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5-5

 深夜、歴史の傷痕に焚火の明かりが踊り、立ち上る香の煙が夜闇に溶けていく。

 転々と炊かれる焚火の中心に、羽根飾りをあしらった衣装をまとったハロナが目を閉じ、静かに立っていた。


「ねぇ……」

「どうした?」


 そんな焚火と香炉のサークルを遠巻きに見ながら、カリンは朽ちた荷馬車によりかかって腕を組むロイに小声で尋ねた。


「先住民とギルドの契約ってなんなの?」

「……旧宗主国からの独立戦争は知ってるな?」

「うん」


 ロイはハロナから目を離さずに、場の空気を壊さないように小声で答える。


「それ以降も何度も新大陸では戦争を繰り返してきた。ギルドの歴史は戦争そのものでもある」


 カリンは少し驚いた表情でロイを見上げたが、彼の視線は焚火の光の中に佇むハロナに向けられたままだった。


「旧大陸の革命からこっち、旧大陸にもクレリックやウィッチが少ない。ましてやこっちじゃ言わずもがなだ。それでも、ギルドはゴーストに対応できる人間が必要だったわけだ」

「……それが先住民のウィッチ?」


 カリンが首をかしげると、香炉に交じってハロナを中心にふわふわと光が渦巻き始める。

 まるでホタルの群れのような幻想的な光景に目を細めながら、ロイも頷いた。


「でも、先住民と軍隊は何度も戦争してるんでしょう?」

「……ああ。だが、ギルドは少なくとも建前上では平等だ。基準を満たせば誰でも登録できるし、依頼の報酬も、まぁ……適正価格だ」

「それで、先住民と交渉を?」

「東部のギルド折衝要員は口が回る。捕まっていないだけで詐欺師と変わらん」


 ハロナの周りを回る光がだんだんと量を増やし、速度も上げていくのを見ながらロイは肩をすくめた。


「ギルドは部族の代理人として政府や州と交渉し、保留地を買い上げたり、永住地を保証したり……とりあえず取引相手としては誠実だった。先住民にとっては安全と安定、ギルドにとっては必要な力を得る。それが、公正な取引ってやつだ」

「でも、それでも協力しない事を選んだ部族は……?」

「ギルドは慈善団体じゃない。見返りがなければ保護も保証なしだ」

「もっと西に移住した?」

「『させられた』が正しいな。あるいは……」


 ロイは夜の冷えた空気を深く吸い込み、ゆっくりと吐き出すと、改めて光の輪の中に立つハロナを見た。

 ハロナはまるで星々の中心に立つように、静かに両手を広げた。

 カリンはその言葉を胸に沈めながら、焚火の周りを回る光が増えるのを見つめた。

 噴水のように光が舞い、まるで夜空に星が降り注いでいるかのようだった。


「……どうした?」


 そう言うと、ロイは話を区切りハロナに視線を向けたまま暗闇に声をかけた。


「歴史の授業は終わったか?」

「ああ、案外出来のいい生徒だ」


 タイミングを待っていたかのように先住民の大男が暗闇から歩み出た。


「様子がおかしい。あれだけ精霊が集まっているのに一向に土地の霊魂が呼びかけに応じていない」

「まずいの?」


 カリンが立ち上がり形の良い尻に付いたいた泥を払いながら問いかけると、男は腕を組んだまま頷いた。


「土地の霊魂が応じないというのは、何か不安定な要因がある証拠だ」


 先住民の大男が低い声で言うと、ロイもさらに視線を鋭くして儀式の様子を見つめる。

 ハロナが目を閉じて何かを感じ取ろうとしている様子を見ながら、カリンも心配そうに周囲を見回した。


「だから! それって……」

「わからん。だが、まぁ、よくはない」


 ロイが帽子のつばを下げ、ゆっくりと組んでいた腕を下してガンベルトに触れた。


「だが、こういう時のために俺たちがいる」


 ロイが口にするが早いか、周囲には不自然なほど素早く、地を這うように濃密な夜霧が押し寄せた。

 視界を削ぎ、音すら飲み込んでいく。


「……数ある『良くはない』出来事の中でも、最悪だ」


 呟くと、大男も背負っているライフルではなく弓を持つ手に力を込め、腰の矢筒へ手を伸ばした。

 異常なほどの濃い夜霧が急速に広がり、まるで戦争の傷痕を覆い隠そうとするかのように立ち込めた。

 肌を濡らす夜霧と不自然に生温い夜風がカリンの日に焼けた肌を撫で、本能が警告を発するように肌が泡立つ。


「ロイ?」


 カリンがたじろぐように半歩引き、湿った風に紛れるように白い息を吐き出す。

 ポンチョを揺らしながら、フロンティアの夜の寒さに凍えるように震える手が自然とホルスターに触れた。


「……女の人?」


 カリンがホルスターへ手をやったまま掠れた声で小さく呟く。

 視線の先、26ヤード程の霧の中からゆっくりと姿を現したのは、カリンの言葉通りおおよそこの場には似つかわしくない白いドレス姿の女性。

 女性の浮かべる柔和な笑みにカリンが思わず銃に添えていた手を降ろす……が、すぐそばで痛いほどの静寂を爆音が引き裂いた。


「ちょ、ちょっと!?」


 カリンが思わず振り返るが、ロイはヒップショットの構えで、いつもの愛銃ではない大柄のリボルバーから黒色火薬特有の煙を立ち上らせながら、先端を霧に向けて揺らした。


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