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093 ワープゾーンを探す

 俺の探知マップに〈遭難者〉の表示が現れた。俺たちのいるところから400モラほど離れた場所だ。


「遭難信号だ! フィルナ、見つけたぞ!」


「えっ! ホントにあったの!?」


 半ば諦めて掛けていたフィルナは目を輝かせて顔色を明るくした。


 俺たちは大きな岩がゴロゴロと転がっている草地の中を遭難地点へ走っていった。


「ここだ。掘り返してみよう」


 30分ほど土を掘り返して、深さ2モラの地中から出てきたのは探索者用発信器だった。考えてみれば遭難信号を出しているアーティファクトだから、これが出てくるのは当然だ。


 探索者用発信器の遭難信号を解除して遭難者の情報を読み取った。メニューの「メモ」を開くと「遭難者ミルガストの記録」というのが新たに追加されていた。


 記録はミルガストという神族が2751年4月22日に魔獣討伐に出掛けるところから始まっていた。ミルガストは初代の神族であり、マスター(天の神様)からの使命に忠実だったようだ。


 ミルガストの記録の中から重要なところをフィルナに読んで聞かせた。


「二代目や三代目の神族たちは好き勝手な場所に自分が支配する街を作り上げているが、彼らは自分の街の地下にダンジョンが根を伸ばしていることに気付いているのであろうか? ダンジョンは明らかにウィンキアソウルが造り出したものであり、人族を襲わせ駆除するために魔物や魔族を集める仕掛けだ。彼奴あいつらはこの穴の底で憎き魔獣や妖魔どもに変異するのだ。

 我はマスターから与えられた使命にしたがい、毎年、ダンジョンに潜って魔獣や妖魔どもの討伐を続けてきた。

 今年はこのダンジョンを下りてきたが、一番底に到達して、とんでもない場所を見つけた。大きな岩の柱に支えられた広大な地底空間だ。雑草や雑木が生い茂り、魔獣だけでなく、見たこともないような巨大な魔獣までが徘徊している。この巨大魔獣が地上に現れたら、人族など一瞬で滅ぼされてしまうだろう。

 だが、そうはさせぬ。我らがそれを阻むのだ。我は使徒たちを引き連れて巨大魔獣に挑みこれを打ち滅ぼす所存だ。マスターが姿を隠されてから2千数百年の時が流れてしまったが、どこかで必ずや我らの働きを見ておられるはずだ。どうか我らにマスターの加護が与えられんことを……」


 ミルガストと使徒たちもたぶん大魔獣との戦いで敗れ遭難したのだろう。ビヨルデがこのドームで遭難する80年ほど前のことだ。


 ミルガストがどんなアーティファクトを持ち出していたのかは記録に無かった。神族が自ら使徒を引き連れて魔獣の討伐に来たのだから、きっと多くのアーティファクトを携えてきたに違いない。


「ねぇ、ダイル。この周りだけでも探してみない?」


「そうだな」


 それから俺たちは3時間ほど土を掘り返したが何も見つからなかった。アーティファクトどころか金属や骨の欠片も出て来なかった。大爆発で四方八方に飛び散ったのだろう。それを掘って探すのは俺たちには不可能だ。


 成果が無かったこともあって俺たちは疲れ切っていた。ワープゾーンを探すのは翌日に伸ばして、キャンプした地点に戻りもう一泊した。


 ………………


 翌日の朝、俺たちはまた岩壁に沿って歩き始めた。次のワープゾーンはキャンプ地点から3ギモラほど歩いたところにあった。窪みの入口は10モラくらいの幅があってだんだん狭くなり右曲がりの通路になっている。その先は正方形の部屋だった。今までと同じような形だ。


「よし、入るぞ」


 俺はフィルナの手を取ってワープゾーンに踏み込んだ。


 目の前に通路が現れた。ワープしたのだ。通路の向こうは雑木の林のようだ。


 俺は通路に入って、自分たちの位置を調べた。マップで1万年前の航空写真と照らし合わせてみると、真上が湖で、その北に高い山脈が東西に走っている。俺の〈知識〉から推測すると、ここはメリセラン王国の地下にあるダンジョンだと思われる。


 メリセラン王国は人族の国であり、メリセ神が支配している。ベルドランからは直線で1000ギモラほど東に離れている。ダンジョンの真上にある湖はメリセ湖だ。


 俺の探知マップには半径400モラの範囲に三頭の魔獣が表示されている。大魔獣かどうかは探知魔法では分からない。ともかく、このドームは魔獣の影が濃いようだ。


「ここはメリセラン王国のダンジョンだと思う。魔獣が多そうだから慎重に進もう」


 岩壁に沿って少し歩くと雑木の林は終わり草原に出た。遠くに何頭もの魔獣の姿があった。その中の二頭は大魔獣だ。この場所は超危険だ。


 ビヨルデのマップを見ると、このドーム内にも遭難者がいるらしいが、大魔獣が徘徊しているドーム内でそれを探して掘り出すのは困難だ。俺たちはアーティファクトの探索は別の機会に譲ることに決めて、今はワープゾーンを探して先に進むことにした。


 身を屈めながら進んだ。俺がフィルナの手を取っているのは、万一、大魔獣に見つかったときにすぐに亜空間シェルターに逃げ込むためだ。


 なんとか魔獣に見つからずに1時間ほど進んだ頃、ようやく次のワープゾーンに行き着いた。とっとと次の場所へワープしよう。


 ………………


 次にワープした先にもマップで見ると真上に湖があった。湖から北西に向かって山脈が伸びている。ここはフォレスラン王国のようだ。


 フォレスラン王国も人族の国だ。フォレス神が支配していて、ベルドランからは南東に800ギモラほどのところに位置している。真上にある湖はフォレス湖だ。


「なかなかバーサット帝国に行き着かないわね……」


「ベルドランのドームを出発したときに、トンネルを出たところで右へ行くか左へ行くかで迷ったろ? あのとき、俺たちは右へ行ったけど、左が正解だったのかもしれないな」


「でも、アーティファクトとビヨルデのマップを見つけたのだから、こっちも大正解よね」


「そうだな」


 フィルナの明るい笑顔に俺も嬉しくなった。


 このドームにも魔獣や大魔獣が数多く徘徊していた。ビヨルデのマップで見ると、ここにも遭難者がいるらしいが、宝探しをするのは危険すぎる。


 魔獣たちの注意を引かないように用心しながらまた1時間くらい歩いて、次のワープゾーンへ移動した。この調子で移動ができれば遅くとも数日中にはバーサット帝国の近くへ行き着くだろう。


 ………………


 次のワープで辿り着いたのも別の場所だった。マップを見ると、真上に大きな湖があり、その周囲は平野に囲まれている。〈知識〉から、この湖はクドル湖だと分かった。ベルドランの南東に位置していて、直線で1200ギモラ以上離れた場所にある。


 クドル湖の周囲には北岸にレングラン王国、南岸にラーフラン王国、そして東岸にはダールム共和国がある。二つの王国はそれぞれレング神とラーフ神に支配されていて戦争状態らしい。ダールム共和国は商人と職人の国であり、フィルナの生まれ故郷だ。どの国も人族の国だった。


 ここのドームも魔獣の影が濃かった。半径400モラの探知範囲に三頭の魔獣がいる。


 俺たちは魔獣に見つからないように身を屈めながら岩壁に沿って歩き始めた。30分ほど歩いたところで進行方向に大きな障害があることが分かった。岩壁のすぐそばに大魔獣がいた。巨大なボンジャスピガロード(魔獣サソリ)だ。距離は約400モラだ。


「あんなハサミで挟まれたら、あっさりと死ねるな」


「冗談言ってる場合じゃないでしょ。どうするの?」


 フィルナの顔は恐怖のせいか強張っていた。俺も怖い。


「岩壁から離れて、迂回するしかないだろ? 万一の時は亜空間シェルターに逃げ込めるから大丈夫さ」


 迂回するためには魔獣たちがウヨウヨしているドームの内側に足を向けるしかない。気が進まないが、あの巨大サソリと戦うよりはずっとマシだ。


 俺はフィルナの手を取ってドームの中心方向へ歩き始めた。前方には500モラほど離れたところに草原の丘があって、その裏側は見えない。


 稜線に近付くと、丘の反対側の風景が見えてきた。500モラほど先に巨大な岩の柱が聳えていた。いつも見ている岩の柱の何倍もの太さがあった。巨大な柱には天井まで届く窪みらしき縦の筋が見えていた。もしかするとワープゾーンかもしれない。


 これと同じような巨大な柱を実はナバルランのドームでも見掛けたことがある。アーティファクトを探してドームの内側に入ったときだ。そのときは数ギモラ離れたところだったので調べなかった。今回は柱までが近いから調べてもいいが、やはり危険過ぎるな。


「この丘の稜線に沿って先に進もう。稜線なら見晴らしが良いから大魔獣がいたらすぐに分かる」


 俺はそう言いながら周囲を見渡した。一番近くの魔獣は俺たちの後方400モラ辺りにいる。こっちには気付いていない。遠くに見える巨大な猪も大魔獣だろう。だが1ギモラ以上離れている。一番注意しないといけないのは岩壁にいる巨大サソリだ。距離は500モラだ。


 俺たちは稜線を進み始めた。するとどうしたことか、巨大サソリがこちらに向かって移動を始めた。ゆっくり進んでくる。偶然にこちらへ来ているだけだろう。


 いや。急に加速しやがった。やっぱり俺たちに気付いてるみたいだ。


「あの大きい柱を目指そう。俺の前を走るんだ!」


「分かった!」


 俺の5モラ先を浮上走行でフィルナが走っていく。巨大サソリは丘の影に隠れて見えなくなったが、俺の探知マップで300モラの距離まで迫っていることが分かっている。


「フィルナ、止まって!」


 俺はフィルナの手を取って亜空間シェルターを発動した。一瞬で周りの風景が淡い灰色のモノトーンに変わった。ほぼ同時に巨大サソリが稜線に現れた。


 亜空間シェルターにいる俺たちからは周囲の風景が薄っすらと見えるが、サソリからは俺たちの姿は見えないはずだ。だが、巨大サソリはまっすぐにこっちへ向かってきた。丘の稜線からここまでは250モラほどだが、10秒後には俺たちのすぐそばまで迫っていた。


 ※ 現在のダイルの魔力 オーブA〈421〉、オーブB〈328〉。

 ※ 現在のフィルナの魔力〈324〉。

 ※ 現在のハンナの魔力〈280〉。


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