第10話 隠れ家的な店は路地裏に多い
10話掲載させていただきました。隠れ家的な店ってみんなどうやって見つけてるんですかね。
謎の女性に先導され暗い路地を歩いて行く。誘い込まれた先に罠があるかと勘繰ったが杞憂だったようだ。
しかし、王都とはいえ路地裏には流浪した冒険者などが屯していると聞いていたが物乞いの1人も見当たらない。
「すでにこの辺りに人払いをかけてあります。」
口に出していたつもりはないが、彼女に見透かされたように答えられる。
実際、変な輩に絡まれて時間を食うよりこちらの方が手っ取り早いのかもしれない。
「こちらです。」
案内された先には、さほど大きくないの煉瓦造りの平屋が身を隠すように一軒建っていた。
彼女に促されエールハルトは扉を開く。古臭い装飾のされたドアは見た目通り重たく開くのに力を使う。
しかし、そこには外観とは裏腹に全く別の風景が広がっていた。部屋の中は暖色の光が照らし来客を出迎えているようだった。テーブルは5台ほどしかなく、大衆向けの食事処というより貴族向けのレストランに近い。俗に言う隠れ家的と言うものであろうか。
カウンターの奥では店主と思しき人物がグラスを拭きながら料理の準備をしているようだった。
すでに部屋の中には肉の油が焼ける匂いが広がっていてエールハルトの腹を刺激していた。
「来て頂きありがとうございます。食事はまだでしたか?」
奥のテーブルに腰掛けていた若い男性が立ち上がり話しかけてくる。その男を見るや否や、エールハルトはその場に急いで跪く。
「ロムルス王子!失礼しました。」
エールハルトの跪いた相手はこの国、フルード王国の第一王子である。
「顔を上げて下さい。それに今日はエールハルトさんに話があってきたのです。」
ロムルスは焦ったように話しかけエールハルトの顔を上げさせる。
「まずは食事でもいかがですか?話はそれからにしましょう。」
そう言うと、ロムルスはエールハルトをテーブルへ案内する。二人がテーブルにつくと間も無くして二人分のグラスが用意された。
「ワインはお好きですか?」
「ええ、嗜む程度には。」
そう言うとロムルスは安堵の息を吐き、店主に二人分のワインを頼んだ。
注がれるワインは波打つたび、その波紋から芳醇な葡萄の香りを漂わせる。それに、この部屋の明るさと相まり、深いガーネットの中心部のような紅色が本当に宝石を液体にしたかのような煌めきをゆらゆらと魅せていた。
ロムルスに勧められるままエールハルトはワインを口に運ぶ。少量、一口含むだけで香りと味が何倍にもなってエールハルトの口の中を満たしていった。
ワインには全く詳しくない。寧ろ、あまり口に合わないと思っていたが、趣味の一つにしても良いかもしれないとエールハルトの中でワインへの興味が湧いてきていた。
程なくして、二人の前に料理が運ばれてくる。
「どうです?ここのワインは美味しいでしょう?」
「はい。今まで飲んできたものよりも。」
エールハルトの答えが嬉しかったのか出された料理を勧めてくる。出された料理はどれも絶品で飲んでいるワインとの相性も最高だった。
食べながらエールハルトは考え込んでいた。ロムルス王子が何のために私を呼んだのか。それにこの外套の女性は何者なのだろうか…。ロムルス王子に目をやる。
あちらもエールハルトの視線を感じたのか、少しエールハルトと視線を合わせると食事の手を止め待機している女性を呼んだ。
「フレイ。こっちへ来てくれ。」
フレイ、そう呼ばれた女性はロムルスに近付き外套をとる。露になった顔にはまだ、多少の幼さが残り赤い髪が綺麗に切り揃えられていた。
「紹介が遅れました。こちらはフレイ。秘書兼護衛を任せています。
「フレイと申します。エールハルト殿、先程のご無礼お許し下さい。」
フレイは深々と頭を下げエールハルトに謝罪する。彼女に気にしていないと伝えると顔を挙げ安堵した表情を見せる。
そして、常々気になっていたことをロムルスに話した。
「それで、なぜ私を呼んだんです?」
エールハルトの言葉を聞くと、ロムルスは先程までの明るい笑顔から険しい表情へと変わる。
隣にいるフレイも、彼の表情が変わると共に腰に携えている剣に手を掛ける。
エールハルトとの間に、重苦しい空気が漂う。フレイから漏れる殺気が、まるで蛇が獲物を狩るために鎌首をもたげたようなそんな感覚だ。
「率直に聞きます。」
その空気の合間を縫うように、ロムルスが口を開く。その眼光は真っ直ぐにエールハルトを見つめている。
「貴方はバルト侯爵と共に密輸を企てていますね?」
「一体何の話をしているんです?」
エールハルトの答えに呆気に取られ固まってしまうのだった。
愛読書はトリコです。




