3-6
ロイが馬車から飛び降りたちょうどその頃。
カリンは愛銃である大型リボルバーへ弾を込めていた。
火薬をシリンダーへ流し入れ、文字通りの弾「丸」を落とし込む。
そうしたら、銃身下のレバーを操作し、弾丸と火薬をきちんと定位置まで押し込みフェルトの蓋をかぶせて封をする。それを六発分。
焦りを深呼吸で押しつぶし、なんとか装填を終わらせた。
「よしっ」
ホルスターに収め、通路に飛び出す。
その瞬間、移民客車前部の扉が開き、男が飛び込んできた。
途端、客車内にすし詰めになり、不安そうにしていた乗客たちのざわめきがうそのように聞こえなくなる。
前身の血管に氷が流れるように体が冷え、きぃーんと耳鳴りさえ聞こえた。
覆面をした男と目が合い、お互いにホルスターに手を伸ばしたまま……動けない。
『下手に先に動けば撃ち殺される』。
そんな呼吸すらままならない緊張感が二人の間を支配していた。
「ロスコさん、どうしました?」
続いて飛び込んできた声に反応し、二人は瞬時に同時に動いた……
バンッ
木の床に膝をつき、荒い息を吐いた。
乗客たちの悲鳴が響き、倒れた男、ロスコを乗り越えて、一人の女が現れた。
仕立ての良い紫のドレスを翻し、長いブロンド髪。
青い瞳を輝かせ、カリンに歩み寄る。
「まあ……!」
どこか間の抜けた良く通る声が響いた。
「あの早撃ちロスコに正面から勝ってしまうなんて、すばらしいです! あなた、お名前は?」
カリンは顔を上げ、女の青い瞳に映る自分を見た。
「か、カリン……」
「まぁ、カリンさん! わたくしは……」
ドンっと後部のドアが蹴り開けられ、駆けこんできたラッキーのリボルバーが火を噴いた
前方から続けて侵入しようとしていた覆面の男がつんのめる様に倒れ、ラッキーが叫ぶ。
「リッチィいいい!!!!」
「まぁ、ラッキー。あなたは相変わらず粗暴ですのね」
「り、リッチ? あなたが?」
「ええ、わたくしがリッチ。ワイルドバーンのリッチ・キャンディと申します。以後お見知りおきを」
カリンを抱え、銃弾を避けるように軽やかにカレン達のブースに踊り込んだリッチは、楽し気に微笑みながら窓を開け放った。
「待ちなさい!」
あんまりな自己紹介に呆気に取られていたカリンも銃を構えなおすが、長いブロンド髪やドレスの裾すら見えなくなっていた。
「クソッ! アイツは……上か!」
数秒遅れて飛び込んできたラッキーが窓から身を乗り出して銃を構える。が、完全に死角になっていて見えない。
「立ちな、カリン! カリン?」
銃を構えたままの腕をラッキーが乱暴に掴む。が、怪訝そうにカリンを見て……すぐに、小さく息を吐き出すと、銃を構えて固まったカリンの腕をおろさせて優しく肩をたたいた。
「いいかい?アンタはよくやった。正直期待以上さ、ここにいな。いいね」
そう言い残し、ラッキーは銃を手に足音も荒く走り去った。
列車が再び動き出し、冷たい朝の空気が開け放たれた窓から吹き込む。
……そして、カリンの体は思い出したように震え始めた。
「私……私……」
それでも心臓の鼓動は収まる気配を見せなかった。




