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1-4

 そうしてしばらくの間、二人は無言で歩き続けた。

 放牧地を超え、境界を示す有刺鉄線の小さなほころびを抜けて、何処までも続くグレートプレーンズの草原を月と星だけを頼りに歩く。

 あっという間に一時間ほどが過ぎ、もうすぐ二時間も歩いただろうという頃、少女が再び口を開いた。


「あいつ何処まで行ったの? まだ見える?」

「いや」

「は?」


 振り返りもせずにあっけらかんと答えた男に、少女は思わず立ち止まり声を上げた。


「うそでしょ?」


 足を止めない男の背中に追いすがりながら、少女は恨みがましい声を上げた。


「じゃあ、このただっぴろいグレートプレーンズを隅から隅まで探そうってわけ?」

「そうだと言ったら?」


 男は淡々と少女の質問に答えていたが、時折立ち止まり折れた低木の枝や、地面に手を当てる。

 そんな男の態度に毒気を抜かれてしまったのか、少女は再び溜息を吐き出して男に並んで歩き出した。


「それで、旧大陸の連中みたいに魔法探知の呪文でも使ってくれるの?」


 男は皮肉たっぷりな口撃にも顔色一つ変えなかったが、不意に目を細めて少女の言葉を手で遮り素早く木陰に隠れた。


「どうしたの?」


 続いてその陰に隠れる少女にもう一度黙る様にジェスチャーすると、男は腰のリボルバーへ手を伸ばした。

 男の態度に眉をひそめながら、少女がそっと木陰から顔を出すと……数十メートル先に小さな一軒家が見えた。


「うそ……」


 どうやらゴブリンは随分前に耕作が放棄された農家の廃墟を根城にしているらしく、古びた木製の小さな一軒家の中からはキィキィと喧しい甲高い声が風に乗って聞こえてくる。


「こっちが風下だ。ツイてるな」


 少女が呆気に取られていると、男は小声でそう告げて立ち上がった。


「えっ?」

「火薬のにおいがする。湿気ってなければまだ爆発するかもな。散弾を使うなら死んでも当てるなよ」


 言われてから少女はスンスンと風を嗅ぎ、ハッと表情を変えてショットガンを降ろし、ガンベルトに収められていたリボルバー拳銃を引き抜いた。


「どうして小鬼……ゴブリンが火薬を集めてるの?」

「食い物として集めたのかもな。ここからは鉄道も近い」


 少女がシリンダーからフェルトが抜け落ちていないか確認するのを待ってから、男は腰をかがめ、陰から陰へ這うように廃墟へ歩を進める。

 その背後に続くように、少女もゆっくりとその背中を追うように移動する。


「……なら、劣化してて爆発しない可能性もあるってこと?」

「試してみるか?」


 闇に紛れながら廃墟の入り口までたどり着くと、中からは興奮したキィキィという声と、何かが大量に腐ったような強烈な臭いが鼻をついた。

 朽ち果てた木造の一軒家には窓もあるのだが、厚い油紙でできていて中を伺うことはできない。


「ううん、やめとく。ここでクイズ。どのくらいいると思う?」


 かろうじてドアの役割を果たしている唯一の出入口である木の板の左右に張り付き、少女が緊張した表情で囁くようにつぶやいた。

 が、男は首を振り黙ってリボルバーの撃鉄を起こす。

 ドンっ!

 少女が習って準備したのを確認してから、男は薄い木の板を……文字通り蹴り倒した。

 暗闇に光る目が一斉に入り口を向き……一瞬の静寂が訪れる。


「正解は12匹だ」


 男の言葉に反応するように廃墟にゴブリンの悲鳴が響き、何処までも続く荒野に獲物を襲うオオカミの吠え声の様に銃声が轟き渡る。

 きっと、離れて見ていたものがいたら真っ暗闇の中、落雷の様にマズルフラッシュが何度も室内を照らすのが見えただろう。

 続けざまに響いていた轟音もやがて静かになり……硝煙の匂いが鼻を刺す中、ようやく新大陸の荒野に平穏が訪れた。


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