第九話 見ず知らずの人にはついて行かないように
第九話掲載させていただきました。
また、期間が開く恐れがあるのでできるだけ早めに上げたいと思います。
王都も中心部から少し離れれば様相もガラリと変わり、冒険者などを顧客にした露店や飲み屋などが軒を連ねている。
貴族街の落ち着いた雰囲気から打って変わり、冒険者たちや飲んだくれたちを相手にする客引きの声で騒がしい。
田舎育ちのエールハルトにとって、堅苦しい空気の貴族街よりもこちらの方が性に合っていた。
彼自身、お酌されることもまんざらではないと感じてはいるものの、お酒に酔った女性のテンションについていけないと思うことが多いためそう言った店はあまり得意ではなかった。
ただ、王都にも顔見知りは少なからずおり、歩いているエールハルトに声をかけてくる、しつこい客引きたちを軽くあしらいながら目当てのものを探していた。
「エールハルト様でございますか?」
周りには大勢の人に溢れて騒がしい中、凛とした声だけがはっきりとエールハルトの耳に入る。
背後には暗い赤色の外套を纏った女性が立っていた。顔はフードを深く被っているため見えないが外套の上からでもスタイルの良さが見て取れる。
その身なりからして、冒険者の類ではないことは明らかだった。纏っている外套も、そこらの露店で売っているような量産品ではなく高級な生地が使用され丁寧な刺繍もあしらわれている。
言わずもがな、そのような高級品を身に纏っている冒険者など見当たらず、そのスタイルも相まって完全に群衆から浮いてしまっていた。
言うなれば、満開のひまわり畑の中に一輪だけ紫陽花が咲いているようなものである。
当人も群衆の視線の中心が自分にあることに気付いたのか辟易したようにため息を漏らす。
すると彼女は徐に手を伸ばし指先に魔力を込める。パチンッという子気味良い音があたりに響くと、先ほどまで彼女に目を向けていた人たちが何事もなかったかのように歩き出す。それに、気付けば周りの話し声も籠ったように聞こえづらくなっている。
「人払いと遮音結界を張らせていただきました。万が一のこともありますので。」
「なるほど。これならここで俺を殺しても周りには聞こえないというわけか。」
エールハルトは身構える。人払いと遮音結界を同時にそれも魔法陣や詠唱などの媒介もなく発動できるなど相当の手練れだろう。
彼自身、少なからず戦闘の経験はあるが相手の実力が上なのは明白だ。隙を見て逃走する算段をたてていた。
しかし、彼女の返答は思いもよらないものだった。
「私は、貴方に危害を加えるつもりはございません。と言っても、この状況では信じられるものではありませんね。」
そう言うと、彼女は困ったような仕草を見せ考え込む。
「時間がありませんので、今はこれを確固たる証拠として認めていただけないでしょうか。」
そう彼女が前置きをすると、長い外套の裾を掴み捲し上げる。露になって行く柔肌にエールハルトは一瞬動揺する。
「な…何を…」
エールハルトが言い終わる前に彼女の太ももに目が釘付けになる。
一応、彼の尊厳を守るためにも釘付けになったのは柔肌に見惚れてしまったわけではなく、その足に刻印されている紋章に、である。
「フルード王家の家紋か?」
それは、この王都を治める王家の家紋だった。つまり、彼女は王家直属、もしくはそれに近しい人物に所有されていると言うことだ。
「これで多少は信じていただけたでしょうか。」
捲し上げた外套を降ろしながら彼女は話し続けた。
「あなたに会って頂きたい方がいらっしゃいます。」
そう言うと、彼女はエールハルトを路地の方へと案内していった。
知らない人についていったり知らない人の車に乗ってはいけません。




