第二話 ナツエ村の朝 診療所
勇者一行の荷物持ち第二話です。
もう少しだけ連続で投稿させていただきます。
ロベルトと別れてから、しばらく通りを歩けば見慣れた診療所が見えてくる。
診療所とは言っても誰も使っていなかった民家を少し改造してあるだけのため、そこら辺の家とさほど大差はない。見分けがつくように気持ち程度の白い旗が屋根の上ではためいているぐらいだ。
ここでは村の住民2人と住み込みの村医者が1人従事して急病人や負傷者を治療している。
看護婦として働く住民はまだ来てはおらず、今の時間は村医者1人がいるだけだ。
(ロベルト、今なら2人きりになれる絶好のチャンスなのに。勿体無いな…)
そう思いつつ、診療所の裏手に回る。朝は正面から呼んでも大抵寝ていて出てこない。急患が来たらどうするんだと思いながら歩いていく。
たくさんの植物が生えているが、多くは薬品の元になる薬草たちだ。まあ、正直誰が薬草でどれが雑草なのかわかったもんじゃないが…
少し歩けばひらけた場所に出た。
そこには家庭菜園サイズの畑と古びた立て看板があり、看板には拙い字で『やくそうはたけ だいいちごう』と書かれている。
薬草と書かれてはいるが植っているのは薬草ではなく観賞用の植物たちだけだ。
増園した時に、使わなくなったこの畑が可哀想だと看護婦たちが俺たち2人の好きな花を植えてくれているのである。この村の発展はここから始まったと言ってもいい。
多少の懐かしさを覚えつつ、アルマは裏口の扉を開ける。鍵もかけずに不用心だと思うが、医者曰く、
『どこの家とも区別がつかん場所を狙うわけがない』とのことだった。
中に入ると、鼻の奥を薬品の匂いが掠めていく。床には調剤などに使うフラスコや本が置いてあり…いや、散らばっていると言う方が近いか…
本人のだらしなさが垣間見える。
(看護婦たちが見たら激怒するだろうなぁ…)
そう思いつつ、奥の調薬室へと向かう。そこには、大量の本と器具に囲まれ机に伏している医者の姿を見つけた。
徹夜で薬品を作っていたことが伺え、アルマはそっと扉を閉じた。
そのまま、慣れた足取りでキッチンへ赴き持ってきていた食材を丁寧に調理しだす。
手際よく朝食の準備をしていき、キッチンからは小気味良い包丁の刻む音が聞こえ出した。
しばらくすると、部屋全体に漂っていた薬品の匂いを押し出してスープの香りが広がっていた。
机に突っ伏していた医者の鼻腔を柔らかいスープの香りが入り込み、脳内に『起きろ』の命令を下した。
(もう、そんな時間か…)
と、長い時間無理な体勢で寝ていた体を伸ばすとゆっくりと、まるで亡者のように部屋から出てくる。
「ハルナ先生、ちゃんとベッドで寝ないと体に悪いですよ。」
もそりもそりと、動く気配にアルマは口うるさい母親のように話しかける。
「あんたは、私のオカンか。」
と、ハルナと呼ばれたボサボサ髪の医者はほとんど目の開いていない顔で反論した。
そのまま洗面台へいき、慣れた手つきで髪をまとめ上げる。歳は30代半ばだが、整った顔立ちにスタイルのいい容姿が鏡に映る。美人と言われる部類だろう。
よく、若い衆に求婚をされているがハルナ自身あまり恋愛などに興味がないらしく、いつもその要求を突っぱねている。
ロベルトお前の道は険しいぞ、そう心に思った。
ハルナの支度も終わる頃、テーブルには朝食が並べられていた。
ハルナは向かいに座りスープに手をつける。一口飲むとハルナの眉がピクッと動くのが見えた。
「アル、また腕を上げたじゃない?」
そう言うと、器の中のスープをペロリと平らげていた。
「交易で珍しい食材があったので使ってみました。多めに作ってあるので、それを今日は食べてください。」
アルマの話を片耳に、いち早く食事を終えたハルナは今日の予定を確認しているようだった。
そうだ、と、思い出したようにアルマは薬草の新芽が入ったカゴを手渡す。
「薬草の新芽!ロベルトは仕事が早いからいい。」
ハルナはカゴを受け取り、また調薬室へと入っていく。
「新芽はやはり成分の抽出がしやすい。」
と、嬉しそうに喋っている。
「ロベルトがよろしくと言っていましたよ。それに、製造所に直接いえばいいんじゃないですか?」
なぜ、手間のかかることをするのかと尋ねると
「あいつは私が頼むと、すぐにやってくれるからね。朝イチで欲しい時はそうしてるの。それに嬉しそうにしてくれるから便利なのよ。」
ロベルト、お前都合のいい小間使になってるじゃないか…
幼馴染の哀れな実態を知りアルマは少しだけ不憫に思った。
「それより、アル。今日は王都のギルドまで回復薬を納品しにいくんだよね?」
ひょっこり調薬室から顔を出してハルナは言った。
「そうですね。御者の人がしばらくしたら到着するのでそれまで片付けでもしようかなと。」
そう言って散らばっている部屋を目線で見渡す。
「…すまない。そうしてくれると助かる。」
散らかしていることが少し恥ずかしいのか顔を隠している。
何を今更恥ずかしがるんだ。いつものことだろ。と多少呆れつつ大丈夫です。と返事をする。
薬品の製造は他に任せているとはいえ、本人も研究者気質で自分で調べないと済まないタチらしい。
それに、ハルナは両親のいない俺をここまで育ててくれた。その分恩返しがしたい。だから少しでも役に立ちたいからこそ、朝食や回復薬などの作成を手伝っている。
朝食の片付けを手早く済ませ、俺は散らかっている部屋の掃除を始めるのだった。
外は朝日も上り、もう間も無く看護婦たちも出勤してくる。この惨状を見て2人の怒号と絶叫を朝っぱらから聞きたくはないのである。
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