5-3
「それで、なんだっけ? 戦争の跡地?」
キャンプを出て馬を走らせながらカリンが隣を行くロイに声をかけた。
「もういいのか?」
「何が?」
眩しいフロンティアを遮る様に帽子を深くかぶり、あくびを噛み殺しながらロイが答え、カリンが怪訝そうに首をかしげる。
「”ご機嫌斜め”だっただろう?」
「それは……」
「俺も南の流儀はよく知ってる」
カリンが言葉を濁して帽子をいじる。
だが、ロイはあまり興味なさそうに手綱を操作しながら答えた。
「ここは自由の国だ」
「だったら……どうしたの?」
表情を変えずになんでもないようにカリンが呟く。
「どう取ろうと自由だ。だが、冒険者としてやっていこうと考えてるなら……」
「……ごめんなさい。大人げなかった」
蹄の音にまぎれるように溜息を吐き出しながらカリンは素直に口に出した。
「ただ、慣れなくて。まだローティーンくらいの女の子が家族以外の男と、その」
「ああ」
言葉を選ぶように区切るカリンに、ロイは視線を前にやったまま相槌を打つ。
「それに、あなたがずいぶん気に入られてるみたいで……」
「悪いことじゃない」
「それは! ……そうだけど」
カリンは一瞬声を荒げたが、すぐに口を尖らせた。
「あなたはいつもそうだよね」
カリンがそう言うと、ロイはわざとらしく大きくかたをすくめ、手綱を緩く引くと周囲を見回す。
そんな彼の態度に小さく息を吐き出し、カリンも馬の速度を少し緩めた。
「俺にはこんな顔しかない」
「……嘘」
小さくつぶやいたカリンの言葉が聞こえたのか、聞こえていないのか。
ロイは斜め掛けしていた革の鞄から地図を取り出した。
「依頼は内戦の跡地でのゴーストハントだ」
「……うん」
わざとらしく切り替えられた話題に、カリンも大人しく従う。
これ以上の追及は無意味だろう。カリンは目先の危機に対応するため首を振って気持ちを入れ替えた。
「ギルドの話じゃ近くを通る行商や旅人が襲われて、相当数の被害が出ている」
「それで?」
カリンが続きを促すと、ロイは地図から顔を上げ、先を行く先住民の集団に目線を向けた。
「ゴースト相手ならウィッチの出番だ」
「さっきからウィッチって、ああいうのって祈祷師っていうんじゃないの?」
大男と二人乗りしながら振り向いたハロナが手を振るのに、手を振り返しながらカリンが疑問を口にした。
「それに、内戦跡の幽霊って……私が生まれるより前の話でしょ?」
「気の長いやつもいるんだろうさ」
答えになっているようななっていないようなことを言いながら地図を鞄にしまいなおし、ロイは再び馬の足を速めた。
「ウィッチの準備もある。日が沈むまでには着きたい」
「あっ、ちょっと!」
一緒にしばらく行動して分かったが、ロイはどうもカリンを危険から遠ざけようとするきらいがある。とカリンは考えていた。
『なんでも自分の中で片付けちゃって……私には、見せてくれないんだ』
そんな思いを噛み殺すように、カリンはそっと唇をかんだ。
それが自分だけなのか、あるいは共に行動する者全員にそうなのか? 心の中で呟きながら、カリンも馬の足を速める。
フロンティアの風が、カリンのポンチョを軽くはためかせた。
彼女はそれを無意識に胸元で押さえながら、ロイの背を追った。




