6-2
「本当に来たんだね」
翌日。
「いらしていただけると信じておりましたわ」
約束通り、サルーンの前に止められたフロンティアには似つかわしくない豪奢な装飾。
窓枠には金の装飾が繊細に施され、漆黒の木材で形作られた外装は、陽の光を鈍く反射していた。
泥にまみれたフロンティアの開拓街に、舞踏会の招待状が迷い込んだかのような馬車。その中で優雅に待ち構えていたシャーロットに、カリンは不機嫌を隠さず舌打ちを放った。
「連邦政府が絡んでるなら蹴るのは得策じゃないからな」
そう言いながら装飾の施された馬車の踏み板を泥だらけのブーツで踏み、ロイは無遠慮に踏み込むように馬車に乗り込んだ。豪奢な内装に興味を示すこともなく、あたりを一瞥しただけだった。
「さあ、カリン様もどうぞこちらへ。ご遠慮なさらずに」
シャーロットの言葉にカリンは一瞬口を開きかけたが、結局何も言わずにロイの差しだした手を取って馬車に乗り込む。シャーロットはその姿を見て、穏やかに微笑みを浮かべた。
そうして二人が乗り込むと、馬車はすぐに出発した。
「どのくらいかかるの?」
舗装もされていないフロンティアの悪路を驚くほど静かに走る馬車の中で、腕を組んだカリンが口を開いた。
「道が悪くてございますので、馬車なら半日ほどかかりますわ」
ロイの対面に座りなおしたシャーロットが、微笑みながら答える。
馬車の内部はまるで小さな応接室だった。向かい合う深紅のソファに、ロイとカリンは身を沈め、向かい側でシャーロットが優雅に微笑んでいた。
「バットランズとの境か……」
「ええ、この時代に未だに州境がはっきりしていない理由の一つですわ」
ガラスのはまった窓から外を眺めるロイに、シャーロットが向きなおった。
「相変わらずろくでもないことばかり起きるところだな」
「でも、ゴブリンなんかがバットランズに押し込められてるからこの辺の農場は安全なんでしょ?」
ロイが溜息をつくが、カリンが首を突っ込む。
「ええ、それも一因ですわね」
シャーロットは窓の外に目を向けながら頷いた。
「ゴブリンやオークのような怪物がバットランズに押し込まれていることで、この辺りの開拓地が守られているという側面もあります。ただ、それが完全な防壁になるわけではありませんの」
「だから……出てきたやつをやっつけるのが私たちの仕事でしょ?」
カリンが怪訝そうに問いかけると、シャーロットはカリンに向き直った。
「流石はカリンさんですわね。ではロイ様はどう思われます?」
「……俺達がくいっぱぐれてない程度には防塁は穴だらけってわけだ」
装飾の施された窓枠に肘をつき窓の外を眺めたままロイが興味なさそうに答えた。
「まさに! その穴の一つが今回のお話ですわ」
シャーロットが我が意を得たりと手を合わせ、傍らに置かれていたバッグから見覚えのある書類の束を取り出した。
「……姿を消した開拓者たち、血痕だけが残された村、そして……」
「そして?」
シャーロットが書類をめくりながら呟くのにカリンが相槌を打つ。
「浪漫! やはり、冒険者たるもの未知に踏み込んでこそですわ!」
「……着いてくるんじゃなかった」
ロイが深いため息をつき、カリンが脱力したようにロイのダスターコートに頭を預ける。
その時、馬車の揺れに合わせて書類から零れ落ちた一枚のスケッチ……赤い幾何学模様が、窓から差し込む陽光に反応したように、微かに脈動しているように見えた。
誰の目にも映らなかったが、それを見た誰もが、言い知れぬ不安を覚えるような雰囲気だった。




