092 亜空間シェルター
バイオルコンソードの試し切りをするために、近くに転がっている直径1モラくらいの硬そうな岩の前に俺は立った。
「大丈夫なの?」
フィルナが後ろから声を掛けてきた。俺のことじゃなくて、剣のことを心配してるのが見え見えだ。
俺は剣を上段に構えた。意外に軽い。この剣、本当に大丈夫なのか? 頭の中にそんな不安がチラッと過ぎったが、それを振り払って「えいっ!」と気合を入れて振り下ろした。
なんと! スパッと岩を両断した。切断された岩がごろっと転がる。手には衝撃はほとんどない。まるで良く切れる包丁で大根を切るような感じだった。しかも、刃の長さは70セラほどなのに、それ以上の奥行きがある岩を一刀両断しているのだ。
「ほぇっ……」
後ろから変な声が聞こえた。余りの凄さにフィルナは呆けているようだ。
俺は急いで剣にひび割れや刃毀れが無いか確認したが、異常はなかった。たしかに凄い剣だ。
連続して切ることができるだろうか? それも試しておくことにした。
別の岩に対して連続的に剣を振るった。一刀目はさっきと同じように切断できたが、二刀目は「キン」という金属音がして剣が跳ね返された。衝撃はほとんど無いし、刃毀れも無い。三刀目。心配したが一刀目と同じように難なく岩を切断できた。
どうやらこの剣で相手を攻撃すると、付呪されている鋼打撃と電撃の魔法が自動的に発動されて凄い威力で相手に打撃を与えるが、その後でロスタイムが2秒ほど生じるようだ。魔法発動後に剣への魔力供給が追い付いていないせいだろうな。試しておいて良かった。
「もう一つのアーティファクトも試してみよう。記録に亜空間シェルターって書いてあったやつだ」
俺はビー玉大の金属球を取り出した。契約して「契約済み魔具一覧」を開いてみると「亜空間シェルター その1」という名前が新たに追加されていた。
その名前を開くと説明が出てきた。
〈亜空間シェルター その1
付呪:亜空間バッグ〈500〉、バリア〈500〉
ソウルゲートからの魔力供給〈1000〉
付帯機能:生命維持、排出処理、自動修復〉
〈この魔具に名前を付けると、名前で呼び出せるようになります〉
〈名前を付けますか?〉
名前? そのままで良い。「亜空間シェルター」だ。
「契約できたから、使ってみるぞ」
「大丈夫なの? 亜空間に生き物を入れることはできないのよ。もちろん、人間も入れないわ」
「たぶん大丈夫だと思うぞ。生命維持っていう付帯機能が付いてるから……」
でも、正直言って怖い。もし、亜空間シェルターを発動して中に入った途端に窒息したらどうしよう……。
考えると余計に怖くなってくるから、とっとと試してみよう。使い方は予想できる。さっきの剣で試行錯誤したからな。
起動方法はこんな感じだろう。俺は『亜空間シェルター発動』と念じた。すると、周りの風景から色が消えて、灰色っぽいモノトーンで薄っすら見えるような状態になった。
息は……、大丈夫。ちゃんと呼吸はできる。
俺のすぐ近くにいるフィルナはキョロキョロしている。俺が見えなくなったのかな? フィルナに触れようとすると、俺の手はフィルナの体を通り抜けた。僅かに何かに触れた感じはしたが、通り抜けてしまうのだ。
俺が触ってもフィルナは何も気付かないみたいだ。まだキョロキョロと探しているから俺のことは見えていないのだろう。
「フィルナ、聞こえるか?」
俺が問い掛けてもフィルナは反応しない。念話も通じなかった。
この亜空間シェルターの大きさは5モラ四方のようだ。なぜなら俺がそれ以上移動できないからだ。移動しようとしても透明な壁に阻まれてしまうのだ。
『亜空間シェルター解除』と念じると周りの風景が普通の色を取り戻した。
「急に姿が消えたから心配したのよ……」
フィルナが俺に抱き付いてきた。心細かったのだろう。
俺たちはまた色々試してみた。その結果、亜空間シェルターを発動したときに体を接触していると一緒にシェルターの中に入ることができると分かった。
フィルナの話では、俺がシェルターに入っているときには、俺の姿は全く見えなかったらしい。俺が触ったときも何も気付かなかったと言う。
俺がシェルターに入った状態で、俺に向けてフィルナに熱線魔法を放ってもらった。熱線は俺の体を通り抜けて、そのまま反対方向へ消えていった。
どうやらこのシェルターに入っていれば物理的な攻撃も魔法による攻撃も防げるようだ。
「この亜空間シェルターは使えそうだな。危なくなったら、この中に逃げ込めばいいんだから」
「でも……、シェルターに逃げ込んだ後で、もし見つかったら袋のネズミになるわよ。そうなったら、シェルターの中にずっと閉じ込められて、餓死するか、シェルターから出た途端に殺されるか……」
「そっか。たしかに、その危険性はあるな。つまり、このシェルターは非常時の最終手段ってことだな。飢え死にするのはイヤだから、亜空間バッグに食料は半年分くらい入れとこうか……」
亜空間シェルターの中でも魔法は使えるし、亜空間バッグからの出し入れができることは確認済みだ。ただし外にいる相手に念話をしたり、攻撃魔法を仕掛けたりすることはできない。
「あっ! でも、トイレとかどうするんだろ?」
「えーっ! トイレが無いと、私、餓死する前にそっちで死んじゃうよー!」
さっそく確認することにした。
二人でシェルターに入って内部をじっくり見渡すと、隅に長くてぐにゃっとしたホースのような物が出ていて、ホースの先に細長く曲がった洗面器のような物が付いていた。
「トイレは……、これかな?」
ホースは部屋の中の空気を凄い勢いで吸い込んでいた。まるで掃除機のホースだが、太さはその5倍くらいはありそうだ。
「これがトイレ? こんなの、どうやって使うのよ?」
俺は曲がった洗面器を自分の股の間に挟んで見せた。ピタッと吸いつく。革のズボンが吸い込まれそうな感じで何とも刺激的だ。
「もちろんズボンやパンツは脱いで使うんだ。やってみる?」
「ダイルのバカっ! へんたい!」
「でも、実際に古代人はこれを使ったと思うぞ? この亜空間シェルターには排出処理ってのが付帯機能で付いてるから、たぶん、このホースのことだな。オシッコやウンチだけでなく、ゴミや汚れた水なんかも全部ここから排出しろってことだと思う」
「排出した物はどこへ行くの?」
「さぁ? 亜空間の中に漂うのかな? それとも誰かの亜空間バッグにこっそり入ってしまうとか……?」
「やだーっ! ダイルって、やっぱり変態だったのね!」
フィルナは半眼で俺を睨んだ。
シェルターから排出された物がどこへ行くのかは分からないが、今のままではトイレが使えなくて死んでしまうとフィルナがうるさく言う。結局、シェルターの中にトイレ用の小部屋を後で俺が作るという約束をさせられてしまった。
その後、この亜空間シェルターは非常用ではなく常用になった。内部にテントを常設しておいて、キャンプするときはいつもこの中で寝るようになったからだ。テントの隣には半畳ほどの小屋を作った。トイレ兼シャワールームだ。
結局、亜空間シェルターはキャンプするときに俺たちの必須アイテムになってしまった。原野や魔樹海、ダンジョンの中でキャンプするときに、便利で快適、そしてどこよりもこのシェルターの中が安全だったからだ。
………………
翌日。俺たちはドームの中を10ギモラほど移動して、もう一つの遭難地点に来ていた。魔獣や魔物がいないから移動は楽だった。
「ビヨルデのマップでは遭難地点はこの辺りのはずだ。だけど、遭難信号がキャッチできないな。マップの場所が間違ってるってことか?」
俺は辺りを見渡した。一面の草地で、俺たちが居る場所は窪地になっている。周りは、ここよりも50モラほど高い丘だ。
「ねぇ、ダイル。あれを見て……。何かしら?」
フィルナが真上を指さしている。見ると、300モラほどの高さにある天井から大きな岩のような物がいくつも突き出ていた。いや、違うな。あれは……。
「天井に大きな岩が食い込んでるみたいだな」
「それって、どういうこと?」
なんとなく分かった気がする。この窪地。周囲の丘。天井に食い込んだ岩。
「ここで大きな爆発があったみたいだ。ちょうど俺たちが立っているところが爆心地だな」
この場所を中心に半径200モラくらいのクレーターになっていたのだ。
「遭難の原因がその爆発ってことなの?」
「たぶん、そうだろうな。爆発の原因は分からないけど、これだけの大きな穴が空いてるってことは相当に規模がデカイ爆発だったのだろう」
「それなら、古代のアーティファクトは?」
「さぁ……? 爆発で粉々になったか、どこかに吹き飛ばされたか……」
「そうよ! きっと吹き飛ばされたから、この場所に無いんだわ。ねぇ、ここで諦めないで周りを探してみましょうよ」
う~ん。フィルナからいつにない執念を感じるぞ。
俺たちは爆心地から同心円を描いて進みながら遭難信号を探して歩いた。
すると、なんと! 丘を越えて1時間ほど歩いたところで信号をキャッチしたのだ。爆心地から800モラほど離れた地点だった。
※ 現在のダイルの魔力 オーブA〈421〉、オーブB〈328〉。
※ 現在のフィルナの魔力〈324〉。
※ 現在のハンナの魔力〈280〉。




