089 オーブA
翌日。ベルド・ダンジョンの最下層を5時間ほど歩くと村に着いた。探知魔法で探ったが誰もいない。村人たちが一斉に逃げてしまって、その後はずっと放置されたままのようだ。
今回は村には用はない。俺たちは村の中を通り過ぎ、ドームへ向かった。
「今日からはドームで魔獣を倒すのよね?」
「あぁ。俺が元の状態に戻るまでには1か月くらいは掛かるかもしれないな。わるいが、それまでは魔獣狩りに付き合ってくれ」
バーサット帝国へのワープゾーンを探す前に最優先でやっておかなきゃいけないことがある。それは、俺のオーブAの魔力を元の状態くらいにまで高めることだ。オーブAとして新しいソウルオーブを装着して体に埋め込んではいるが、まだソウルを格納していない。だから、まずはドームで魔獣をどんどん倒して俺の魔力を高めていくのだ。
ロードオーブデュアル機能についてはフィルナとハンナだけには話してある。ロイドにオーブAを潰されたとき、俺がオーブBに救われたことも、二人は知っているのだ。
ドームへ通じるトンネルは村のすぐ近くにあった。以前、村の周辺を調べたときに俺のマップに詳細な地図が出来上がっていたから迷うことはなかった。
トンネルを通ってドームに出た。目の前に草原が広がり、所々に巨大な岩の柱があって天井に向かって伸びている。天井までの高さは300モラほどだろうか。天井を支える巨大な柱は高層ビルのように見えた。
このドームの直径は推定で19ギモラくらいありそうだ。その大半は草原だと思われるが、ドームの内部はほとんど探索できていない。ここは魔獣や魔物が数多く徘徊していて非常に危険なのだ。特に大魔獣には警戒が必要だ。大魔獣の魔力は測定不能だが、戦ったら即殺されてしまうだろう。だから、大魔獣には近付かないことだ。
トンネルの出口に立って探知魔法でドームを探った。しかし、俺が探知できる300モラの範囲には魔獣や魔物の反応は無かった。ここから見える範囲は草原で大きな岩や木々が点在しているだけだ。
「村人たちはこのトンネルを通ってバーサット帝国へ戻るワープゾーンへ歩いていったと思う。もしそうだとすれば、ここから近いところにワープゾーンがあるはずだよな? 何時間もこの危険なドームの中を歩いてワープゾーンに移動するなんて考えられないからな」
「そうね。村を作るときに、ワープゾーンの近くに村を作ったはずよ」
「魔獣を探すついでに、岩壁に沿ってワープゾーンを探しながら少し歩いてみよう」
「村人たちの踏み跡が残ってるかもしれないわよ?」
フィルナは岩壁近くの地面を調べ始めた。だが、膝くらいまで草が生い茂っていて踏み跡などは残ってなかった。
「村人たちが逃げ出してから1か月近くが経ってるから、踏み跡が残ってないのも仕方がないな」
「岩壁に沿ってワープゾーンを探すしかなさそうね。右へ行く? それとも左?」
「じゃあ、木の枝が倒れた方に行こう」
俺は近くに落ちていた枝を拾って投げた。枝先がやや右の方を向いている。俺たちは浮上走行を使いながら岩壁沿いに右手方向へ進み始めた。少し進んだときに多数の魔物とその中心にいるブンガドンガロード(魔獣熊)を探知した。草原は真っ平らでなく緩やかな凹凸があるため、その姿はまだ見えない。だが300モラ先にそいつらが居ることは確実だ。
魔獣熊の魔力は〈440〉で強敵だが、今までも何度も戦ったことがあるので戦い方は分かっている。周りにいる魔物たちは魔獣熊に操られているだけだ。
フィルナには待機してもらって、俺は魔獣熊が見える位置まで進んだ。体を伏せて安定させ、狙撃のスキルで魔獣熊の両眼を一気に潰した。腕とシッポを使って同時に狙撃したのだ。
周囲にいる魔物たちは魔獣熊からの指示が混乱しているため右往左往しているだけだ。俺は蜂落としのスキルを発動してそいつらを熱線で仕留めていった。最後に魔獣熊は電撃マヒの魔法で動けなくしてから一点刺しのスキルで目から脳に目掛けて魔力剣を突き入れてトドメを刺した。
俺はオーブAに魔獣熊のソウルを格納した。これでようやく魔力が〈220〉になった。
その後も岩壁に沿って進んでいった。
「この窪みは怪しいわね」
岩壁に口を開いている窪みがあった。誘い込むような感じで、たしかに怪しげだ。その位置はトンネルの出口から1ギモラほど離れていた。窪みは天井まで延々と続いている。窪みの入口は幅が10モラほどあったが徐々に狭くなって幅が3モラほどの通路になった。通路は夜のように暗いが、俺もフィルナも暗視魔法を発動しているから問題なく視界は確保できている。
その通路は天井までの高さが10モラほどで右にカーブしながら奥に続いていた。だが、歩いてみると通路はすぐに終わって、その行き止まりは立方体の空間になっていた。縦横高さがそれぞれ10モラくらいあって、岩を刳り貫いて作った部屋のようだ。
俺たちはその部屋の前で立ち止まった。
「たぶん、これがワープゾーンの一つだな。ワープの入口か出口か分からないが……」
「試してみれば? 魔物を捕まえて来て、ここに入れてみたら分かるよね?」
俺たちはすぐに草原へ入って、一頭の魔物を捕まえてきた。ヒュドレバン(風刃豹)だ。魔法で眠らせてある。魔獣になっていないから、簡単に捕らえることができた。
眠ったままの豹を窪みから少し入った所に横たえて、眠りを解除した。目覚めて、立ち上がろうとした豹に対して威圧の魔法を放った。豹は驚いて奥の方へ逃げていった。そして、正方形の部屋に入ったところで姿が見えなくなった。
「消えちゃった……」
「つまり、ここがワープゾーンの入口ってことだな。行き先は分からないけど。ここから先の調査は、俺の魔力を高めてから始めよう」
「えぇ。でも、なんだか怖い……」
フィルナは不安そうな顔をして窪みの奥を覗いている。
「ともかく、今は魔獣退治だ」
俺たちは周囲で狩りを続けて三頭の魔獣を倒した。気付いたらドームに入ってから10時間が経過していた。ダンジョンの中では夕暮れや夜が無いから、意識しておかないと時間が分からなくなってしまう。しかし、俺の腹時計はしっかりと「夕飯はまだか?」と訴えている。メニューの時刻を見ると夜の7時を過ぎている。
ドームの中でキャンプをするのは危険過ぎるから、俺たちは急いでトンネルを通って村の近くまで戻った。
適当な場所にテントを張って夕食を済ませた。
「ねぇ、ダイル。ここで1か月くらい過ごすのよね? それなら、私はテントじゃなくて、家の方がいいな……」
「そうだな。じゃあ、作るか?」
翌朝、俺たちはさっそく家を作り始めた。家と言っても地表ではなく地下の家だ。普通の家を建ててしまうと魔物や魔族に狙われる恐れがあるから危険なのだ。場所はトンネルの入口近くの小高い森の中に決めた。
2時間くらいで地下に5モラ四方の部屋を二つ作った。一つは食堂で、もう一つは寝室だ。内部は石壁で覆われていて、キングサイズのベッドとテーブルも作り付けた。
テントとの違いは、寝室に隣接してトイレと風呂があることだ。貯水槽や排水槽も作った。以前にも同じような地下室を作ったことがあるし、フィルナと一緒に色々工夫して家を作るのは楽しかった。
ちゃんとハンナの自画像も寝室の壁に飾った。ただし、絵とベッドの間には物干し竿のような棒を置いて、寝るときは二人が着ていた革服を引っ掛けて干すことにした。これで、ハンナの視線が気にならなくなった。
「できたね、私たちの家が……」
「風呂に入ってみよっか? いっしょに……」
俺の言葉にフィルナは顔を赤くして頷いた。
俺とフィルナは広い風呂に一緒に入って体を洗いあった後、ついに、最後まで行ってしまった。
優羽奈、ハンナ、ごめんな。でも、俺もフィルナも我慢できなかったんだ。許してくれ。
風呂から出てからもベッドの中でお互いに貪り合った。それを書こうとすると筆が止まってしまう。天の神様の思し召しか、はたまたハンナの呪いか……。
結局、その後も狩りに出ることもなく、俺たちは一日中ずっとベッドの中で過ごした。
………………
翌日からは毎日、二人で狩りに出た。魔獣の数は多かった。大魔獣や強い魔獣は避けながら、俺は着実に魔獣を倒していった。平均すると一日に三頭くらいは倒せたから、半月ちょっとで元の魔力まで回復することができた。
その後も狩りを続けて、ここへ来てから1か月ほどが経った。俺の魔力を高めるためと言うよりは、フィルナとの甘い生活から抜け出せなかったと言うのが本音だ。おかげで、俺の魔力はオーブAが〈421〉、オーブBが〈328〉になった。フィルナも時々ラストアタックを取ったから、魔力が〈324〉になっていた。
「明日からワープゾーンに入ってみようか?」
ベッドでフィルナを抱きながら耳元で囁いた。フィルナは俺を見つめてコクリと頷いた。表情が固い。不安なのだろう。だが、それ以上に、今の生活が終わるのが寂しいのだ。
このひと月は二人で溶け合うような日々を過ごしてきたからな……。俺もフィルナもその思いは同じだった。
※ 現在のダイルの魔力 オーブA〈421〉、オーブB〈328〉。
※ 現在のフィルナの魔力〈324〉。
※ 現在のハンナの魔力〈280〉。




