086 任務は完了
今回の事件では俺も王様たちもリーナに救われたと言っていい。
「王様。今回の事件はあんたも俺も反省しなきゃならない。俺のことは秘密にするよう言ったはずだが、あんたがペラペラと吹聴したから俺の特殊な能力を悪用されてしまった。俺も自分の特殊な能力が悪用されるとは考えてもなかったし、ロイドを味方だと思って信用してしまった」
「たしかにそなたの言うとおりだ。すまなかった」
王様はしょんぼりしている。少し可哀そうになった。
「王様だけじゃない。俺も迂闊だった。それで俺なりに見直そうと思うんだ」
「ダイルなりに見直すって、どういうことなの?」
ソニアがすかさず反応してきた。
「俺はこの国で自分の身を守るために、ロードオーブを無力化する対象として王様やソニアもその対象に入れたままだっただろ? それは俺のミスだった。
それで、その対象からすべての王族と親衛隊を外そうと思うんだけど、どうだろう? そうすれば、万一同じような事態が起きたとしても、王様たちや信頼できるロードナイトたちは無事だからな。それに、あんたたちは俺と敵対することはないと思ってるし……」
「なんと! 余たちを信じてくれるか。有難い……」
王様は顔をくしゃくしゃにして俺の両手を握って喜んだ。疲れているせいか感情の起伏が大きくなっているのかもしれないな。
「ソニアもそれでいいか?」
「ダイル、ありがとう。私も素直に嬉しい。でも、あと少しだけ甘えさせてほしいの」
「ん? なんだ?」
「親衛隊のほかにも、お父様や私が心から信じてるロードナイトが何人かいるのよ。その人たちは、長い間ずっとお父様や私たちを支え続けてくれた忠臣よ。何があっても信頼できる人たちなの。できれば、その人たちも対象から外してほしい。どうか、お願い……」
ソニアにそんなウルウルの目で訴えられるとイヤとは言えないよな。
で、善は急げで、朝から王城へ出掛けて行ってその処置を行った。
城の中でリーナが眠っている部屋にも寄って、様子を見てきた。脳にはダメージは無いと思うが、まだ眠ったままだ。自然に目覚めるまで、そのままの方が良いだろう。リーナが目覚めるまでソニアが付き添うそうだ。
王城から出て、その足で俺たちが泊まっている宿屋へ向かった。エドリーが宿屋へ運ばれたと聞いたからだ。
宿屋へはフィルナとハンナが朝から先に戻っていて、部屋で眠っているエドリーに付き添っていた。船の中でロイドに傷付けられてからエドリーはずっと眠ったままだ。と言うか、わざと眠らせたままにしている。
その理由はエドリーに俺の特殊な能力やブライデン王国との関係を知られたくないからだ。幸いエドリーには俺の秘密を知られていない。エドリーは捕らえらた直後にロイドに傷付けられて気を失ったからだ。
もうエドリーを起こして大丈夫だろう。俺はエドリーに眠り解除を発動した。
「気分はどうだ?」
エドリーは目を開けたが、まだぼんやりした顔をしている。
「ここはどこ?」
「宿屋だ。エドリーの部屋だよ」
そのときエドリーは大きく目を見開いた。たぶん昨夜の出来事を思い出したのだろう。
「わたしの脚は? わたしを刺したあのロイドという男はどうなったのですか?」
「あんたの脚にはキュア魔法を掛けたから、明日には全快するはずだ。ロイドには逃げられたが、あの場にいたガルーダロードは捕らえた。大半の反逆者たちも王都防衛隊の手で捕らえられたようだ」
「あのロイドという男が魔族と手を組んで、この国で謀反を起こしたのですか?」
「そうだ。だが、その謀反は大事に至らずに防ぐことができた。今回の謀反を魔族と手を組んで背後で操っていたのはバーサット帝国だ。ベルドランへゾンビ禍を仕掛けてきたのもバーサット帝国だったことが分かった。狙いはベルドランやブライデンを魔族と共生する国に変えていくことだとロイドは言ってたな」
「わたしもその話は聞きました。でも、どうしてロイドはダイル殿を捕らえようとしたのでしょうか?」
うっ! やはり、それを聞いてくるか……。
「それは……、ベルドランで俺がゾンビ禍を鎮めただろ。その立役者だということをバーサット帝国の皇帝が知ったらしい。それで、俺を取り調べるために、生かしたままバーサットへ連れて来いと皇帝が命じたそうだ」
本当の理由は俺の特殊な能力を調べるためだが、エドリーにはそれを言えないから少しぼやかして説明した。まぁ、ウソではないから良いだろう。
「分かりました。これで、本当の敵がバーサット帝国だとはっきりしましたね。ブライデン王国もバーサットに狙われていただけで我が国の敵ではなかったことが分かりましたから任務は完了です。わたしの傷が回復したらベルドランへ戻りましょう」
エドリーは朗らかな顔をしている。任務が達成できてホッとしているのだろう。
「俺がロイドに騙されたばかりに、あんたには怖い思いをさせてしまった。すまない」
「でも、おかげで本当の敵が分かりました。怖かったけど、怪我をするのも仕事のうちです。お礼が遅くなりましたが、わたしを助けていただいてありがとうございました」
俺たちはその後、エドリーと一緒に宿屋の食堂で昼飯を食べて、それぞれの部屋に戻った。エドリーもゆっくり歩けるところまで回復しているようだ。
………………
そして、俺たちは宿屋の部屋でそれぞれのベッドに腰掛けて、ようやく寛いだ気分になった。
「ところでハンナ、あのとき、どうしてロイドに捕まってしまったんだ?」
「ごめんね、ダーリン。あたしが人質になっちゃって……。あのとき、カルムさんに招待されて、特別室で舞台の踊りを見てたのは知ってるでしょ。そこにね、カルムさんがリーナさんを連れてあたしを呼びにきたの。ダイルがリーナさんとあたしを呼んでるから、すぐに来てほしいって言われて。船に入ったら、いきなり電撃マヒを撃ち込まれてしまって……」
ハンナの話に相槌を打って、俺はフィルナの方に顔を向けた。
「そのとき、フィルナは呼ばれなかったのか?」
「うん。私はそのまま舞台の踊りを見てたのだけど、誰かに眠りの魔法を掛けられて、特別室の中で眠ってしまったみたい。ハンナ姉が呼びに来て起こしてくれなかったら、ずっと眠ったままだったわ」
「たぶん、ロイドたちはフィルナのことを警戒したんだな。フィルナが神族の使徒だと知ってたのだろう。念話で神族に連絡されると謀反が破綻するからな」
「でも、ダーリン。今回もアイラ神様に助けられたよね。フィルナが居たからアイラ神様に連絡ができたし、アイラ神様もワープして来れたものね。だから、フィルナはリーナさんの命を救ったと言って良いと思うよ、あたしはね」
ハンナは出番の少なかったフィルナに気を使っているようだ。
「リーナの命を救えたのはダイルのおかげよ。あのとき、アイラ神様が来るまで2時間くらいずっと息を吹き込んでいたでしょ。アイラ神様がヒール魔法を掛けてくださって、リーナさんが生き返ったとき、私は泣きそうになったもの」
フィルナの話を聞いて、ハンナも涙ぐんで頷いている。
「ともかく、おまえたちが無事で良かった。王様やソニアも無事だったし、リーナも助けることができた。俺たち、頑張ったよな……。でも、クタクタだ。少し寝ような」
それで、今、俺たちはそれぞれのベッドで横になっている。じゃぁ、寝よ……。
※ 現在のダイルの魔力 オーブA〈10〉、オーブB〈302〉。
(オーブAには新しいソウルオーブを装着しているがソウルは未格納)
※ 現在のフィルナの魔力〈282〉。
※ 現在のハンナの魔力〈280〉。




