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087 次も困難な仕事

 夕方近くになって、リーナが目覚めたとソニアからの使いが来た。フィルナとハンナはお見舞いに出掛けていった。俺は少し迷ったが、やはり遠慮することにした。なんとなくリーナと顔を合わせ辛かったのだ。


 俺はフィルナたちがお見舞いに行ってる間、ベアル邸へ出掛けて、ベルドランへの帰還の手配を依頼してきた。


 夜になって二人は宿屋へ戻ってきた。


「リーナは元気になってたから安心して。ダーリンに会ってお礼を言いたいって。でも、もう夜だし、日を改めて訪ねてくるって言ってた」


「俺は明日、ベルドランへエドリーと一緒に戻ろうと思ってる。王様に魔空船の手配をお願いしたら、明日の朝に出発できると連絡があった。だから、二人も一緒に帰る用意をしておいてくれ」


「そんな……。もうベルドランへ帰るの?」


 ハンナは残念そうだ。


「私もゆっくりとブライデンを楽しみたいけど、ダイルが戻るなら一緒に行くしかないわね。ハンナ姉、残念だけどそうしましょ?」


「あたし、実はソニアさんや学校の学生さんたちとの約束があるの……」


「あっ、あの件ね?」


 フィルナもハンナも目を合わせて頷き合っている。


「だから、あたし、その約束を果たしてからベルドランへ戻ることにする。我がまま言ってごめんね」


「約束って、何だ?」


「ええと、あまり自信が無いのだけど、あたしなりに頑張って約束を果たしたいと思ってることがあるのよ。何をするかはベルドランへ戻ってからお話しするね。一ヶ月くらいしたら完成するから、それからベルドランへ帰ることになると思う。許してね、ダーリン」


「約束を果たすのに一ヶ月も掛かるのか? でも、ハンナがそう言うなら仕方ないな。王様に船の手配を頼んでおくから、気を付けて戻って来いよ」


「ありがとう、ダーリン」


 翌朝、俺たちはハンナを残してベルドランに向けて出発した。魔空船の発着場までハンナは見送りにきた。ソニアやリーナ、ベアル親子も見送りに行きたいと言ってたそうだが、エドリーが俺を監視しているので遠慮してもらった。


 ハンナは宿を引き払って、ベアル邸で寝泊まりするそうだ。後に残していくハンナのことが何となく気掛かりなのは、彼女と家族としての絆が深まってきたってことなのかな……。


 ………………


 俺とフィルナがハンナと再会するのは、それから2か月以上後になる。その間に、俺とフィルナには色々な出来事が起こるが、その話はまた後でするとして、ここでは、ハンナがブライデンで何をしていたのか書き留めておこう。


 2か月後にベルドランでハンナと再会したとき、ハンナは一枚のスケッチを取り出して、俺とフィルナに見せてくれた。


「ベアル邸よ」


「これがベアル邸!?」


 たしかベアル邸は、傾斜地に作られた庭一面が雑草に覆われていて、その奥に石造りの城館と別館があったはずだ。いつだったか、ソニアはベアル邸がみすぼらしいと嘆いていた。


 だが、ハンナが見せてくれた絵は俺が知っていた風景ではなかった。


 緩やかに上っていく斜面いっぱいが色とりどりのお花畑だった。その奥にベアルたちの城館と別館があったが、どちらもの建物も白亜に塗り替えられていて背景の青空と緑の樹々に映えていた。


 お花畑の真ん中で、十数人の子供たちがこちらを向いて笑ったり手を振ったりしている。


「リーナに言われて描いたのよ。みんなと一緒に作ったお花畑と寄宿舎をダーリンに見せたいって。それで、あたしがスケッチしたの。素敵でしょ?」


 ハンナが言うには、絵の中の子供たちは学校の学生たちで、ハンナやリーナたちと花を植えたり別館の改修をしたりしたそうだ。ちょうど1か月間の長期休暇の時期だったらしく、その休みを返上して、みんなで一緒に作業をしたらしい。


「リーナには良い友達がたくさんいるんだな」


 俺はなんだかすごく嬉しくなった。


「でも、たった1か月でこんなに綺麗なお花畑を作ったの? すごいわね」


 フィルナが絵を見ながら感心している。


「それはリーナや学生さんたちが頑張ったのと、あたしがちょっと魔法とエルフのスキルでお手伝いをしたから……」


 さすがハンナだな。


 俺はもう一度、絵に目を落とした。


 この子供たちの中にリーナも居るのだろう。


 よく見ると左端の少し太ったのはベアルでその隣で赤ちゃんを抱っこしているのがレオラだ。右端に居る少し背が高い女性はソニアか。すると、その隣の女の子がリーナかな。


 にこやかに右手を上げて笑っているようだ。


 良かったな、リーナ。君は独りぼっちじゃない。


 ………………


 話を戻そう。


 ブライデンを出発してから数日後。俺はフィルナとエドリーを伴ってベルドランの軍令本部に来ていた。ガイザ大臣にブライデンで掴んだことを当たり障りがない範囲で報告し、エドリーも俺の説明に間違いが無いことを補足してくれた。


 成功報酬として残金の大金貨50枚を受け取ったが、何とも言えない気持ちだ。実はブライデンでダンテ王から今回の謝礼としてソウルオーブ50個と大金貨100枚を無理やり渡されたからだ。円に換算すれば、今回の報酬はベルドランからは総額2千万円、ブライデンからは1億2千万円をもらったことになる。これが日本での話であれば飛び上がって喜ぶのだが、こっちの世界でもらってもなぁ……。


 おっと! 今は余計なことを考えている場合じゃない。ガイザ大臣が難しい顔をして何かを言おうとしている。


「敵はバーサット帝国か……。だが、なぜベルドランやブライデンを狙ったのだ? ここはバーサットからは遠く離れている。そのような遠い国を占領してバーサットに何の利得があるのだ?」


「それは俺も疑問だった。これは推測だが……」


 俺がガイザに説明したのは、自分の考えと言うより実はアイラ神が言ってたことの受け売りだ。帰りの船の中でフィルナ経由でアイラ神の推測を聞いたのだ。


 まず、ベルドランについては神族の支配を終わらせるということがバーサットの狙いだろう。いや、バーサットと言うよりその背後にいる魔族側の狙いだな。これには大地の神様の大きな意思が働いていると思われる。このウィンキアから神族や人族を一掃したいというのが大地の神様の大いなる意思だ。ベルドランは神族の支配力が低下していたから狙われたのだろう。


 ブライデンについても同様だろうが、もう一つ、重要な狙いがあると思われる。それはソウルオーブの最終原材料であるオーブ玉の輸送ルートを押さえるという狙いだ。ブライデンはフォレスラン王国とラーフラン王国へ続く輸送ルートの重要拠点に位置している。もし、この拠点が魔族の支配下に入ってしまうと、オーブ玉を両国へ送る道が絶たれてしまうのだ。だから、この拠点を押さえて両国へのオーブ玉の輸送を認める代わりに、バーサット帝国は両国から通行税としてソウルオーブを得ることも可能になるし、逆にオーブ玉を絶つことで両国を弱らせることも可能となる。戦略上、ブライデンは非常に重要な拠点なのだ。


「ダイル殿、貴殿の推測は尤もだと思うが、まだ納得できぬな。バーサット帝国がブライデンや我がベルドランを支配するには、余りに距離が遠過ぎる。何か我らが気付いていない裏の事情があるのではないか?」


「裏の事情か……」


 俺は少し考えてみたが、そのような裏の事情など思い浮かばない。何かあるのだろうか?


「ガイザ大臣、あなたは距離が遠いって言うけど、そうじゃないかもしれないわよ?」


 横からフィルナが口を挟んできた。


「フィルナ様。どういうことですか?」


 ガイザはフィルナに顔を向けて尋ねたが、フィルナはそれを無視して、俺の方に向かって話しかけてきた。


「ダイル、あなたも覚えていると思うけど、ベルド・ダンジョンの最下層の村で、村人たちが一斉に逃げてしまって居なくなったことがあったでしょ? あのときは地上に通じるトンネルがあって、そこから逃げてしまったと考えたわね。でも、もしかすると違うかもしれないわよ」


「地上へのトンネルじゃないとすれば、地上へのワープってことか?」


 なるほど。たしかにワープということは十分にあり得る。魔樹海の中には大地の神様が作ったワープゾーンがあって、その場所に入った魔物はダンジョンの最下層にワープで送り込まれるし、逆に最下層から魔樹海へワープで戻ったりもできるらしい。俺の〈知識〉にもそんな情報が入っていた。


「でも、ダイル。考えてみて。地上に戻れるのなら別の場所にもワープできるのかも……」


「別の場所? フィルナ、別の場所ってどこだ? あっ! バーサット帝国の近くにワープできるってことか?」


 そうか。俺は考え付かなかったが、ワープなら地上だけでなく別の場所と繋がっている可能性はある。フィルナ、賢いぞ。


 俺たちが会話をしている間、ガイザ大臣は腕を組んで半眼で考え込んでいたが、驚いたように目を見開いた。


「なにっ! もし、ベルド・ダンジョンの最下層からバーサット帝国の近くへワープできるとすれば、これは由々しき問題だ。だが、そう考えるとバーサット帝国が我がベルドランを狙っていることについて辻褄が合うな。むむっ……、ちょっと待ってくれるか。ザイダル神様と相談してみる」


 ガイザは目を閉じてザイダル神と念話を始めてしまった。


 その間にフィルナと話を続けよう。


「もし、バーサット帝国へ通じるワープゾーンがあるとすれば、最下層のドームの中が怪しいな」


「そうね。間違いなくドームの中だと私も思うわ。きっと、あの最下層の村の近くね」


「そうだな。村人たちが一斉に居なくなった後に村の周辺を探したけど、まさかドームの方へ行ったとは思いもしなかった。だから、そっちは探さなかったからな」


「でも、バーサットへ通じるワープゾーンを探すのって難しいわよ。ワープゾーンはどこに飛ばされるか分からないし、ワープは一方通行だからワープしたら戻って来れなくなるかもしれないもの」


「それはイヤだな。何か方法を考えないとマズイな……」


 俺とフィルナがワープゾーンの場所を探す相談をしていると、ガイザ大臣が目を開けて俺の方を向いた。


「ダイル殿。ザイダル神様から貴殿への依頼を言付かった。ベルド・ダンジョンの最下層にバーサット帝国の近辺と行き来できるようなワープゾーンが有るかどうかを確認して、もし有るのならその場所を特定してもらいたいという依頼だ」


 なんとなく、そんな依頼が来るだろうと思っていたが……。


「今もフィルナと相談していたが、その仕事は意外に難しいぞ。それを確かめるためには実際にワープゾーンへ入ってワープしてみないと確認できないだろ。それに、どこへワープするのか行ってみないと分からないし、戻って来れるかどうかも分からない」


「そのとおりだ。困難な仕事だから、貴殿とフィルナ様に依頼するのだ」


 くそっ! 次も困難な仕事か。いつも俺たちに難題を押し付けてきやがる。


 ※ 現在のダイルの魔力 オーブA〈10〉、オーブB〈302〉。

   (オーブAには新しいソウルオーブを装着しているがソウルは未格納)

 ※ 現在のフィルナの魔力〈282〉。

 ※ 現在のハンナの魔力〈280〉。


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