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091 ビヨルデのマップ

 俺は「遭難者ビヨルデの記録」に目を通しながら、要旨をフィルナに説明していった。


 記録は紀元2832年5月14日にビヨルデが上司のバリダウルから任務を与えられたところから始まっている。


 仮に、天の神様がこのウィンキアに降り立ったときを紀元ゼロ年だとすれば、この記録が書かれたのは今から7千年以上昔ということになる。


 記録から分かったことだが、バリダウルというのは初代の神族の一人で、この時点では初代の神族としては最後の生き残りだったらしい。ほかの神族は二代目や三代目になっていたようだ。


 ビヨルデはバリダウルの使徒であり、天の神様に連れられて異世界からこのウィンキアに渡ってきた人族の一人だった。


 ビヨルデがバリダウルから与えられた任務は、「遭難地点情報に基づき遭難者を捜し出して、遭難者がソウルゲートから持ち出した装備品を回収せよ」という仕事だ。


 ソウルゲートって何だろ?


 〈知識〉を探ったが情報が無い。フィルナに聞いても分からないと言う。仕方ないから、記録の続き読むことにした。


 ビヨルデはこの任務を与えられたときにバリダウルから言われたことをメモしていた。これは重要そうだ。バリダウルが話したという言葉をそのままフィルナに読んで聞かせた。


「我らはマスターから魔獣や妖魔の討伐を命じられ、この世界に一緒にやってきたコマンダーやその使徒たちが使命を果たすために戦った。そしてその多くが途上で遭難していった。その遭難と共に、マスターがお作りになった装備品の大半が失われた。ソウルゲートの装備品を新たに作ることができるのはマスターだけだ。しかしマスターはこの世界に来てすぐに行方不明になってしまわれた。装備品の大半が失われてしまった今、戦いの継続は困難を極めておる。

 さらに悪いことに、コマンダーの子供や孫たち、つまり二代目や三代目の馬鹿者どもが魔獣や妖魔の討伐を放棄し、人族同士の争いをけしかけるようになってしまった。

 二代目や三代目たちはソウルゲートに入ることもできない能無しどもだ。マスターの行方が分からないことや装備品が失われてしまったことを理由に、二代目や三代目たちはマスターから与えられた使命をないがしろにし、多くの者がその使命を放棄して私利私欲に走っておる。中にはソウルゲートやマスターの存在を否定する者まで出てきた。ソウルゲートに異空間ソウルなどと別の名前を付けて、自分たちを天の神様から選ばれた神族だと勝手に神格化を始めた者もいるようだ。

 二代目や三代目たちは氏族に分かれて好き勝手に国を作り、人族の中で戦争をけしかけて喜んでおる。なんと嘆かわしいことだ。

 おまえに与えた任務がいかに重要か分かるであろう。必ずや遭難者を捜し出し、貴重な装備品を回収するのだ。装備品さえ取り戻せれば、我らの戦力は格段に高まり、昔のように魔獣や妖魔どもを容易く葬ることができるようになるのだ。二代目や三代目たちに我らが武力を以ってマスターからの使命を思い知らせ、統制することができるようになるのだ。

 遭難した者たちは皆、任務に忠実な我ら初代のコマンダーとその使徒たちであり、全員が探索者用発信器を持って任務に就いておった。だから、遭難した大凡おおよその場所も特定できておるのだ。おまえに渡すこの発信器のマップにその遭難位置の情報を入れておいた。この情報に基づいて捜索を開始するのだ。

 僅かに残った装備品の中からバイオルコンの剣と亜空間シェルターをおまえに貸し与える。けっして無理をしてはならぬ。手強い敵に遭遇したら亜空間シェルターに逃げ込むのだ。そして、必ず装備品を回収して無事に戻って来い」


 バリダウルの話は難しくて何度も読み返してしまった。マスターというのは天の神様のことで、コマンダーというのは神族のことらしい。


 この話から分かることは、初代の神族であるバリダウルは、二代目や三代目の神族たちが怠慢で好き勝手なことをしているのを嘆いているということだ。それで、自分の使徒であるビヨルデに命じて、天の神様が作った強力な武器や防具を回収させて、その武力で以って二代目や三代目の神族たちを脅して強制的に従わせようとしたようだ。


 それと、明らかになったのはあの剣のことだ。やはり、あの剣はバイオルコンの剣だった。消去法でいくと、ビー玉大の金属球が亜空間シェルターということになるな。


 記録の中にはマップが添付されていた。それを見ると、たしかに〈遭難者〉という表示が世界のあちこちに点在している。


 このビヨルデのマップって、もしかすると俺たちにとっては古代のアーティファクトの場所が記された宝の地図ってことか!? いや、間違いなくそういうことになるだろう。


 記録の続きを見て行こう。


 2832年5月22日に一番近いダンジョンに入ったと記録されている。ビヨルデは自分の部下のロードナイトを二人連れて来ていた。6月5日に最下層に入り、このドームを見つけたと書いてあった。


 ビヨルデが最初に探索に来たのがこのダンジョンだったようだ。マップを見ると、このドームの中に〈遭難者〉の表示があった。俺たちがいる場所からは10ギモラくらい離れている。


 ビヨルデはその遭難者を捜し出そうとして途中で自分自身が遭難してしまったのだろう。


 ドームの中には魔獣が数多くいるだけでなく、今まで見たこともない巨大な魔獣が跋扈しているとビヨルデは書いている。そして、記録はそこで終わっていた。もしかするとビヨルデたちは大魔獣に殺されたのかもしれないな。


 1時間くらい掛けてビヨルデの記録を読み終わった。フィルナは俺が掻い摘んで話すことを聞いていただけだが、最後まで聞いて呆然とした顔をしている。たぶん俺も同じような顔をしているに違いない。


「ダイルが手に入れたマップって、アーティファクトが埋まっている場所を示す地図ってことでしょ? すごい物を手に入れたよね」


「そうだな。でも、フィルナ。これは秘密だ。こんなことが誰かに知られると、俺たちは狙われ続けるぞ。アイラ神にも秘密だ。いいか?」


「うん。アイラ神様に秘密にしておくのは心苦しいけど、ダイルがそう言うのならダイルに従う。でも、ハンナ姉はどうするの?」


 フィルナは少し悲しそうな顔をしている。ハンナにも秘密にすると思っているのだろうか? 俺はフィルナの腰に手を回して引き寄せた。


「心配するな。ハンナは俺たちの家族だ。だから、ちゃんと話すよ」


 フィルナを抱きしめながら耳元で囁いた。熱い口づけを交わして一体感で満たされた後、毛皮の上で寝転んだままフィルナと話を続けた。


「ソウルゲートって異空間ソウルのことだったのね」


「そうだな。さっきのバリダウルの話の中に、ソウルゲートに異空間ソウルという別の名前を付けたって書いてあったからな」


 異空間ソウル。それは神族が異空間に持っている魔力の源泉だ。俺はあらためて〈知識〉で調べてみた。神族は自身のソウル以外にそれぞれが異空間の中に補助ソウルを持っている。この異空間にある補助ソウルは天の神様が作ったもので、異空間ソウルと呼ばれている。それぞれの神族は亜空間の中に通るパイプで異空間ソウルと常にリンクしていて、このパイプを通じて神族へ魔力の供給と能力の補完が行われている。神族はこの異空間ソウルから魔力を尽きることなく引き出すことができるということだ。


「異空間ソウルっていう名前は後から付けられた名前だったのね。正式な名前がソウルゲートだったなんて、初めて知ったわ」


「うん。初代の神族はソウルゲートに入れるのに、二代目や三代目の神族は入れなくて、それで二代目以降の神族たちはソウルゲートやマスターの存在を否定するようになったと書いてあったけど……。なんとなく二代目以降の神族の気持ちが分かる気がするな。行けない場所や居ない者は架空の存在だと考えてしまうからなぁ」


「7千年も前にそんな状態になっていたとすれば、たぶん、今の神族たちも同じでしょうね?」


「と言うか、今の神族たちはソウルゲートやマスターという言葉自体を知らないと思うな」


 その根拠は俺の〈知識〉にその情報が入っていないということだ。アイラ神が知育魔法を使って俺のソウルに〈知識〉を植え付けたと聞いている。その〈知識〉の中にソウルゲートやマスターについての情報が入ってなかったということは、アイラ神もソウルゲートを知らないということだろう。


「そう考えると、神族も万能じゃないんだな」


「でも、私に言わせれば、神族の方々は神様に一番近い存在よ。特にアイラ神様は……」


「そうだな。アイラ神には俺も色々世話になってるし、尊敬に値する神族だな。だが、俺をこの世界に拉致してきたアイラ神の姉や、俺を殺したザイダル神は好き放題にやってるとしか思えないな。神族の中にも性格が良いヤツもいれば悪いヤツもいるってことだ」


 なんとなく話が暗くなってしまった。話題を変えよう。


「ところで、あの剣のことだけど、俺がオーナーになる契約をしていいか?」


「もちろんよ。ダイルが見つけたアーティファクトだから当然あれはあなたの物よ。それに、ダイルが魔獣たちと戦う機会が一番多いのだから、あなたがあの剣を使うべきよ」


「じゃあ、さっそく契約してどんな性能か試してみよう」


 俺たちはテントの外に出て剣を取り出した。


 まず、剣との契約だ。意外に契約は簡単で、普通の契約魔法がそのまま使えた。契約を済ませると、メニューにメッセージが現れた。


 〈ソウルゲート魔具と契約しました〉


 ふーん、ソウルゲートの装備品はソウルゲート魔具と呼ばれていたらしい。


 それよりも、剣がどういう物なのか早く確かめてみよう。メニューに「契約済み魔具一覧」というのがあるから、この中に契約したアーティファクトが表示されているはずだ。


 一覧を開いてみると「バイオルコンの剣 その1」という名前があった。これだな。


 その名前を開くと、剣についての説明が出てきた。


 〈バイオルコンの剣 その1

   付呪:鋼打撃〈400〉、電撃〈400〉

   ソウルゲートからの魔力供給〈450〉

   付帯機能:魔力剣同時発動、持ち手保護、衝撃吸収、自動修復〉


 〈この魔具に名前を付けると、名前で呼び出せるようになります〉


 〈名前を付けますか?〉


 ええと、なんて付けよう? とりあえず「バイオルコンソード」ってことにしとこう。


 とにかく凄いな。魔法は二つ付呪されてるし、魔力剣を纏わせることができるようだ。しかも、自動修復だけでなく持ち手保護や衝撃吸収まで付いている。


「ねぇ、ダイル。自分だけニヤニヤして、ズルイよ。何か分かったんでしょ? 私にも早く教えて」


「あっ、ごめん。剣の性能が凄過ぎて……」


 俺はフィルナに分かったことを説明した。


 その後、色々と試してみて、この剣の出し入れの方法が分かった。念話で『バイオルコンソードを右手へ』と指示すると右手に剣が現れた。もちろん『左手へ』と指示すれば左手に出てくる。『バイオルコンソードを格納』と言えば、それだけで剣が亜空間バッグに入った。指示する言葉は意味さえ明確であれば何でも良いようだ。要は頭の中でイメージを明確に持つことだな。


 フィルナは剣が現れたり消えたりする様子を目を丸くして見ていた。


 次は試し切りだ。魔獣や魔物はいないから、岩でも切ってみよう。この剣は壊れないらしいから、それを信じることにした。


 ※ 現在のダイルの魔力 オーブA〈421〉、オーブB〈328〉。

 ※ 現在のフィルナの魔力〈324〉。

 ※ 現在のハンナの魔力〈280〉。


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