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1-3

……数時間後。

 夜風に乗って漂ってくる不快な臭いに顔をしかめ、少年が目を開けた。


「来たね」

「どうやら鼻は塞がってないらしいな」


 いつの間にか起きていたらしい男が重そうな荷物を抱えて厩舎から歩み寄ってくる。


「ランプは?」

「必要ない。目を慣らしておけ」


 鞍から下ろしてきたのだろうショットガンと弾帯を投げ渡された少年は、淀みなく動作を確認する。


「ナイトヴィジョン(暗視ポーション)でやるの?」


 水平二連の銃身を軽く構えた少年が、姿勢を崩さず問いかける。が、男は答えずあくびを噛み殺しながらレバーアクションライフルへ初弾を送り込んだ。


「ねぇ……」

南部そっちじゃ小鬼狩りに250ドルのポーションを持ち出すのけ?」


 わざとらしい南部訛りで煩わしそうに答えたのち、男はライフルを手に納屋の入り口を覗き込む。


「へぇ、北部人は夜目が利くんだ? 機械油か石鹸の匂いで気が付かれない?」


 皮肉を返しながらも、男と反対側の扉に身体を預けるように少年がついた。


「この辺は人間の匂いだらけだ。それに怯えないし注意を払わないから、俺たちにも気が付けない」


 そう言った後、再び喋ろうとした少年を一瞥する。

 鋭い視線に肩をすくめながら、意図を指した少年は「了解、パパ」と皮肉っぽく呟いた。

 そうして、じっと目を凝らしたまま乾いていた風が完全に冷たい夜風に変わったころ。

 納屋の中がドタドタ、ギィギィとにわかに騒がしくなった。

 男と少年が視線を交わし、両開きの扉の隙間から室内へなだれ込んだ。

 バンッ

 暗闇を切り裂くようなマズルフラッシュと共に少年のショットガンから散弾が飛び出し、蠅のたかる牛の死体を運び出そうと奮闘していた小柄なモンスターを肉片に変える。

 それからは正に一方的な駆除であった。

 マズルフラッシュが暗闇を照らすたび、ゴブリンのどす黒い血しぶきが上がり、断末魔の悲鳴が農場の夜にこだまする。

 反撃もできずに手にしていた粗末な武器を投げ出し、入ってきた壁の穴から一斉に這い出そうと四苦八苦するゴブリンたちの背中をレバーアクションライフルが正確に撃ち抜いてゆき……

 いつの間にか自分たちで必死に開けたであろう壁の穴には、同胞の死体が詰まってしまっていた。

 悲痛な悲鳴を上げながら無残な仲間の死体の周りを逃げ回る血なまぐさい光景は、彼らの小柄な体躯も相まって、まるで怯えた子供の様に見える。

 が、数分もたたずに納屋の中に動く影はいなくなっていた。


「……終わった?」


 呟きながら少年がショットガンのレバーを操作すると、パカッとショットガンが二つ折りになり、煙を吐き出すショットシェルが銃身後部から排出された。

 斜め掛けしていた弾帯から取り出した次弾を押し込んで二つ折りになったショットガンを正しい位置に戻し、腰だめで構えたままゴブリンの処刑場へとゆっくりと歩み寄る。


「っ!」


 瞬間、その隙を待っていたかのようにギィッ!っと、死体の山から一匹のゴブリンが飛び出し、粗末な刃物を下から振りぬいた。

 月明りを不気味に反射する刃こぼれしたのこぎりの様な刃が少年の日焼けした形の良い鼻先をかすめ、帽子をはじき飛ばす。


「こいつ!」


 バンッ

 とっさにショットガンの銃口を向けて引き金を絞る。が、無数の散弾はゴブリンの足元の土塊を吹き飛ばした。

 その破壊力に完全に戦意を喪失したらしいゴブリンは、少年と片側の銃口から煙を立ち昇らせるショットガンを抑える男の脇をすり抜けて一目散に入り口から走り抜けていった。


「どうして!」


 少年が食ってかかるが男は意に介さず、地面に落ちた帽子を拾い上げ……シルバーブロンドの長い美しい髪に被せた。


「なかなか反応と手が速いじゃないか。まぁ、落ち着けよ、お嬢さん」

「……どうして止めたの?」


 帽子から男の手を払いのけた少年。いや、少女が視線で射殺さんばかりに赤みの強いブラウンの瞳を向ける。


「貴重なツアーガイドだ。殺されちゃ困るからな」

「ツアーガイド?」


 涼しい顔で答えた男に、少女は少し考えた後オウム返しするように聞き返した。

 男は肩を竦めながら納屋の外へ歩き出すと、月明りの中に目を凝らし、すでに豆粒のようになったゴブリンの背中を見つけた。


「さぁ、行くぞ。見失ったらことだ」

「ちょ、ちょっと待って!」


 少女は慌ててスリングに肩を通してショットガンを担ぐと、男を追って走り出した。


「場所の目星はついてるの?」

「この辺に土地勘は?」

「ないよ! 来たばかりだもの」

「俺だってそうだ」


 憮然として言い放つ男に少女は唖然としたような表情を向けたが、男は気にせず歩き続ける。


「じゃあ、あいつは何十キロもこのまま逃げるかもしれないってこと?」

「ああ、そうだ」


 煩わしそうに答えられ、少女は思わず立ち止まった。


「じゃあ馬を……」

「アイツらは小柄ですばしっこい。それに今は血が沸騰してて勘も効くだろう。馬じゃ追えん」


 男が振り向いてからきっぱりと言い放つと、少女は額に手を当てて首を振った。


「へぇ? じゃあ、このまま何処までもついていくしかないってこと?」


 男は少女の憮然とした態度を意に介さず、先を急ぐぞ。とばかりに小首をかしげるとさっさと歩きだした。

 少女はそんな背中を見送りながら腰と額に手を当てていた唸っていたが、すぐにため息を吐き出して歩き出した。

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