7-3
「酷い言われようね、ねぇ、カリンさん」
「あ、あはは……」
いかにも悲しそうに肩を落とす女性にカリンは乾いた笑いを漏らした。
「それにこんな稼業、大なり小なり勝負師でしょう?」
「手前の金で勝負するなら好きにすればいい。だけど、お前は他人の懐をアテにするのが趣味だからな」
ロイは吐き出した白い吐息にコーヒーの熱と苦味を乗せ、冷淡な声で付け足した。
その目は、彼女の背後に控える歯医者の馬車を値踏みするように細められている。
「相変わらず手厳しいこと」
ジャクリーヌはブリキのカップを両手で包み、指先を温めながらくすくすと笑った。
その仕草には、死病を患っているという暗さは微塵もなく、むしろ冬の荒野に咲いた一輪の華のような悪びれない華やかさがある。
「でもね、今回はただのギャンブルじゃないの。ちゃんとした仕事よ。ロイ、あなた狩りにいくんでしょう? だったら……」
「断る。お前を連れていくと、取り分が消えるどころか見覚えのない借金が増える」
「失礼ね。私だって立派な医者よ? それに……」
彼女はそこで言葉を切り、青い瞳に宿る知性をふっと鋭く尖らせた。
カリンが思わず背筋を正すほどの、冷徹な勝負師の目だ。
「獲物は、ターキー鳥でしょう?」
「えっ……」
カリンがロイに視線を向けると、ジャクリーヌは小さく微笑んだ。
「感謝祭の時期にわざわざ冒険者が出向く獲物と言ったら定番だもの。なら、馬車があったほうがいい、じゃない?」
「……前金はなしだ」
長い沈黙の後、ロイが忌々しげに吐き捨てた。
「やったわ。交渉成立ね」
ジャクリーヌは少女のように表情をほころばせると、カリンに向かって楽しげにウィンクしてみせた。
「よろしくね、カリンさん。これで冬の旅も少しは賑やかになるわ」
「え、ええ……よろしくお願いします、ドクトル」
カリンは苦笑しながら、この一筋縄ではいかなそうな女性ドクターの背後に視線を向ける。
馬車の天井でバネに吊るされた歯の看板が、寒風に吹かれてカラカラと乾いた音を立てて揺れていた。




