5-2
いつもとは逆転した順番でカリンの後に続いて、ロイがハロナを片腕に貼り付けたままテントの入り口をくぐり……向かって正面の定位置に座る老人に頭を下げた。
「よくぞ来られた、戦士」
テントの奥に座る老人は、彼らを一瞥し、深い声で言った。
ランプの明かりのみが照らすテントの中、先住民の衣装に身を包んだ老人は揺れる炎も相まってなおさら神秘的に映る。
「お久しぶりです、首長」
「ギルドの用向きは分かっておる。だが……」
毛皮の敷物の上で胡坐をかき、腕を組んで渋い顔をしていた大男が腕を組み直しながら老人に続いて口を開く。
「祈祷師は偉大なる祖霊の下へ帰られた。つい昨日のことだ」
「どういうこと? グレートスピリッツって?」
先に腰を下ろしていたカリンの隣に座ると、カリンが小声で問いかけてきた。
「俺たちはタッチの差で寿命に負けたってことだ」
カリンに答えるようにロイが言うと、テント内に重苦しい沈黙が落ちた。
「だけど、仕事だ。ウィッチは貸してもらいたい。首長、次代のウィッチは誰が……」
「そこにおる」
老人が指で示した先に二人の視線が同時に注がれ……
「ギルドとの約定は果たされねばならん。そこのハロナを連れてゆくがよい」
数分後、テントを後にしたカリンは振り返り、後から出てきた人物に手を差し出した。
「ハロナです!」
「カリンだよ、カリン・オハラ」
笑顔で挨拶するハロナにカリンが手を差し出し、ハロナもその手を握り返す。
「言葉、上手だね」
「ギルドと契約してる部族には学校も宣教師様も用立ててくれるでしょ? だから、部族の言葉を話せる子は少ないんだ。私はお役目を継がなきゃいけなかったから祈祷師様と修行して部族の言葉も覚えたけどね」
カリンとハロナの楽しげな様子を横目に、続けてテントから出てきた男たちは渋い顔をしていた。
「あの子の経験は?」
「祈祷師に何度か帯同している」
「一人では?」
「初めてだ」
その答えにロイはため息をつき、帽子を目深に被りなおした。
「危険だぞ」
「私と戦士が数名帯同する。なにより貴様が共にあるなら問題ない」
目元を隠したまま小さくつぶやいたロイへ、大男は両手を組んだまま無表情で答える。
「……すぐに発ちたい。同行する奴をまとめてくれ」
「ああ、そうしよう」
そう言って集落の外へ立ち去る背中を見送り、ロイは繋いでいた馬のサドルからブリキの水筒を取り出して蓋を開ける。
「ねぇ、ロイ!」
汲みなおす前に一旦中身を飲み干していたロイへ走り寄り、ハロナが楽しそうに声をかける。
「どうした?」
「今回はどこへ行くの?」
蓋を閉め、馬をなでながら答えたロイに、ハロナが可愛らしく首をかしげながら問いかける。
「そう遠い場所じゃない」
どこか優しい声色で答え、水筒を抱えて水場に向かうロイに、ハロナが瞳をキラキラさせながら着きまとう。
「カリン、彼女の相手を……」
ロイは溜息をつきながら振り返り、先ほどまでハロナと談笑していたカリンに声をかける。が……
「久しぶりなんでしょ? お話してあげたら? 先に水汲んでおくね」
顔は笑顔ながらも少し尖った声色でつっけんどんにそう言い放つとロイの隣をさっさと歩き去ってしまう。
その態度に再び大きな溜息を吐き出し、ロイは手にしていた大きな水筒の紐をぶっきらぼうに肩にかけた。
「ねぇ、ロイ」
カリンの背中を見送っていたハロナだったが、歩き出したロイに小走りで追いつく。
「カリン、どうしたの? もしかして」
瞳を輝かせるハロナにロイは小さく首を振った。
「いや……ただ」
「ただ?」
「古風なだけだ」
ロイは答えると小さく鼻を鳴らし、振り返らずに水場に歩きだす。
そんな背中を見送りながら、ハロナは「古風?」と小さく首をかしげたのだった。




