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1-2

 開拓村から南へ一時間程、なだらかな丘が一面に広がる放牧地。

 その一角に、低い柵で囲われた農場があった。

 周辺では牛たちがのびのびと草を食むのどかな風景が広がっている。

 だが、中央に見える大きな納屋の周囲にはそんな風景には似つかわしくない銃を持った男たちがたむろしていた。


「止まれ! あんたらは?」


 農場の入り口を抜けると、ショットガンを持った浅黒く日焼けした歯のない男に呼び止められた。


「ギルドに害獣駆除を依頼しただろ?」


 馬から降りながらダスターコートを軽く開いて見せ、ガンベルトに縫いつけられたバッチを見せる。


「そっちのガキもか?」

「……」


 少年は答えなかったが、ポンチョの留め具としてついたピカピカのギルドのバッチに、男は納得したように銃を降ろした。


「OK、悪いな兄弟。最近牛泥棒が出るってんでピリついてんだ」

「泥棒? 小鬼じゃないの?」


 ペッと噛みタバコの混じった唾を吐き出した男へ、少年が口をはさむ。


「ヘッヘッヘッ、ゴブリンが生きた牛を盗むかよ、坊主。もっとも、奴らが牧柵を壊して暴れたせいで怯えて逃げたんじゃないかって……おい、ヘイス! このべっぴんさんがたを厩舎まであんないしな。来な、ボスが気をもんでる」


 二人が馬から降りると、歯のない男は若いカウボーイを呼びつけると二人の馬の手綱を乱暴に押し付けた。

 若いカウボーイは不機嫌そうな表情を浮かべながらも、手綱を引いて馬を厩舎へと誘導する。

 歯の抜けた男はその様子に鼻を鳴らすと、二人を農場の奥にある大きな納屋へと案内した。

 納屋の前には、幾人かの武装した農夫たちが寄り集まり、深刻な面持ちで何事かを話し合っていた。


「ロブ! その二人が冒険者ギルドか? やっぱり! 私がマーカスだ! 会えてよかった。ほれ、見てくれ」


 その中の一人、年配の背の低い男が、三人の姿を見て駆け寄ってくる。

 そうして、怒涛の勢いで歯の抜けた男から案内を引き継ぐと、この牧場の主は安心したような笑みを浮かべながら男の手を握り、かと思うと挨拶もほどほどに納屋の扉を開けた。

 中は思ったよりも広く、暗がりの中に干し草や木箱が積み上げられているが、隅の方には蠅のたかる家畜の死体がいくつも横たわっており、その中に混じるように、小さな異形の死体が放置されていた。


「ああ、間違いなくゴブリンだな」


 不快な臭いに顔をしかめつつ、納屋の床に目をやりながら男が呟くと、年配の男はうなずきながら説明を始める。


「そうさ。奴らは夜中に現れて、家畜を襲ったんだ。物音に気付いた若い連中が何体か撃ち殺したが、なにせ数が多くてな……」


 年配の男の声には怒りがにじんでおり、失った家畜の痛手が伝わってくる。


「こういうことは多いの?」

「ここのところ毎晩さ。先週までは放牧地の端っこがちっと荒らされる程度だったのが、昨日は納屋の壁も壊されて牛が数頭逃げちまった。その上、あいつら、火も気にしなくなってきやがったんだ」


 話を聞きながら、少年は真剣な表情で死体の山の側に膝をついて家畜の死体を見つめていたが、臭いに耐えるためにマスクの様に鼻まで引き上げていたポンチョを引き下げながら立ち上がった。


「……小鬼の群れが、人間の集団に怯えずに動くなんて。ちょっと厄介だね」


 少年の言葉に頷くと、男は湿った納屋の地面に残された入り乱れる足跡を目で追い……肩をすくめると納屋の外に歩き出した。


「どうした? なぁ、あんた!」

「ゴブリンはこれだけの獲物をしとめたのに放置はしない」

「……マーカスさん、仕事が終わったらなるだけ早い時間に家に入って窓を閉めて。皆にも伝えてもらえる?」


 何か言いたげな農場主を遮り、少年が助言をする。


「まぁ、なんだ。アンタらプロに任せるよ。ほれ、仕事に戻るぞ!」


 雇用主の号令に雇われ農夫たちは銃を下ろし、やれやれとそれぞれの仕事に戻っていった。


「で、どうするの?」

「言ったとおりだ。奴らはすぐに戻ってくる」


 どこか牧歌的な風景を愛おしそうに見送りながら少年が尋ね、給水塔の脇に置かれた農夫たちの休憩用ベンチに横になった男は帽子を顔に被せて大きく息を吐き出した。


「OK。じゃあ、小鬼と根競べだ?」


 少年も同じように日陰を選んで腰を下ろすと、フロンティアの風に頬をくすぐられながら目を閉じた。


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