7-2
ちらつき始めた雪を割って立ち昇る煙に近づくなり、ロイが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「ハーイ、ロイ」
メルトンウールのダブルブレストを着込んだ女性が小さく片手を上げる。
「ドクトル……」
ロイが帽子のつばを下げて気まずそうに挨拶をしたのを気にせず、女性は微笑んだ。
「久しぶり。元気そうでよかった。あなたは?」
「カレンです、カレン・オハラ」
手を差し出したのをそっと制して女性は、厚手のコート越しにもわかる自身の豊かな胸を指した。
「胸が良くないの。うつるとよくないわ」
シルバーブロンドの髪がフロンティアの強い日差しを受けてきらきらと輝いていた。
「私はジャクリーヌ・”ドクトル”・ノエル。ドクトル、って呼んでね」
カリンは戸惑いながらも、ジャクリーヌの手を引っ込めさせた理由を頭の中で反芻した。
「衰弱の治療に西に来たの。うつるかもしれないでしょう」
衰弱……肺結核という死病とは裏腹に、彼女の青い瞳に宿る知性と生命力。そのギャップが、カリンにどこか言い知れぬ違和感を抱かせる。
一方のロイは、大きなため息をつくと、諦めたように鞍から飛び降りて、凍り付いた草を踏み負った。
「……ドクトル。その様子だとまだ数年は持ちそうだな」
「ええ、天が私に味方しているうちはね」
ジャクリーヌはそう言って、焚き火にかけられた煤だらけのケトルから、手慣れた手つきでブリキのカップにコーヒーを注いだ。
立ち上る湯気と苦い香りが、冷え切った平野の空気をわずかに和らげる。
「それで、シャイロック(借金取り)から逃げてるわけじゃないんだろ?」
ロイがカップを受け取りながら冷ややかに問い詰めると、ジャクリーヌは悪戯っぽく微笑み、それから視線を二人が乗ってきた馬の鼻先。そして、どこまでも白く霞む平原の彼方へと向けた。
「この冬はダイスで乗りきるつもりだったんだけど、ちょっと懐が心細くて、ね?」
その言葉に、カリンは思わず馬から滑り落ちそうになった。
「えっ、ジャクリーヌさんって……」
「ああ、ギャンブル中毒のロクデナシだ」
ロイが踏み砕いて煮出したコーヒーに顔をしかめながら告げたその一言に合わせてフロンティアの厳しい寒風が、三人の間を吹き抜けたのだった。




