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「寒……」
カリンは流れ作業でターキー鳥の巨体にナイフを入れ、湯気を立てる皮を引っ張り剥がしながら、凍えそうな声で呟いた。
皮下に溜まった分厚い脂身と血の匂いが、凍てつく空気に混じって鼻を突く。
息を吐くたびにタバコのような白い煙が立ち上り、手袋越しでも指先のがかじかむのが分かった。
「文句を言わない。指先を動かしていれば凍傷にならないでしょう?」
肺病のはずのジャクリーヌは手際よく巨鳥の関節にナイフを滑り込ませ、肉を骨から切り離していく。
コートの袖をまくり上げた彼女の白い腕は返り血で真っ赤に染まっていたが、その手つきは驚くほど迷いがなく、正確な外科手術のようだった。
「……こんな量、パッカー(食肉加工場)の仕事でしょ、感謝祭のご馳走ってレベルじゃないよ」
「文句は相場に言え。報酬に加えて感謝祭で肉も売れる。街まで持っていけば、一頭でいい稼ぎになる」
「5:5ね」
ロイは焚き火に薪を放り込みながら、すでに解体された肉塊を塩の麻袋へ詰め込んでいた。
足元には、解体された無数の怪鳥の内臓と羽根が付いたままの皮が転がっている。
「それにしても、ロイ。あなた、相変わらずいい射撃だったわ」
ジャクリーヌが血のついたナイフを雪で拭いながら、悪戯っぽく微笑む。
「中尉さんは鳥との戦争もお上手なのね」
「ただの慣れだ。それより、お前こそいいショットガンを仕入れたじゃないか」
「あら、これは治療費の代わりに貰ったのよ。もっとも、患者はカードで負けて払えなくなったんだけどね」
「そんなところだろうな……」
二人の会話にカリンは呆れたように息を吐き、最後の一枚の皮を剥ぎ終えて焚き火のそばにへたり込んだ。
凍えきった手に、ロイから熱いブリキのカップが手渡される。
中に注がれていたのは、煮立ったコーヒーと、ジャクリーヌが馬車から持ってきた強いアブサンを混ぜた特製の気付け薬だった。
「飲むか? 内側から温まる」
「うぇ、苦……けど、体が生き返る感じがする……」
「でしょう? 死病を患う私特製の処方箋よ」
ジャクリーヌは酒瓶をカリンのカップに軽くぶつけると、満足そうに喉を鳴らした。
雪は依然として静かに降り続き、荒野の血痕と激闘の痕跡を覆い隠していく。
焚き火の爆ぜる音と、馬車の天井で揺れる歯の看板が立てるカラカラという乾いた音だけが枯れ森に響いていた。




