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「婆さん、この人は?」
「あら、その刺繍……四軒隣に住んでた婆さんさね。ミリエルさんだったかねぇ」
若者たちが示した死体の衣の端から、素朴な刺繍の布が覗いている。
「ミリエルばあさんだってよ!」
「ミリエルってどのミリエルだ!?」
バンダナで顔を覆った若者たちが喧しく死体を埋葬しなおしている。
その様子を墓地の外から見守りつつ、カリンは門柱のひとつに腰をかけた。
小さく伸びをして鼻をつく腐臭に、思わず顔をしかめる。
「悪いな。無関係なのに」
「いいんですよぉ。あの子たち、村を守ろうとしたんでしょう? ママンのお腹の中にいたころから知ってますよ、悪い子じゃないんです」
宿の主人であるジアンゴ系の老婦人は相変わらず人のよさそうな笑顔でそう答えた。
「それにしても、びっくりしましたよ。私がンズンビを見たのはまだほんの子供の頃の話ですからね。あれはね、きちんと修業を積んだ司祭様でも難しい技術です。あの子たちには、ちょっと重すぎる代物だったんでしょうねぇ」
カラカラと笑う老婦人にロイも苦笑して、墓地の柵に背を預けた。
「あんた、大物だな。俺があんたならもう腰を抜かして引っ越してる」
「そりゃあ、腰はもうとうに抜けてますよぉ。なにより、あたしが山にたどり着くまでの若いころには、もっとおっかないもんを山ほど見てきましたからねぇ」
老婦人はそう言って、くしゃくしゃの顔にしわをさらに寄せた。
「……ンでもまあ、あんな姿になるとは思いませんでしたけどねぇ。死んでまで誰かに操られるなんて、可哀想な話です」
「ま、こんな辺鄙な村にしちゃあ、立派すぎる『自然災害』だな」
「災害、ねぇ」
カリンは眠気にあくびを噛み殺しながら、小さく首を振り、指でこめかみをこすった。
(事件なら州法違反。だが自然災害に犯人はいない……まぁ、連邦捜査局も暇じゃない。納得するさ)
ロイのそんな言葉が、カリンの頭の奥で反響していたが、カリンのまぶたはじわじわと重くなっていく。
やがて頭が傾き、舟をこぎ始めた。
「ですが、お優しいんですねぇ、あの子たちを見逃した上にこうしてお付き合いいただけるなんて」
「この件が賞金がらみだったら今頃あいつらは保安官事務所だな」
ロイが肩をすくめてだいぶ数が減ってきた死体へ歩み寄ると、代わりにカリンがハッと目を覚まして顔を上げた。
「っとと……ねぇ、おばあさん、あいつらはどうしてる?」
ぼんやりと夢の続きに意識を引きずられながらも、カリンは隣の老婦人に声をかける。
「お連れさん方ならお部屋ですよぉ、設備をお貸ししたらお風呂を用意してらしたから今頃はぐっすりでしょうね」
カリンはその言葉に頷いてよっと、座っていた墓地の入り口から飛び降りてロイに歩み寄った。
「ねっ」
「先に戻ってろ」
ぶっきらぼうに告げられた言葉に微笑むと、カリンはロイに寄り添うようにもたれかかった。
「ううん、ここで寝てる」
「……勝手にしろ」
二人の様子に気づいた若者たちは、互いに顔を見合わせる。鍬を振るう手が、ほんの一瞬だけ止まった。
老婦人が朗らかな笑みを浮かべる中、ロイは小さくため息をつくと、自分のダスターコートの裾をそっと広げ、寄りかかるカリンの肩を包んだ。微かに身じろぎした彼女の体温が、布越しに静かに伝わってくるのを感じながら、ロイは周囲の視線に苦笑を浮かべるのだった。




