拭い去ると、手馴れた動作でそれを太もものシースへと収めた。
「とにかく、この降雪だ。長居すれば道が潰れる。街まで急ぐぞ」
ロイの言葉に、カリンは疲弊しきった身体をどうにか愛馬の鞍の上へと押し上げた。かじかんだ指先で手綱を握り直すと、先ほど飲んだアブサン混じりのコーヒーが胃の奥から熱となってじわじわと体中に広がっていくのが分かった。
強い酒の熱気と独特の苦みが、凍りついていた感覚を少しずつ呼び戻してくれる。
「ねぇ、仕事報酬はさっきの村でしょ?」
カリンが馬を寄せて尋ねると、ロイは馬車を先導するように手綱をさばきながら答えた。
「まぁな、ただこの量だ。あの規模の村で捌くより、峠をひとつ越えた谷間にある、だ。鉱員と木こりが集まる小さな開拓地だが、冬場の肉の需要ならいくらでもある。……あと、カード賭博場がある」
「あら、察しがいいのね、ロイ。私、あの街のポーカー・テーブルにはちょっとした『忘れ物』があるのよ」
ジャクリーヌが御者台の上から、寒風に銀髪をなびかせて楽しげに声を弾ませた。
「だろうな、この辺りでお前がうろついている理由なんてそれしかない」
「ふふ、何のことかしら? 私はただ、風邪をひいた哀れな坑夫たちに適切な『処方』をしに行くだけよ」
ジャクリーヌは悪戯っぽくウィンクすると、鋭い鞭の音を響かせて馬車を走らせ始めた。 車輪が凍てついた雪をゴリゴリと踏み砕く重い音と、馬車の天井で揺れる歯の看板が鳴らすカラカラという乾いた音が、暗くなりかけた枯れ森に虚しくこだまする。
「……ねぇ、ロイ。本当にあの人と一緒に街まで行くの?」
呆れ果てた顔で並走するカリンに、ロイは帽子のつばを深く押し下げ、冷たい吐息とともに低く呟いた。
「道は同じだ。毟られるなよ」
「うわぁ……」
粉雪は次第に粒を増し、暗澹としたフロンティアの夜を白く塗り潰そうとしていた。
遠くの山嶺からは、冬の訪れを告げる狼の遠吠えが風に乗ってかすかに届いてくる。
過酷で賑やかな冬の旅路は、冷え切った開拓地を目指して静かに刻まれていくのだった。




