5-1
『公有地。 連邦及び州政府、または冒険者ギルドの許可のなき者の立ち入りを禁ず』
境界を示す古びた立て看板を横目に、ロイとカリンは馬を駆った。
腐葉土を蹴る蹄の音が響き、風と鳥のさえずりだけが静かに広がる森林を進んでいく。
「ねぇ、看板」
「大丈夫だ」
カリンが前を行くロイに声をかけるが、彼は振り返りもせずに短く答える。
カリンは慣れた様子で小さく肩をすくめた。
「でも、街で受けた依頼の場所とは方向も違うし……」
「……止まれ」
続けて質問をしようとしたカリンに手を上げて制し、ロイは馬を止めて両手をゆっくりと上げて見せた。
「何してるの?」
「ギルドか?」
「へっ? うわっ!」
疑問符を浮かべながらロイを見ていたカリンだったが、唐突に何もなかった周囲の木々の陰から弓やライフルを向けられて素っ頓狂な声をあげる。
かと思うと、隣のロイに視線を移し、慌てて両手を高く上げた。
「ああ。相変わらず時間に正確だな」
二人に武器を向ける集団のリーダー格らしい大男が低木の陰から歩み出ると、ロイが応じる。
身の丈6フィート半はありそうな大男は、筋肉質な腕を組み、まずカリンをじろりとねめつけ、それからロイに視線を向けた。
「貴様もそうだな、馬の戦士。そちらの女は?」
「連れだ。それより話は聞いているだろう、あんたの所のウィッチの手を借りたい」
「ああ、ギルドより使者が来た。だが……」
「だが?」
ロイが続けて問いかけると、男は少々歯切れが悪そうにしながらも背中を見せて歩き出した。
「とにかく、邑に行こう。貴様であれば祖霊も歓迎する」
男が片手を上げると、周囲を囲んでいた戦士たちが武器を降ろした。
二人も馬を降り、先導する男に導かれて獣道をなぞる様に森を歩きはじめた。
すると、唐突に森がぱっと開き、明るい日差しの下、装飾の施されたいくつものテントが二人の視界に飛びこんできた。
典型的なフロンティアの開拓民の服装に、独特の装飾品を身に着けた女性たちが、境界を越えてきた二人を見つめている。
同じく飾り立てた子供たちは、興味津々といった様子で遠巻きにこちらを見つめていた。
「先住民?」
カリンは警戒した様子で周囲をうかがうが、ロイはむしろ普段以上に肩の力を抜き、肩をすくめる。
「ああ、彼らの部族はギルドとの契約で……」
「ロイ!」
二人が促されるまま馬から降りて手綱を柵に繋いでいると、付近のテントから白い影が飛び出してきた。
「おっと……」
カリンよりいくらか若く見える少女が、ブルネットの髪をなびかせ、キラキラした目でロイに駆け寄る。
先住民の衣装をまとったその少女は、幼さを残した顔に笑顔を浮かべ、ロイの腕に飛びついた。
「兄さんからあなたが来ると聞いて、楽しみにしてたの! また、外のお話をしてくれる?」
「ハロナ。後にしなさい」
「ちょっと……」
先ほどの大男が厳しい声で注意するが、ハロナと呼ばれた少女は気にせずロイにまとわりつく。
一方、カリンはどこか冷えた視線を二人に向ける。
「……なんだ?」
「何でもないよ、気にしないで」
カリンは貼り付けたような笑顔で言った。
そうして、追い抜きざま溜息をついた大男に促されるままに集落の中央のテントに入っていく。
「あの子、どうしたの?」
「気にするな」




