第11話 疑いは晴れても
勇者一行の荷物持ち11話掲載させていただきました。人も三十が近くなるとどうも体の節々が痛いですね
「一体、何の話をしているんです?」
ロムルスが思っていた言葉とは裏腹にエールハルトの返答は呆気に取られるほど簡素な一言だった。
「何の話って…貴方とバルト侯爵とで薬を密輸して儲けようとしているのでは?」
「待ってください!私はそんなことっ!」
大きな音を立て椅子が倒れる音が店内に響く。しかし、エールハルトは言い終わる前に気付く。今まさに、自分の首元に、音もなく抜き去った剣が当てがわれていることに。
「フレイ…」
その言葉を聞くと、フレイは大人しく剣を納める。張り詰めた空気も途切れ、エールハルトも安堵の息が漏れる。
「申し訳ありません。何か動きがあれば取り押さえろと命じておりまして。」
倒れた椅子を戻し再び席に着く。隣にいるフレイがまた剣を抜かないか内心ヒヤヒヤしていた。
エールハルトが席につくのを見届けるとロムルスはここに呼び出したのか話し出した。
ここ最近、王都では回復薬の買い占めが行われ問題になっているようだった。
初めは、そこまで問題視することでもなかったらしくギルドも追加の発注だけで済んでいたが、最近になり他国にこの国の回復薬が流れていることが発覚したそうだ。
他国への輸出には許可証と関税が必要になっているが、これと言った書類など提出されていないため調査に至ったのだと言う。
そして特に、ナツエ村が薬をおろした翌日から買い占めが横行していることが多かったことと押収した薬の製造元がナツエ村だったことから関係者が犯人の可能性が高いと踏み秘密裏に調査していようだった。
そして約2ヶ月ほど前にバルト侯爵がエールハルトに接触していたことがわかり、二人がグルだと確信したからこそ、部下であろうエールハルトに接触したと言うわけだった。
「なるほど、それで口を割りそうな部下の私を呼び出して尋問しよう、と言うことですか。」
関係ないし、寧ろ被害を被っているエールハルトとしては全く気の良い話ではない。
それについては、ロムルスから頭を下げられたため、これ以上追求することはできない。
人目はないと言われてはいるが、王族に頭を下げさせるなど即刻処刑されてもおかしくない。
「薬の密輸ですか。確かに、バルト侯爵から大量の発注を受けた時は疑いましたが…」
村の会議でも同じくその疑惑は出た。バルト侯爵もリスクを冒してまで利益をとるだろうか。
どうも思いつきの行動じゃないだろう。それに密輸には準備がかかりすぎる。それを一人で行うなど無理な話だ。
考え込むエールハルトにロムルスは1枚の紙を渡す。開けて見ろと目だけで伝えている。
中には、回復薬の発注内容が書かれていた。
「上級薬の項目が、無い…」
「この密輸の件にはバルト以外に誰かが手を引いていると考えています。」
アルマたちが必死に作ってくれた薬を、あいつは自分の利益を生み出すためのただの道具としか思っていないと言うことだ。
本当に腹が立つ。
「私たちも、あの技術が他国に漏れてしまうのは国益を損なうと思っています。」
ロムルスは席を立ち、エールハルトに近づく。
「私と協力しませんか。バルト侯爵はすでに準備を整えているはずです。現に、港には国籍不明の船舶が停留しているとの情報もあります。エールハルトさん。何か気になることはありませんか?」
『盗賊に襲われないといいのですが』先の店内でバルトに言われた言葉を思い出す。エールハルトの中で少しずつ何かが繋がっていく。
「もしかして、バルト侯爵は納品中のアルマを襲うつもりか…」
アルマごと襲ってしまえばどうとでもなる。積荷は手に入るし、目撃者も始末すればいい。至ってシンプル。何と綿密に考えられた計画だろうか。
「まずいですね。盗賊なんて村人が襲われたら…今から護衛を向かわせましょう。私の騎士隊をつければ」
「いえ、それは大丈夫です。」
「……え???」
本日2度目の間抜けな声が抜ける。
「いや!盗賊とは言われていますが傭兵を雇っている可能性もあるんですよ!それが村人だけで対処できるなんて無理でしょう!」
ロムルスは声を荒げて反論する。まあ、普通ならそうだろう。だが、村人は村人でもアルマだ。それに、御者だってそれこそそこいらの傭兵などに遅れをとるようなやつではない。
私は、彼らを信頼している。あの村を助けてくれたアルマたちを。
「………わかりました。ですが偵察の2名だけ送ります。よろしいですか?」
エールハルトは深く頷く。それを見て、ロムルスも納得してくれたようだ。
「アルマさんたちの方はそれで良いとして。あとは私たちです。もう何人か手を貸してくれる人がいるといいのですが。」
こちら側にも裏方を担ってくれる人員が必要だ。部隊の大部分は不審船の検挙に割くわけだし、それに王都の部隊が大々的に動くとなると奴らに気取られる可能性もある。
王都の情勢をある程度知ることができ、かつバルト侯爵の行きがかかっていないであろう人物たちだ。
「それに関してなんですが、私の知人たちでよろしければ手を貸してもらえるかと。」
「その人たちは、信用できるんですか?」
この王都内で、誰がバルト侯爵やそれに与する奴に繋がっているかわからないこの状況でも、確実に彼らは味方してくれるはずだ。
「ええ。信用できますよ。それに、ロムルス様もよくご存知だと思われます。」
エールハルトに言われるが、ロムルスはまだわかってはいない。それほど、日常の中に溶け込んでいる。
居て当たり前。されど、重要な仕事をしている者達。
「事は急ぎです。私は今からその者達に会って話してきます。」
エールハルトは立ち上がり、急いで向かおうとするが何か思い出したように一度立ち止まる。
「その前に、食事代を払わないといけませんね。」
どうにも締まらない様子がおかしかったのか、ロムルスは堪えるように笑っているのだった。
「そういえば、なぜ私が共犯じゃないと思ったんですか?もし、そうだったとしても、絶対に否定すると思うのですが。」
店の代金を支払ったロムルスは少し悩んだように目を動かす。
「そうですね。確かに共犯であったとしても必ず否定すると思います。ですが、それでも誰も私に嘘はつけないんですよ。」
そう言うと、ロムルスの目が瞬きと同時に怪しく光る。
「私のスキルを使えば誰も本当のことを話してくれるんです。そう、こういう風にね。」
深く、赤いその目が、エールハルトを見据える。風体を。いや、その中身を見透かすように、
「上級回復薬をどうやって用意したのですか?」
今までの会話では追及されなかったそれをこのタイミングで切り込んでくる。
エールハルトはたとえ相手が王子であっても、約束は破れない。言うつもりはない。
「それは、私の村のアルマが製造しました。」
自ら言った言葉が信じられなかった。無意識に喋っていた。
慌てて口を閉じようとしても遅い。それよりも体が、口が勝手に動いている。そんな感じだ。
「慌てなくても、大丈夫ですよ。この事は外部には絶対漏らしません。」
してやられた。今、ロムルスはエールハルトにとって最悪のカードを手に入れたのと同じだ。
「食えない人ですね。」
忌々しそうに呟く。
「よく言われます。」
終始にこやかにしてはいるが、エールハルトは思い出す。この男がこの国で王族の業務と共に最高尋問官としての役割も果たしていると。
「フレイ、あれを。」
そう言うと、フレイはエールハルトに一片の晶石を渡す。
「これは感知無効の魔術を組み込んだ晶石です。誰かに跡をつけられては困るでしょう?持っていてください。」
この男はどこまで先を読んでいるのだろうか。
「わかりました。では、行ってまいります。」
渡された晶石を握り締め、とある場所へ向かおうとする。
「明日の商談には私も参加させてもらいます。」
小さく手を振りながらエールハルトを見送っている。
本来なら、早く部屋に戻ってアンナの淹れた紅茶が飲みたかったが、まだ今日は帰れそうにもない。
「俺も早く身を落ち着かせたい者だなぁ。」
おっさんになりかけの寂しい独り言は路地裏に消えていくのだった。
歳はとりたくないものです。
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ようやく、おじさんパート抜けました。




