3-5
同時刻、ロイ。
「どうだ?」
客車から飛び降り、濃い霧のような朝もやをかき分けるように先頭車両までたどり着いたロイは、汽車の側面に張り付くように周囲を警戒していた二人に声をかけた。
「馬車です、ロイ。詳しくはまだ」
前方を指した冒険者に頷き、ロイも物陰から顔をのぞかせる。
「フレデリック商会……?」
「何かがあって逃げ出したか盗まれたもんでしょう」
側面に掛かれていた文字を読み上げたロイに、冒険者の一人が答えた。
「よし、二人とも援護してくれ。 中を見てくる」
「お気を付けて」
レバーアクションライフルに初弾を送り込み、ロイは線路に沿って慎重に歩き出した。
汽車からおよそ10ヤード。短いはずの距離が、足音に神経を尖らせる中では異様に長く感じる。
朝もやを払いながらの一歩一歩を、まるで断頭台への道のように警戒して進んだ。
「特に妙な感じは……」
馬車にたどり着いたロイは、車体に身を隠すように張り付き、まず外観を確かめた。
二頭立ての、ごく一般的な荷馬車だ。繋がれている馬も落ち着いている。
だが、幌をかぶせた荷台の奥から、かすかに気配を感じた。
ロイは振り返り、周囲を警戒している二人に軽く手信号を送ると、荷馬車の後方へ回り込んだ。
「さぁ、ゴブリンと出るか、天使と出るか」
小さくつぶやき、素早く角から飛び出す。
銃口を荷台の中に突きつけた。
「んー!」
馬車の中には小太りの男が縛られ、もがいていた。
ロイは荷台の中をざっと見まわし、異常がない事を確認すると、素早く乗り込んでナイフを抜き放った。
「ここで何をしてる?」
男の縄を切ると、すぐさま荷台の端へと後退し、銃口を向けたまま問いかけた。
「わたしが聞きたいよ! わけのわからん奴らに襲われて……見てくれ、三時間もここでこうしていたんだぞ!」
男は興奮した様子で胸ポケットから銀の時計を取り出し、針の位置を示して見せた。
ロイは怪訝そうな顔で時計を見つめ……すぐにハッとした表情で馬車から飛び降りた。
「おい、あんた!?」
「今すぐ馬車を動かせ! いいな、もう安全だ!」
返事を待たず叫ぶと、ロイは先頭車両へ駆け出す。
後ろを振り返ると、男が必死に荷馬車の前に駆け寄り、馬を引き寄せ始めているのが見えた。
「どうしました?」
「機関士に伝えろ、馬車がどいたらすぐに汽車を動かせ! お前は一緒にこい!」
「は、はい! なんだったんです!?」
ロイがメンテナンス用の梯子に手をかけ、先頭客車の屋根を上る。
指名された冒険者が慌てて続きながら問いかけた。
「中で男が縛られてたが時計や金目のものに一切手が付けられてなかった。 ……リッチだ!」
ロイの答えに冒険者が驚愕した表情を浮かべる。
刹那、乾いた銃声が朝の静寂を裂き、あたりで朝食をついばんでいた小鳥たちが、一斉に空へと羽ばたいた。




