表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/45

4-4

「いいね、悪くない。 問題は?」

「いや、ない」


 女性は手入れされていないぼさぼさの赤髪を掻きながら満足そうに頷くと、油で黒ずんだ親指で滑らかに操作して弾丸を抜いて銃身を覗き込む。


「お嬢ちゃん、こいつは私の自信作でね。フレームから削りだしさ」


 言うが早いか、女性はシリンダーを引き抜き、手のひらで軽く転がした。


「アンドリュー&ウェスコットのモデル3。それを軍の天才ヨーク少佐が改良した.45ヨーク弾対応のシリンダー……ただし、コイツのトップブレイクはアンタら冒険者が持つにはちょいヤワでね。そこがガンスミスの腕の見せ所ってわけさ」

「は、はぁ?」


 矢継ぎ早に早口で繰り出される情報に、カリンが眼を白黒させる。

 だが、女性は銃を手にしたまま、気にせずカリンに歩み寄った。


「ほら、見てごらん、お嬢ちゃん。そもそもの機構をオミットして組みこんだ大型のリアサイト一体型の補強パーツで固定してやったんだ。コイツのおかげで親指一本で再装填できる上に……サイトもオリジナルよりずっとでかくて使いやすい。んー、私は天才だ!」

「リリー! 落ち着け」


 老人が首をふりながら女性に声をかけると、女性もはっと正気を取り戻した。


「っと、悪いね。私の悪い癖なんだ。銃のことになると、どうもね」


 カリンに軽く謝り、リリーと呼ばれた女性は銃を組み立てなおしてカウンターに置く。


「フレームに歪みもないし、咬み合わせの再調整は必要なさそうだ……で、そっちのお嬢ちゃんの銃だな? 今持ってるやつを出してみな」

「は、はい」


 すっかり気圧されたカリンがホルスターからリボルバーを抜いて差し出す。


「コヴェルのワイバーン。いい銃だ……使い込まれてるが、よく手入れされてる」


 各部を稼働させながら状態を確認していたリリーが、うんうんと頷いて見せた。


「化け物退治で自作のシルバー弾を使いたいってんならいい選択肢だぜ、お嬢ちゃん」


 そう言って微笑むそばかすの多い可愛らしい顔に、カリンも微笑んで頷き返して見せた。

 しばらく各部をチェックしていたリリーは銃をカリンに返すと、ずいっと身を乗り出した。


「だが、アンタら冒険者にゃそいつを装填したまま持ち歩くのはチト骨だろ? よし、お姉さんにまかせとけ」


 そういうと、リリーはカウンター内に戻り、壁に掛けられている無数の銃から迷わず一丁手に取り、磨き上げられたショーケースの中から一丁、さらにはカウンターの下からまるで宝石でも収められていそうな木箱を取り出した。


「時間はどんなもんだい?」

「3時だ」

「4時間弱か!それじゃ、ヨークはなしだな。コイツは本物のフロンティア男の銃だが、お嬢ちゃんなら手に余るってこたないだろうに」


 ショーケースに銃を戻し、リリーはカウンターに直接置いたリボルバーを手に取った。


「レムタイム.44口径。いい銃だ、コヴェルのニューモデルに対抗して数年前にレムタイムが売りに出したんだが……いまいちパッとしないな。だが、頑丈で弾はまっすぐ飛ぶ。文句なしにお勧めできる銃さ。ダメかい? よし、じゃあ次だ」


 カリンが首をかしげたのを見るなり手にしていたリボルバーをすぐに壁に戻すと、木箱をカウンターの正面に押しやる。


「いいかい、コイツは工業製品だが芸術だ。腰抜かすんじゃないぞ?」


 リリーが箱を素早く反転させ、カリンに向けて箱をもったいつけるようにゆっくりと開く。

 すると、箱の隙間から徐々にシルバーに光る独特なフォルムの銃が姿を現した。

 赤いビロードの内装材にぴったりと収められたそれは彫刻などないのにまるで美術品のように見えた。


「コヴェルのニューモデル。っつっても、発売は十年は前だが……とにかく、ここより西でコイツを買うなら一旦ばらして見たほうがいい。見てみな」

「う、うん」


 カリンはそっとリボルバーに手を伸ばし……緩いカーブを描く木製グリップをしっかりと握って持ち上げた。


「軽いね……」

「だろう? お嬢ちゃんのワイバーンよりはおおよそ1.7ポンドは軽いはずさ。弾はシリンダーの右後ろの蓋を開いて……そこ!そこだ!そこから出し入れする」

「弾種は?」

「わっ、ロイ?」


 いつの間にかロイがカリンの背後からのぞき込んでおりカリンは思わずつんのめる。が、リリーはにんまりと人懐っこく微笑んだ。


「.45ロングコヴェル。口径は変わらないが火力はあんたのヨーク弾より上だよ」

「リリーさん、この銃の名前は?」

「気になるかい? 見てみな、お嬢ちゃん」


 リリーがおもむろに木箱を閉じて見せると、ロイとカリンの視線が蓋に掘られた金装飾の飾り文字に注がれる。


「シングル、アクション……コヴェル?」

「ああ、コヴェルの傑作さ。そもそも、金属薬莢の特許が……」


 語り始めたリリーの言葉を聞き流しながら、カリンは店内に向けて銃を構える。

 銃の重みが腕に伝わり、独特な形状のグリップが彼女の手にフィットする。

 親指で撃鉄を起こすと、連動してシリンダーが滑らかに回転し……引き金を引いた指に合わせて、カチンっと乾いた音を立てた。

 何度か同じように引き金を引くたびに、しっかりと伝わる金属の感触に心が躍る。


「最高のリボルバーさ。触ってみりゃ、すぐに違いがわかっただろう?」


 カリンが頷いて銃を返すと、リリーはウィンクしてからカウンターから身を乗り出し、老人に聞こえないように耳打ちした。


「まぁ、気に入ったんならタダでといいたいが……」

「馬鹿を言うな、リリー!」

「ということで……そいつの値段、箱出し調整の手間賃に、お嬢ちゃんの手に合わせてグリップの調整。それから45ロングコヴェル対応のガンベルト……見るにこいつも調整が必要だ。そしてホルスター。 あとは弾を……」

「5ダース」

「あいよ。 5ダース付けて……こんなもんでどうだい?」


 ロイの口添えも受けながら、リリーがババっと銃のカタログの表紙に走り書いた数字の羅列がずいっと二人の目の前に差し出される。

 その数字を確認したロイは珍しく少し驚いた顔をしてから、カウンターによりかかり口を開いた。


「……随分安いな」

「お得意様へのサービスさ。将来的にゃうちでの消耗品の購入も考えてるからな」

「……健康な馬が二頭は買える」


 対照的に数字と銃の間で視線をうろつかせたカリンが呟いてロイを振り返った。


「好きにすればいい」


 ロイは首を振って答えると再び店内の物色を始めた。


「お嬢ちゃん、名前は?」

「あっ、カリンです。 カリン・オハラ」

「そうか、カリン。いい仕事道具はいい仕事の必需品だ。自分に合った道具を持つのは、命を守るためにも重要なことだぜ? こいつは私や冒険者でも変わらねえ」


 リリーの声は普段の穏やかなものとは違い、少し厳しさを含んでいた。

 だが、すぐに先ほどの人懐っこい笑顔に戻ると「売ろうとしてる私が言うのもなんだがな?」とウィンクして見せた。

 カリンはその言葉に後押しされ、再びカウンターの銃を構えた。標的に射撃するイメージを思い描き、ゆっくりと呼吸を整える。

 途端、昨日の列車の光景が脳裏によみがえった。

 生死の境の緊張感で喉が渇き、手が震える。

 だが……

 カチン。

 引き絞る様にトリガーを引き、撃鉄が落ちる。と緊張感から解放され、意識が店内に引き戻された。


「よしっ。じゃあ、買います!」


 カリンは深呼吸で呼吸を整えると、決意を込めた目で頷いた。


「商談成立だ!」 


 そんなカリンの様子に頷いたリリーは満面の笑みを浮かべて見せた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ