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090 アーティファクト

 いつかと同じ通路を進んで、俺たちは岩壁に囲まれた10モラ四方の部屋の前にたどり着いた。この部屋全体がワープゾーンになっているようだ。部屋の中に踏み込んだら、ワープでどこかへ飛ばされることは分かっているが、その行き先は不明だ。行先を調べるには、部屋の中に入ってみるしかない。


「じゃあ、行こうか」


 俺はフィルナの手を取って中に入った。


 体が引っ張られるような感覚があって、気付くとさっきまでとは明らかに違う場所に俺たちは立っていた。


 ひと目で違うと分かったのは、目の前に通路があったからだ。


 俺たちが立っているのは、さっきまで居たのと同じように岩壁に囲まれた10モラ四方の部屋だ。


 目の前には幅が3モラ、長さが10モラくらいで右曲がりの通路があった。通路を進むと、その先には草原が見えた。やはり、どこかのドームの中なのだろう。


「大丈夫か?」


「えぇ」


 フィルナの顔は少し強張っているが、それは俺も同じだと思う。


「よし。行ってみよう」


 通路の出口近くから草原を見渡した。やはり、さっきまで居たドームと同じような場所だ。


「ここはどこだろ?」


 マップを開いて確認してみれば分かるはずだ。


 俺のメニューの中にはこの世界全体のマップが入っている。と言っても1万年も前の航空写真だ。それに加えて、俺が歩いて探査した場所が自動的に地図に描き込まれていた。


 だが、マップには国や街、街道、ダンジョンなどは記載されていない。1万年前には無かったからだ。


 俺たちが今居る場所はたぶんダンジョンの中だ。だから、マップには描かれていない。しかし、地表の地図はあるはずだ。


 マップで1万年前の航空写真を見てみると、俺たちの真上には湖があった。そのすぐ西には海があるようだ。俺の〈知識〉と照らし合わせると、ここはナバルランの地下らしいと分かった。このドームの真上にある湖はナバル湖だ。


 ナバルランでは5百年ほど前に王国を支配していた神族が滅び、その直後に王国も滅亡した。今もナバルランの街は存在していて、人族と魔族が入り混じって住んでいるそうだ。この街はトワルン王国という魔族の国に支配されているらしい。ナバルランの位置はベルドランから南東に2000ギモラ以上離れたところにある。つまり、俺たちはその距離をワープで瞬時に飛んできたのだ。


 俺は自分のマップから、ここがナバルランの地下にあるダンジョンらしいとフィルナに説明した。


「ナバルラン? 魔族に支配されている国よね? なんだか、このドームは暗いけど、そのせいかしら?」


 フィルナに言われて俺も気付いたが、このドームの中はたしかに薄暗い。天井を見上げると、その輝度はベルドランのドームよりも明らかに暗かった。


「大地の神様もこのドームには力を入れてないのかもしれないぞ。ナバルランでは神族が滅びてしまったからな」


 俺は冗談のつもりで言ったのだが、それは当たっていたようだ。次のワープゾーンを探して岩壁に沿って歩いたが、その間、このドームには魔獣も魔物も全く影が無かった。もちろん大魔獣もいない。やはり、このドームは大地の神様から見捨てられているのかもしれない。


 俺たちはその推測が当たっているのか確かめるために草原の中に足を踏み入れた。と言っても浮上走行の魔法を使っているが。


 岩壁から1ギモラほどドームの内側に進んでみたが、魔獣や魔物は探知できなかった。その代わりに予想外の物を見つけてしまった。


 〈遭難信号を探知しました。探知マップを確認してください〉


 メニューに突然、メッセージが現れた。マップを見ると、400モラほど先に岩の柱があるが、その近くで〈遭難者〉と表示が出ていた。


 そう言えば、以前に「遭難者探知」という機能を獲得していた。ヘルプによると、初期登録者の遭難信号を探知できるようになる機能らしいが、誰が遭難したのだろう? さっぱり分からない。


 俺はフィルナに声を掛けて、一緒にそこへ向かった。


「あの岩の柱の近くに遭難者がいるって探知に出てきたんだけど、フィルナの探知にも何か反応が出てるか?」


「遭難者? いいえ。何も出て無いけど?」


 と言うことは、やっぱり遭難者が探知マップに表示されるのは俺だけの特殊な機能ってことだな。


 その場所に近寄ったが、柱の周辺は草が途切れて岩がゴロゴロしているだけだった。


「何もないよ?」


 俺とフィルナはその場所に降り立った。


「たしかに、何も無いな」


 だが、マップには俺たちが立っている場所に遭難者が居ると出ている。間違いなくこの場所だ。どういうことだろ?


「地面の中ってことかしら?」


「それだ。掘り返してみよう」


 掘削の魔法を使って、少しずつ岩と土を掘り出していった。


 2モラほど掘ったところで長さ1モラくらいの棒が出てきた。固い土がビッシリこびり付いている。魔法で水を出して洗い流すと、驚いたことに鈍い輝きを放つ剣が現れた。長さが80セラほどで諸刃の直剣だ。鞘は無かった。


「ダイル……。これって、もしかすると古代のアーティファクトかも……」


「アーティファクト?」


 フィルナが言った言葉を〈知識〉で調べた。アーティファクトとは天の神様が作ったと言われている宝物のことだ。武器や防具、指輪などのアクセサリー、キャンプ道具など種類は雑多だ。これらに共通していることは、いくつもの魔法が付呪されていて、しかもその魔力は異空間ソウルから常時供給されていることだ。つまり、天の神様が作った異空間に存在する魔力の泉と常にリンクしているから付呪された魔法をどれだけ使おうが魔力が尽きることが無いのだ。


 しかも、古代のアーティファクトはどれもがバイオルコンと呼ばれる生体メタルで作られていて、自動修復機能が付いているから耐久度は落ちないし壊れないそうだ。生体メタルも自動修復機能も今は失われた素材と技術であり、古代のアーティファクトだけが持つ特質なのだ。


 そのアーティファクトを使えるのは、それと契約したオーナーか、オーナーが許可をした者だけだ。他の者はそれを使うことはできず、無理して使おうとするとその者はダメージを受けるらしい。ちなみに、魔族は契約すらできない。アーティファクトと契約できるのは人族と亜人だけなのだ。


「もしこれが本当に古代のアーティファクトだとすれば、何千年も前の物だから元のオーナーとの契約は切れているはずよ。だから、ダイルが新たなオーナーになれるわ」


「だけど、この剣が本当に古代のアーティファクトなのか分からないだろ?」


「いえ、きっと間違いなく古代のアーティファクトよ。この剣はこんな場所で土の深くに埋まっていたのよ。もし、普通の剣ならボロボロに錆ついたり崩れたりしているはずよ。でも、この剣はまるで新品みたいだわ。間違いなく自動修復が施されているってことよ。そして、自動修復が付いてるのは古代のアーティファクトだけだそうよ」


 たぶん、フィルナの言うとおりなのだろう。これは古代のアーティファクトだ。そうだとすれば、マップに出てきた「遭難者」って言うのは古代人のことだな。その古代人がこの場所で遭難して、このアーティファクトだけが残ったということか? もしそうなら、この剣だけじゃないかもしれない。


「ほかにもアーティファクトがあるかもしれない。もっと辺りを探してみよう」


「そうね」


 それから、俺たちは周りの土を掘り返し始めた。剣が見つかった場所から半径10モラくらいを深さ3モラくらいまで掘り返しながら探した。3時間くらい探したが、その成果は微妙だった。


 土の中からはボロボロになった金属製の何か分からない物や人骨の欠片など色々な物が多数出てきた。だが、それらは明らかにアーティファクトではなかった。


 結局、俺たちが見つけたアーティファクトらしき物は最初に見つけた剣1本と、それに加えて、ビー玉くらいの大きさの金属球が1個、金属製の高級ライターのような形をした物が1個だけだった。


「必死に探したけど、たいした物は出てこなかったな」


 出てきたアーティファクトらしき物を二人で水洗いしながら、俺は呟いた。


「何を言ってるの。見つかっている古代のアーティファクトは数えるくらいしかないし、そのすべてが凄い性能を持ってるのよ。すべてが国宝級なのよ」


 周りの土を取り去ると、たしかにどれもが新品のように輝いていた。


「それなら、このアーティファクトのような物も値打があるのかな?」


「もし、これを1個でも売れば、ソウルオーブが何千個か何万個かになるでしょうね。それだけの価値があるってことよ」


 フィルナはそう言いながら、水洗いして綺麗にした高級ライター状の物を俺に手渡してきた。それを手に取ったとき、突然、メニューの中にメッセージが出てきた。


 〈遭難信号を解除しますか?〉


 そうか。このアーティファクトが遭難信号を出していたのだ。遭難信号を解除するよう指示を出すと、更にメッセージが続いた。


 〈遭難信号を解除しました〉


 〈遭難者の記録情報を読み取りますか?〉


 おぉ! そんな情報まで入っているのか。もちろん読み取るぞ。


 〈遭難者ビヨルデの情報をオーブ内に読み取りました〉


 〈探索者用発信器をリセットしますか? この発信器は繰り返し使えます〉


 そうか。この高級ライターのような物は探索者用発信器らしい。遭難したときは遭難信号が出る仕組みになっているのだろう。


 今はこの発信器を使わないからリセットはしないでおこう。


 それよりも遭難者ビヨルデの記録情報を早く見てみたい。


「ダイル、大丈夫? それを手に持ったまま固まってるけど……」


「あっ、ごめん。実は……」


 俺はフィルナにこの発信器のことを説明した。


「この中に遭難した人の記録が入ってるの? すごいわね。何が書かれてるのかな? 早く見たいよー。あっ、でも、その前にここを片付けとかないと……」


 出てきたアーティファクトは亜空間バッグに入れて、それから掘り起こした土や岩を元のような状態に戻した。


 俺たちは岩壁の窪み近くまで引き返して、今日はこのドームの中でキャンプをすることにした。このドーム内には魔獣はいないみたいだし、もし大魔獣に万一襲われても窪みの通路に逃げ込めば大魔獣は追って来れないと思われるからだ。大魔獣は体が大き過ぎて窪みの通路に入れないはずだ。


 昼食を取った後、俺たちはテントの中で毛皮の上に寝転んだ。楽な姿勢になって、今から遭難者ビヨルデの記録を調べるのだ。メニューの「メモ」を開くと「遭難者ビヨルデの記録」というのが入っていた。古代語だ。何が書かれているのだろう?


 ※ 現在のダイルの魔力 オーブA〈421〉、オーブB〈328〉。

 ※ 現在のフィルナの魔力〈324〉。

 ※ 現在のハンナの魔力〈280〉。


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