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あまり手入れはされていなさそうな痛んだセミロングの黒髪をした黒い肌の美人が、固く踏み固められた土の上で馬を止めたロイとカリンに近づいて軽口を吹く。
「こりゃ、別嬪じゃないか。ほら、嬢ちゃん、装備と貴重品を鞍から降ろしな。汽車が来ちまうよ」
「え? え? あっ、うん」
ロイが馬から降り、走り寄ってきたギルドの紋章が縫い付けられた上着を着た少年に手綱を手渡したのを見てカリンも慌てて続く。
「なんだい、ぎこちないねぇ。なぁ、中尉殿。この嬢ちゃんは使えんのかい?」
「いや……まぁ、手は速い方だ」
値踏みするように無遠慮にカリンを眺めるアーモンド形の瞳を無視しながら、ロイは少年にいくらか紙幣を手渡した。
すると、少年は頷き二人の馬を引き、駅前の雑踏に向かって歩き出した。
「あっ、ちょっと!」
「近場の馬屋に預けただけだ」
慌てて後を追おうとするカリンを引き止め、ロイは馬から降ろした二人分のサドルバッグと装備を担ぐ。
「で、そっちは二人かい?」
引きちぎったような短い北部の労働者のズボンに絞り上げたシャツ姿という露出の多い黒人女性は、じろじろとロイとカリンを見まわし、にやりと口元をゆがめた。
「フレミング、アンタが早いのは知ってたがね。 ソッチの手も随分と早いみたいじゃないさ」
「おい……」
「何の話?」
ロイが普段からしかめっつらの眉をさらにひそめて訂正しようとするが、カリンが横からヌッと首を突っ込んだ。
「ははっ! いやなに、そっちの中尉さんはフッカーにも興味を示さないから変な趣味なんじゃないかって仲間内じゃ話題だったんだ。けど、まっ、逆に安心したがね」
話が呑み込めないカリンが「変な趣味?」と視線をロイに向け、女性はそれを見てさらに愉快そうに笑う。
「まぁ、ちぃぃっと年が離れてるようだがね。とにかく、アタシはラッキー。後ろにいる連中を仕切ってる」
「あっ、カリンです。カリン・オハラ」
「オハラ?南の出かい?」
「え、ええ……」
握手に応えたカリンが名乗ったのを聞いたラッキーの表情が一瞬鋭くなる。が、すぐに元通りの目立つ白い歯を見せて人懐っこい笑みを浮かべた。
「これで、アタシらはエルマーナってわけだ。さぁ、坊ちゃん方! 仕事の時間だよ!」
遠くレールを軋ませる轟音と汽笛の音が聞こえるなり、ラッキーはカリンの手を離して振り返ると、大きく手を叩いて冒険者たちにはっぱをかけた。
思い思いの場所でギルドのバッチを光らせる冒険者数人が腰掛けていた樽や荷物から立ち上がり、ゾロゾロとプラットホームへ歩いていく。手慣れた背中を見送りながらロイがラッキーに尋ねる。
「それで?」
「いつも通りさ」
そう答えたラッキーだったが、再び、だが今度はすぐ近くで響いた汽笛の轟音に耳を塞ぐ。
蒸気の上げる轟音とけたたましい金属音を響かせながら鉄のレールを削る様にホームに侵入してくる大きな汽車に苦笑し、肩をすくめてからラッキーは二人に振り返った。
「とはいえ、今回は腕の立つ人手が欲しい。うちのチーム以外が訳ありでね」
そう言ってラッキーがホームに視線を向ける。
視線の先ではフロンティアには似つかわしくない一団が、今まさに客車に乗り込もうとしていた。
「執事と、使用人?」
カリンが首を伸ばし、フロンティアでは珍しい装いに怪訝そうに目を細めた。
「貴族の客か?」
「あいつらも冒険者だってさ。腕はたつらしい、ギルドの話じゃね」
「まさか、道楽だろう」
「さてね、アンタがこのタイミングで街にいてくれたのは正に……あたしの幸運のたまものさね」
徐々にスピードを落とす蒸気機関車をバックに、芝居のかかった動作でラッキーが両手を開いて見せた。
「詳しい話は中。さぁ、乗りな! 水と荷物の積み込みが終わったらすぐに出ちまうよ!」
作業員たちが忙しく行き交うのを避けながら、ラッキーの先導でギルドのマークがでかでかと描かれた貨物車の側面扉によじ登った。
「ほら」
「ありがとう!」
先に上がったロイが車内から手を伸ばし、カリンを引き上げる。
その様子を見ていたラッキーがニヤニヤと人懐っこい笑みを浮かべる、が、ロイが仏頂面を返すと、すぐに肩を竦めてわざとらしく視線を逸らした。




