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第八話 贈り物とは難しいもので

だいぶ期間が開きましたが8話掲載さていただきました。

「間に合うのか!?」


 アルマの発言に耳を疑った。正直なところ、上級回復薬だけは領地内や他国の行商から買い付けようかと考えていたところだったからだ。


「はい。ハルナから内密にしておけと言われていたんですが…領主様たちなら他言しないでしょう?」


 アルマが言うには調合師と家事スキルを持っている自分だと1日に1,2本作ることができるらしい。ただ、それが周りにバレてしまうと回復薬自体の価格暴落を引き起こしかねないため、ハルナから絶対に周りに言わないように釘を刺されていたようである。

 

「なるほど。それで受注生産のみに限定していたわけか。」


「はい。それでも大量の薬草が必要です。そこをどうにかできないでしょうか?」


 なんとなくだが、アルマの言いたいことがわかった。大量の薬草を用意できるようにしなければならない。


「わかった。冒険者を募って薬草を採取させよう。予定されている納品分は少し遅らせてもいいだろう。そこは私が話をつけておく。」


 そうやってこれからの予定を決め、会議は早々に終わった。


 会議室を出ようとするアルマをエドワードが引き止める。


「アルマよ…無理はするでないぞ。」


「大丈夫だよじいちゃん。俺ならなんてことないって。」


 エドワードにそう笑いかけ安心させようとしている。両親のいない彼を孫と同じように可愛がってきたからこそ、何かしら感じているのだろう。

 エドワードの心を感じてか、アルマはその歳をとり細くなった肩を優しく叩き、大丈夫だと重ねて言うだけだった。 


 それから、製造場と薬草収穫の人員を編成することになった。回復薬の生成は村人のほとんどが行えるためすぐに編成し終わった。

 

 薬草採取のクエスト依頼は、多少色をつければ冒険者はこぞって参加したため薬草の必要量は収穫物も含め問題なく揃っていった。


 バルト侯爵には、納期通り商品を届けるため口添えは必要ないと文を出すと、しばらくして護衛の騎士を派遣すると返信が来ていたが、金貨を200枚ほど要求してきたためそれも断った。

 それに、バルト侯爵のことだ。何か企んでいるかもしれないと信用のある御者に頼むようにした。


 慌ただしく日々が過ぎ、納品先への連絡などの雑事も片付くと期日まで10日を切っていた。


 状況確認と最終調整を兼ねナツエ村に再び赴くとある程度の納品用の回復薬はほとんど製造し終わっていた。


 ただ、アルマも無理をしたためか、ほぼ寝ずに回復薬を製造していたようでありこの前見た時より明らかにげっそりしていた。


「アルマ!大丈夫なのか?」


 ミラとミィに支えられながら歩くアルマに駆け寄る。2人曰く、ほぼ1ヶ月回復薬生成のために籠りっきりだったらしい。


 どうしても上級回復薬を生成するためには1人で行ったほうが効率が良いらしく、ほとん寝ずに生成を続け、体力がなくなってくると自前で調合した栄養剤を飲みまた生成を続けると言う、いつ死んでもおかしくない状態だったらしい。


「まぐろぉ…」


 駄目だ。意思疎通すらできなくなっている。一応、回復薬は目標数に達していたため、残りの作業はミィとミラが引き継ぐらしい。


 そうして、慌ただしくも準備は整い今日に至るのだった。


 

「結局、アルマに負担をかけてしまったな…」


 アンナの淹れた紅茶を嗜みながら、やつれたアルマの姿を思い出す。

 

 ミラたちは2日ほど休息を取れば元通りになると言ってはいたが大丈夫なんだろうか…


「旦那様。今回の功労者はアルマ様です。何か報酬など出されては?」


「確かに。いいかもしれないな。」


 アンナの提案にエールハルトはすぐさま賛成する。アルマも年頃の男だ。大人のいい店などに連れ行ってやってもいい。そう考えていると、


「旦那様?何かよからぬことをお考えでは?」


 バルト侯爵に向かった時のような殺気を立ててアンナが釘を刺してきた。表情は和かだがポットを持つ手が怒りに震えている。彼女を怒らせてはならない。先日のアレを見ているからこそだ。


「そ…そんなことはないぞ。王都の商店を見て考えてもいいかもな。」


 苦し紛れな言い訳をしつつエールハルトはそそくさと部屋から出て行く。

 別にアンナの目が怖かったからとかではない。絶対に。


 宿から出てしばらく歩けば、貴族に向けた商店が並んでいる。目玉商品の高級なアクセサリーや魔道具などが勢揃いし目が忙しい。


 ただ、アルマが欲していそうなものはあまり置いていないようだ。

 時折、彼に何かしら渡そうとしても毎度断られる上、ねだられたとしても農機具や農場の拡大の請願だったりする。


 あまり浮いた話を聞いたことがないし、彼もいい歳なんだ。少しそう言ったことに興味を持って欲しいではあるが…そう思いつつ、最近王都で流行りの服屋に赴く。並んでいる商品はどれも若者向けに煌びやかな装飾のあるものが多い。

 自分自身が着るとなると若作りだとなんだの言われかねないがアルマが着るなら申し分ないだろう。


 商品を手に取って確認していたとき、不意に背後に誰かが近づいてきた。


「おやおや、こんな所で奇遇ですなぁ。」


 聞きなれた嫌味ったらしい声が聞こえてくる。振り返ると若い女性を連れたバルト侯爵がニヤニヤと笑いながら立っていた。

 バルト侯爵はエールハルトと商品を交互に見ると堪えきれなくなったのか吹き出したように笑い出す。


「何か問題でも?」


 バルト侯爵の様子に苛立ちを覚えつつ聞き返す。ある程度、何が言いたいか予測はつくのだが。


「いえいえ、流行りに乗るのはいいことだと思いますよ。…ただ、少し、いやかなり若作りだと思いましてね。」


 本当に抑えきれないのが言葉の端々に嘲笑を含んでいる。バルト侯爵につられ連れの女性たちもクスクスと笑い合っている。つくづく、品のない奴らだ。


「これは、贈り物のつもりでね。私が着るのではないのですよ。」


「そうですか。これは失礼しました。ですが、あなたの領地に、それを着こなせるような人物がいるとは思えませんがねぇ?農民ならボロ布がお似合いでしょう?」


 まるで足元を見られといるようで気分が悪い。私が農民用の布を用意して差し上げましょうか、と嫌味ったらしく言ってくる。込み上げてくる怒りをなんとか抑え平常心を保つ。揚げ足を取られてしまっては元も子もない。


「あなたたちは好きな服を選んで来なさい。」


 バルト侯爵はそう言って連れの女性を店の奥へと追いやった。


「いやはや、回復薬の納品も無事に終わりそうで何よりですね。あなたならやり遂げると思っていましたよ。一体どうやったんです?」


 よくもまぁ、白々しく話せるなとエールハルトはここの中で思う。無理難題を押し付けてきたのはお前ではないか。


「いえ、たまたま回復薬の在庫があったんですよ。それを回してもらって間に合わせただけです。」


 愛想笑いを交えつつバルト侯爵の様子を窺う。鼻から間に合わないと思っていたためか多少疑ってはいる様子だが確信は得ていないようだ。


 アルマとの約束もある。できるだけこいつには勘付かれたくはない。


「そうでしたか。間に合うのならそれで良いでしょう。無論、当然のことですがね。明日は盗賊に襲われないといいのですがね」


 そう言い残すと、バルト侯爵は店の奥へ歩いて行く。先ほどの女性たちが気に入った服を見つけたのだろう。

 胸の奥にモヤモヤとした何かを感じつつ、エールハルトは足早に店を去っていくのだった。

チャンピオンズが忙しくてサボってたなんて言えない

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