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第七話 無理難題②

第七話掲載させていただきました。


 土埃を巻き上げつつ、エールハルトはナツエ村へ急いだ。数刻もせぬうちにナツエ村の入り口が見え始める。門番をしている村人がこちらに気付き駆け寄ってくる。


「領主様!どうなさったんですか?」


 エールハルトの様子に違和感を感じたのか少し動揺している。


「村長とアルマはいるか?」


「村長なら集会があるので広場の方にいるかと。アルマは今日ロベルトと一緒に狩りに出かけていますが…」


 そう聞くとエールハルトは馬を急がせる。入る手続きはあるが今は後回しだ。


 広場に着くと、村人たちが慌てた様子のエールハルトに驚いている。商人や顔馴染みの店主が声をかけてくるがそれも耳に入っていないようだった。


「村長!ロムス村長はいるか!」


 そう叫ぶと、群衆の中からロムスが現れる。隣には彼の父エドワードもつれている。


「領主様。何かあったんですか?」


 ロムスはエールハルトの様子に違和感を感じたのかエドワードと目を合わせる。エールハルトから手渡された書状に目を通すと驚いた顔をするが、すぐに近くにいた村人にアルマを連れてくるよう伝えた。


「ここは人目が多すぎます。こちらへ。」


 そう言うと、ロムスはエールハルトを村の会議室へと案内した。



 林の中で息を殺していたアルマは、遠くに見える動く鹿を見定めていた。この時期は冬に生まれた子鹿たちも大きくなり食べ物を求めて村の薬草畑にまで出没するようになる。


 奴らはまだ発芽したばかりの新芽や薬草の根まで掘り返して食べることもあり、この時期になると害獣退治も兼ねて村の男たちで狩猟している。

 狩った獲物も、村に持ち帰りみんなで捌き今晩のご馳走になるため恒例の行事のようになっていた。


 鹿が植物を食べ首をもたげた瞬間、アルマの弾いていた弓から矢が放たれる。音を後追いさせながら鏃が木々の間をすり抜けていく。

 自らに向かってくる何かに反応した鹿の眉間にそのまま刺さり、逃げる暇もなく鹿はその場に倒れビクビクと体を痙攣させている。


「アルマ終わったかー?」


 そう言いながら山の上手から今日で8頭目の鹿を狩終えたロベルトが歩いてくる。


「まあね。流石に村一の狩の達人には敵わないけど。」


 そう言いながら、眉間に刺さった矢を抜きながら村に持ち帰る準備をする。ロベルトの手伝いもあり、村へ帰る山道に入った頃、村の方からアルマを呼びながら駆け上がってくる村人が見えた。


「どうかしたのか?」


 こちらの呼びかけに気づくと息を切らせて駆け寄ってくる。


「村長と領主様がお呼びです。」


「領主様が??何かあったんだろうか…」


 先ほど狩った鹿をロベルトに任せアルマは村の広場へと急いだ。


「俺も後で行く!何か必要なものはあるか?」


 ロベルトはアルマに問いかけつつ2頭の鹿を軽々と担いでいた。筋肉どうなってんだ。

 だが、こう言う時、ロベルトは頼りになる。


「助かる!できたら納品の予定帳簿を持ってきて欲しい!多分、それ関連だと思う!」


 ロベルトにそう伝えると再び村へ駆け出していく。領主様と村長が呼ぶことなんて滅多にない。何かあったんだと胸騒ぎがした。


 会議室に移った後、しばらくすると顔に土をつけたアルマが入ってきた。服の所々に木の枝や葉がついていて急いできたことがわかる。


「アルマ。急で悪いがこれを見てくれないか。」


 そう言うとエールハルトはアルマに例の書状を渡す。荒れた呼吸を落ち着かせながら渡された書状に目を通す。


「すまない。先日納品したばかりで在庫も少ないと言うのにこれだ。一応、期間は延ばしてもらうように伝えてはいるのだが…どうなるかまだわからん。」


 そう言うと、エールハルトは深々と頭を下げる。領主に頭を下げられ慌ててそれを止める。


「顔を上げてください!領主様の問題は我々の問題と同じです。」


 ロムスはそう言って顔を上げるように促す。エールハルトの顔にはバルト侯爵への怒りの表情が見えた。


「あの…髭ダルマめ…」


 エールハルトひ忌々しそうにその名を呟いていた。ロムス達はことの経緯を聞くと、エールハルトと同じような顔になり憤りを見せている。まあ、誰だって理不尽な要求をされたらあんな顔にもなるか。


「しかし、困りましたね。初級、中級ならまだ間に合いますが、上級ともなると…。上級は受注生産品ですので在庫はうちにもほとんどありませんし…」


 ただ、王都用の納品を優先すると他に回す分に支障が出る可能性もある。まあ、そちら側は近くの街のギルドや病院の定期納品だったりするので多少は融通が効くかもしれない。


「この量の上級回復薬なんて逆に嵩張るだけだと思うんですが…一体何に使うんですかね。魔獣の大量発生もここ最近聞きませんし…」


 書状の内容を見ながら考えていると周りの話し声が聞こえなくなっていることに気づいた。顔を上げると皆がじっとこちらを見つめている。


「それについてなんだが、1つ考えていたことがある。バルト侯爵は回復薬の横流しを画策しているんじゃないだろうか。」


 エールハルトの言葉に一斉に声をあげる。しかし、すぐに全員納得したような表情をしている。


「回復薬の安定生産はここ2,3年で可能になり今では王都の回復薬の40%はナツエ村産だと言ってもいい。それに加え、上級回復薬も時間をかければ生産もできるときた。金にがめついあのハゲ侯爵ならここの利権が欲しいんだろうと思う。」


 無理難題を押し付け、領主様を失脚させそのまま村ごと手に入れようとしている訳だ。

 そうすればハゲ侯爵に残るのは陛下からのさらなる信頼と新たなる領地、そして自国のみならず各国に対しての無限の利益を生み出す村の出来上がりだ。


「私もこの領地を父から譲り受けた以上、絶対に守り通さねばならない。この領地と皆の生活を。」


 エールハルトの言葉にロムス達は覚悟を決めたように領主様のためならと意気込んでいる。

 そこにちょうどよくロベルトが現れ納品予定と回復薬の在庫を教えてくれた。

 やはり、上級回復薬の在庫は数本程度であり到底間に合う数字ではない。


「アルマよ。もう一度私たちに力を貸してくれぬだろうか。」


 無理難題だとエールハルト自身感じている。それでも彼なら何かできるのではないかと心のどこかで頼っていた。

 アルマもエールハルトの本心をわかっていた。村の発展にも影ながら尽力してくれた。


「それなら隠しておく必要もないですね。」


 アルマはそう呟くと、エールハルトの目をまっすぐに見つめる。


「上級回復薬50本。間に合います。」

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