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「あの、ロイ。ドクトルって本当に歯医者さんなの?」
馬車を先頭に、雪が本格的に舞い始めた平原を進みながら、カリンは馬を寄せて低く囁いた。
前方を走る馬車の御者台では、ジャクリーヌが寒さなど忘れたように楽しげに手綱を捌いている。
「南東部の歯科資格を持ってるはずだ。抜歯に替えの歯の作成、外科手術もか……あとは……」
「あとって……?」
「奥の棚の裏に、改造されたディーラー用のシューターと、特製のイカサマ用ダイスが詰まった隠し引き出しがある。昔、もっと南の賭場でそいつを暴いた別のロクデナシと口論になってな、次の日にはそいつとオトモダチの風通しが良くなって白頭鷲の餌になってた。ドクトルがどんな『ヤブ治療』をしたかは、神様とあいつしか知らんが少なくともダルーズじゃアイツはお尋ね者だ」
ロイは手袋をはめた手で帽子のつばをさらに下げ、冷たい風を遮るように身を縮めた。
「じゃあ、本当に危ない人なんじゃ……」
「……まぁ、腕は確かだな。衰弱(結核)を患って西へ流れてきたのも、本当だ。フロンティアの乾燥した空気は肺病病みに良いってのは、ここらの定番だからな」
雪の勢いは次第に増し、視界は百ヤード先も見通せないほど白く染まり始めていた。
馬車の車輪が凍った轍を軋ませる音と、時折ジャクリーヌが馬に浴びせる鋭い鞭の音だけが、荒野の静寂を破る。
そうしていると、いつの間にか一行は、落葉したオークやパインが骨のように枝を広げる枯れ森へと踏み込んでいた。
風が木々を揺らし、まるで指骨が擦れ合うような乾いた音を鳴らす、白く濁った視界の先、木々の切れ間にぼんやりと影が浮かび上がっていた。
「見えてきたわよ」
御者台からジャクリーヌが声を張り上げる。 彼女の指し示す先には、凍てついた小さな沢沿いに、風化した丸太小屋と廃屋同然の集落がひっそりと佇んでいた。人の気配はない。
だが、追いついて馬を並べて周囲を見回し、カリンが息をのんだ。
雪にしみ込んだ夥しい黒い飛沫、飛び散った羽根と薬莢……なにより。
「……まぁ、ご遺体」
「足跡が多すぎる。猟師の仕事にしちゃ手際が雑だ」




