6-9
山間から差し込む朝の光が、墓地に立ちこめた霧と影を静かに払いはじめていた。
「……今度こそ、審判の日まで寝てろよ」
ロイが呟きながら、這いずるように動いていた南軍の死体の後頭部に、とどめの一発を打ち込んだ。
レバーアクションライフルを握っていた青年が、もはや力が抜けたように膝をつき、墓石に背を預ける。
「あ……ああ……」
「終わった……?」
構えていたリボルバーを下ろし、カリンは深く息を吐いて尻もちをつくように地面にへたり込んだ。周囲を見渡しても、動くものはない。
エミリーも同じく銃をホルスターに戻すと、墓地の境界を示す石によろよろと腰掛けながら、努めて冷静な顔で頷いた。
「ええ。恐らくは」
「お嬢様、お怪我はございませんか?」
ハリーがシャーロットに駆け寄り、そっとその体を抱き起す。
「……ええ。大丈夫です、ハリー。少し泥がついただけ。死体に触れなかっただけでも運が良かったですわね」
シャーロットはそう答えながら、静かに墓地を見回した。
「葬送にしては随分と賑やかでしたわね」
「はい、お嬢様。国葬と比べても数十倍の弔砲は撃たれましたよ」
エミリーが肩をすくめるのとほぼ同時に、ロイが墓地の中を避けるようにして戻ってきた。地面には、無数の死体が転がっている。
「ま、事件そのものは終わったわけだ。あとは、こいつらだな」
腕を組んだまま若者たちに視線を向けると、彼らは一様に肩をびくりと震わせた。
「俺たちはただ……」
「ただ?」
カリンが膝に肘をついたまま、続きを促す。
ピカピカのリボルバーを握った彼女の視線に、若者たちはお互いの顔を見合わせ……そのうちの一人が、おずおずと口を開いた。
「ただ、山の南で鉱脈がみつかってからこっち、村によそ者が増えて……」
若者は伏し目がちに語り続けた。
鉱山師や測量師が次々に入り込み、道具の置き場、宿場、井戸の使い方にまで口を出し、村人たちとの衝突が絶えなくなったという。
「……だから、ちょっとでも“噂”になれば、誰も来なくなるんじゃないかって……」
「よくある話だな。掘り出し物の土地に人が群がる。だがそれが死体が暴れ出す理由にはならん」
ロイが冷たく言い放つと、若者の一人が唇を噛み、口を開いた。
「こいつ、ロメロのじいさん……祭司様だったんだ。死んだあと、家を片づけてたら、地下室から……」
「これを見つけたのですね?」
エミリーが拾ってきた古い書物を若者たちに優しく差し出した。
若者の一人が、エミリーの手元にある古びた革表紙を見て、ごくりと唾を飲んだ。
「ああ……それだ。ロメロのじいさんが死んで、家を整理してたときに……地下室で、よくわからない祷具と一緒に見つけたんだ、木箱の奥で」
「クレオ語で書かれた古文書ですね。私には読めませんが……察するに、呪文か儀式が載っていたと?」
エミリーの問いに、若者たちは顔を見合わせ、誰かが言い訳のように答えた。
「……儀式ってほどじゃなかったんだ。死者の声を聞くとか、魂の安寧を祈る言葉とか……罪人に働かせる方法だとか、そんなことが書いてあって」
「読めたのか?」
ロイの声が鋭くなる。
「少しだけ。読めないところは想像で……」
「想像で? その状態で儀式を?」
呆れて言葉もない。とばかりに帽子を押さえて天を仰ぐロイの代わりに問いかけたハリーの言葉に、若者たちは沈黙で答えた。
「なんだってそんなことを? 死体の使役などホワイトチャーチの地下魔術師でも手を出さないような外法ですわよ」
エミリーが呆れたように溜息を吐き出し、ハリーも渋い顔をして頷いた。
「だって、死体が歩くような村って噂になれば、よそ者も近寄らなくなると思ったんだ。だから、ほんの少し驚かせるつもりで……」
「それで、新しい家にだけ魔法陣の落書きがあったわけね」
カリンはリボルバーをくるくると指で回しながら、苦笑とも呆れともつかない表情を浮かべ、「……バカみたい」と吐き捨てた。
そこにはもう、何の脅威もなかった。
「本当は一人か二人起こして、噂になったら墓に戻ってもらうつもりだったんだ。だけどロメロが制御できないって言いだして、どんどん他の死体が起き上がってきて…」
「……でも、このままじゃ、村そのものが鉱山会社に買われるかもしれないだろ?! じいさんたちが拓いた土地を、ただじゃ……」
「だからって、その爺さん達で脅すことはないだろうに……」
ロイが肩をすくめながら傍らに倒れていた死体を足でつついた。
「だって!……でも、まさかこんなことになるなんて……」
若者たちは互いに顔を見合わせながら、次第に涙声になりながらそう答えた。
「……まぁ、鉱山会社もこれじゃ尻込みしますわね。死人が起きる村なんて誰も住みたくないでしょうし」
シャーロットは溜息を吐き出して言った。
「はい、お嬢様。噂は忌避される前に、恐れとともに広がります。鉱山会社が撤退するには、十分すぎるほどです」
「鉱山まで線路を引くでしょうから、その付近に新しく村ができることになるかと……」
ハリーとエミリーもそれに同意すると、青年たちの表情はほんの少し明るさを取り戻した。
だが、ガスッ、と地面にスコップが突き刺さる音が響いた。
現実へと強制的に引き戻されたように、彼らの肩が再びすくむ。
「お前らを保安官に突き出してやってもいい。だが、賞金首でもないガキどもを、カスタード山脈の州立刑務所に叩き込んだところで、ここにいる人間の気が晴れるくらいの価値しかない」
スコップに足をかけたロイは、わざとらしく重々しく言い放った。だがその口元は、どこか苦笑いを隠しているようにも見えた。
とはいえ、若者たちは再び顔を見合わせ、死人のように蒼ざめた
「ちょっと、ロイ……」
「そこでだ……」
ロイは墓守小屋に立てかけてある掘削具を親指で示し、にやりと笑った。




