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第13話 新しい友人

 勇者一行の荷物持ち13話更新させていただきました。

 

 相変わらず、馬車に乗っても三人は騒がしかった。いつもは、こんなに賑やかなことも珍しいからかオヤジもなんとなく楽しそうだ。


「薬だけじゃなく馬車まで…。本当にありがとうございます。」


 申し訳なさそうに剣士が話しているが、盗賊に襲われたりするよりこっちの方が何倍も楽しい。旅は道連れって言うしな。


「自己紹介がまだだったね。俺はアルマ。よろしく。」


「申し遅れました!俺はトランって言います。」


 アルマが挨拶ついでに握手を求めると、慌てて手についた汚れを落としつつ手を握る。


 表情や動作のぎこちなさが駆け出しの冒険者って感じで初々しいな。でも、


「意外と鍛えてるんだな。」


 まだ15,6歳程度だと思ってはいたが、装備の下はかなり鍛え込まれているらしい。

 袖口から見える腕には多数の切り傷が見えた。


 アルマが腕の傷に気付いたのがわかると、手を引いてサッと隠してしまった。


 あんまり、誰それと見せたいものじゃないしな。申し訳ないことをした。


「私《わたくし》はノアと申します。トラン様は、依頼のほかに時間があれば、王都の戦闘訓練にも参加していますの。」


 白僧侶、もといノアは最初の見立て通り、どこかの貴族の娘らしい。

 親は愛娘が危険な冒険者になるのを心配しなかったのかと思ったが、どうも貴族の間でも自分の息子,娘を冒険者にするのは少なからずいるらしい。


 まあ、ノアの親は猛反対して引き留めたらしいが…


「そうやってノアが甘やかすから、トランは弱いままなのよ。傷なんて冒険者になれば多かれ少なかれつくに決まってるじゃない。」


 確かに、この魔法使いの言う通りだな。跡に残る傷は嫌だけど、経験の積んだ冒険者はほとんど傷持ちだし、義手や義足の冒険者もいる。


 また三人で言い争いが始まる。本当に口喧嘩が好きなパーティだな。

 こんなんで、上手くやれてるのか?


 三人の口喧嘩を諌めると、魔法使いは恥ずかしそうに一つ咳払いをする。


「アタシはルナミリア。ルミナでいいわ。よろしく。」


 剣士のトラン、僧侶のノア、魔法使いのルミナこの三人は半年前にパーティを結成したらしい。

 まだまだ三人は駆け出しで、今日は近くの大黒蟻(ギガアント)の討伐依頼をこなしていたようだ。


 単独で行動している大黒蟻(ギガアント)なら数人で囲めば倒せるくらいの、まさに初心者向けの魔物なのだが、何を思ったのかルミナが巣に火炎魔法で火をつけたせいで中から大群で襲ってきたらしい。


 本当に何を考えてるんだ。大黒蟻単体ならEランク程度の魔物で済むが、群れになると途端にCランク相当へと跳ね上がる。こうなったら駆け出し冒険者だと歯が立たない。逃げの一手しか方法はない。


「でも、こうなったのもルミナが爆発させたせいだしぃ。」


 ノアが目を細めて睨みつけるが、嫌なところを突かれたのか目を合わせないようにそっぽを向く。完全にトラブルメーカーじゃないか…。


「そういえば、前衛が居ないんだな。」


 一瞬で言い合っていた2人の声がぴたりと止む。トランに至っては暗い表情をして俯いている。また、俺は地雷を踏んでしまったのだろうか。


「実は…少し前までは居たんですが…」


 言い難いことなのか、トランが一言言うたびに他2人の顔色が悪くなっていく。


「抜けちゃったんです…。俺たちが弱すぎたせいで……。」


「……はい??」


 アルマの理解が追いつかないうちに三人が泣き始める。


「わかってるんです!わかってるんです!俺が弱いのは!冒険者に向いてないのもわかってるんです!」


「ダメです!トラン様が冒険者辞めちゃったら私《わたくし》また実家に強制送還されちゃうんです!それだけは絶対に嫌!」


 トランとノアが共依存に陥った恋人同士みたいになっている。


 それに引き換え、ルミナは縮こまりながらブツブツと何か喋ってるし…。現場はカオスだ。


「ギ、ギルドで前衛の斡旋とかしてくれないのか?」


「してはくれるんですが、向こうも俺たちが弱小冒険者なのはわかってるので、名を上げたい冒険者は絶対に入ってくれないんです。」


 トランがぐしゃぐしゃの顔のまま泣きついてくる。やめてくれ。俺の服に何かの汁がついたじゃないか。


「それに、私達のパーティ自体魔力をたくさん使うので魔力薬《ポーション》も大量に必要になってしまい…どんどんお金も無くなってしまい…。」


 ノアも力なく嘆いている。ルミナは……相変わらず縮こまってるし…。


 話を聞けば、ノアはこのパーティの回復と強化サポートを兼任しているようだが、そもそも彼女自体、回復魔法に適性が乏しいため、使っても仲間の傷を回復しきれない。

 

 魔力量が多いと魔法攻撃にも耐性があるが、その分、味方の回復魔法も効きづらくなってしまう。


 ノアとルミナは魔法中心だし、ノアに至ってはそれに味方のバフも担ってるからそういった消費も激しいんだろう。ジリ貧にもなるわけだ。


 適正のない回復魔法と本来の支援魔法、それを補うためのポーションの消費。まさに負の連鎖。


「この際、誰でもいいんです。前衛を担ってくれるなら!」


 いい加減君は、俺の服をタオル代わりにしないでもらえるかな。まあ、それほど苦しい状況なのかもしれないけど。


「何なら、アルマさん俺たちのパーティに入りませんか?」


 節操なしかよ。そんな涙目で俺に言われても配達の仕事があるし。


「すまないが。俺は"魔力なし"なんだよ。だから、魔法も使えないし、冒険者にもなれないんだ。」


 しがみついているトランを引き剥がす。そろそろ、服を汚されるのが嫌になってきたしな。


「"魔力なし"って…本当なの?」


 いつの間にか復活したルミナが聞いてくる。表情から信じられないといった感じだ。


「本当だよ。俺は魔力を持って生まれてない。もし、君たちの仲間になっても足手纏いになるだけだよ。だから、他を当たりな。」


 ルミナはまだ信じてはいないような感じだけど、トランとノアは何か聞かない方が良かったんじゃないかと言いたげに表情を曇らせてしまう。


「いいんだ、気にしなくて。魔力がなくて困ったことはないしね。」


 まあ、困ったことといえば、それこそ冒険者になれなかったことぐらいだし。今の生活に支障はない。


「信じられないわ。魔力がないまま産まれることなんて聞いたことないもの。」


「信じられないなら、鑑定魔法で見てもらっても構わないよ。」


 トランの鑑定魔法がどこまで見れるのはわからないが、三人の反応見れば予想はついた。


 当の本人はあまり乗り気ではなさそうだが。


「あまり人に鑑定魔法を使うのはやりたくないんですが…」


 それもそうか。個人情報だし、される方もあまりいい気はしないか。


「大丈夫だよ。俺は気にしない。」


 トランも仕方ないといった感じで鑑定魔法を使う。


「ほ、本当に魔力がない…。」


 トランの言葉にルミナも納得したのか謝罪してくる。俺からしたら普段のことだから謝罪なんていらないんだけど。


 ただ、なぜか鑑定を使ったトランがずっと俺のステータスを見つめている。何が書いてるのかわからないから少し恥ずかしいな。


「何か変なものでも付いてた??」


 恐る恐る聞いてみる。俺の知らない間に、何か呪いみたいなのがついてるかもしれないと思うと怖からさ。


「いや、すいません。別に変なものとかでは…ないんですけど…」


「あまりに真剣に見てるから、呪いでもついてんのかと思ってさ。」


 何か言いたそうだけど、言葉でも選んでいるんだろうか。また真剣な表情で悩んでいる。


 いいんだよ。本当に気にしなくて。


「ダンナァ〜。それとみなさん。もうそろそろ着きますぜぇ。」


 馬車の速度も段々と遅くなり商人用の待機列に並ぶようだ。冒険者用の入り口とは別になるからトラン達とはここでお別れかな。


「今日はありがとうございました。アルマさんがいなかったら私《わたくし》たちもどうなっていたか。」


 三人は感謝を込めて頭を下げ、馬車代だと財布から路銀を渡そうとしてくる。いらないって言うんだがノアがどうしても引き下がらない。


 仕方ないから、銀貨一枚だけ貰うことにした。三人にすごい感謝されたが、話し相手になってくれたし良いってことだ。


「それと、これ持って行きなよ。」


 馬車から降りるトランに、回復薬の入った鞄を渡す。気休めぐらいにしかならないだろうが、まあ、少しの間なら持つだろう。


「本当に何から何までありがとうございます。それと、アルマさん…」


 トランが去り際に何か言おうとしてくる。言い辛いのか少し悩んだ様子だ。やっぱり何か呪いでもついてたんじゃ…


「魔力がなくても冒険者にはなれます!気休めかもしれないけど、"魔力なし"でも諦めなければ絶対!」


 そう言って、トランはアルマの手を強く握りしめる。


「ありがとう。でも今はこの仕事が楽しいんだ。また、会えると良いな。」


 そうですか…とトランは少し寂しそうにする。でも、そう言ってくれたのはとても嬉しかった。


 三人は手を振りながら入口の方へ歩いていく。騒がしかった荷台も無機質な箱だけが静かに並んでいる。


 騒がしいとは思ってはいたが、いつの間にかそれを楽しんでいたのかもしれない。


「行っちゃいましたねぇ。荷台も嘘みたいに静かだ。」


「あぁ。またいつか会えるかもな。」


 これから先、もっと大変な冒険が待ってるんだろうけど…でも、あの三人なら乗り越えていけうな気がする。

 そう思えるくらい、あいつらの事が好きになっていた。


「次に会うときには有名な冒険者になってるかもしれんですなぁ。」


「良いね。英雄王トラン…とかな。」


 そりゃないか。そう言うとオヤジと2人、大声で笑い出す。まだ見ぬ彼らの勇姿を思い描いて。

 

そうなったら酒の肴にでもするかな。


 新しくできた友人たちを見送ると、アルマは荷台に戻る。俺もそろそろ自分の仕事をしないといけない。


 この仕事が楽しくないと言うわけじゃない。でも、自由なあいつらを少しだけ、羨ましいと思って。

 


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