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084 爆発

 俺は眠りから覚めて10秒ほどの間に自分の状態を把握した。オーブBが自動的に俺の異常を把握し緊急事態だと判断してロードオーブ回復処理というのを行ったようだ。魔力は少し低下したが正常だ。背中の傷が少し痛むが、キュアが効いているから大丈夫だ。


 敵に気付かれないよう眠ったままを装っている。だから、俺の魔力が回復し、体も動くようになっていることに敵は気付いていないはずだ。


 まずは、味方のロードナイトたちの魔力を回復させねば。一刻を争う。


 俺はメニューの「ロードオーブ停止機能」を開こうとした。


 なにーっ!! 攻撃されてる!?


 俺は自分が今、攻撃を受けていることに気付いた。バリア破壊魔法だ!


 俺がバリアを張っていることに誰かが気付いたのか!?


 目を開けると、すぐ近くからガルーダロードが俺を攻撃している。部屋にいる敵はこいつだけだ。ロイドは部屋から出ていったらしい。


 瞬時にそれを見極めると、直ちに手枷のスキルを発動した。右手から蜘蛛糸が射出されてガルーダロードの手に絡み付いていく。


「バカなっ! ナゼ、動ける!? ナゼ、魔法が使えるのだ!?」


 ガルーダロードが叫んでいるが無視。こいつを部屋から絶対に出してはいけない。この場で制圧するのだ!


 ガルーダロードは両手に絡まった蜘蛛糸を外そうとしているが、そう簡単にはいかない。俺は続けざまに「雁字搦がんじがらめ」を発動して蜘蛛糸でグルグル巻きにしていく。


 剣を手にした男が一人部屋に飛び込んできた。騒ぎを聞き付けたのか。男はロードナイトだ。ロイドの部下に違いない。この男にハンナたちを人質に取られたら厄介だ。


 男は「このヤローっ!」と喚きながら俺に剣を打ちこんできた。バリアが難なく弾き返す。


 俺はシッポから発動した「雁字搦め」で男を蜘蛛糸で絡めていく。


 まずはガルーダロードを完全に制圧することが先だ。ヤツは蜘蛛糸に包まれて、それを外そうと暴れている。俺はバリア破壊魔法を放ったが、相手のバリアはなかなか破れない。なにしろガルーダロードの魔力は〈400〉もあって、俺より強い相手だからな。


 ともかく今は一刻を争う。


 そうだっ! ハンナの手を借りよう。


 俺はハンナをチラッと見た。俺を心配そうな目で見つめていた。


『ハンナ、大丈夫か?』


『うん。電撃マヒを解いて! そうしたら手伝えるから』


 念話がはっきり返ってきたからハンナは大丈夫なようだ。


『分かった。動けるようになったら、この妖魔にバリア破壊の魔法を放ってくれ』


 俺はシッポを使ってハンナに電撃マヒ解除の魔法を放った。


 ハンナは立ち上がってガルーダロードに向かって呪文を唱えた。バリア破壊の魔法だ。俺とハンナで重ね掛けで攻撃しているから妖魔のバリアはその耐久度が一気に減り始めた。


「パリン」という音がして妖魔のバリアが破れた。魔法で眠らせて、念のために沈黙の魔法も掛けておく。これでガルーダロードを制圧できた。


 ロードナイトの方も眠らせた。蜘蛛糸の繭に包まれて中でもがいていたが、静かになった。


「ダイル、あんた、大丈夫なの?」


 ハンナが心配そうな声で尋ねてくるが、俺はそれどころではない。一刻も早く味方のロードナイトたちの魔力を回復させねばならないのだ。



 ――――――― リーナ ―――――――


 どうしよう? 今にも爆発するかもしれない。


 全部、私のせいだ。私がカルムさんを信じたから……。私がお守りを花束に入れてしまったから……。私がロイドたちの謀反を誰にも話さなかったから……。


 そうだ! 花束を湖に投げ捨てよう。


 いえ……、それはダメだ。移動式バリアが花束を弾き返してしまう。


 どうしていいのか分からない。頭の中が真っ白で、考えることなんかできなくなってしまった。


 でも、私のせいで、ここにいる王様やソニア姉まで死なせてはダメだ!


「ソニア姉、ごめんね」


 思わず泣き声を出してしまった。涙が次から次と溢れてくる。


「リーナ! どうしたの?」


 ソニア姉が驚いた顔を私に向けた。王様たちも祈りを止めて振り返った。祭司も祈りの言葉を止めてしまった。


「私が馬鹿だったの。カルムさんとロイド隊長が謀反を起こしてる。ダイルさんとハンナさんが捕らえられて……」


「どういうことだ!?」


 王様が叫んだ。


「もう時間が無いの。花束の中に爆弾魔法が仕掛けられていて、いつ爆発するか……」


 そのとき、祭りの会場に拡声器を通して違う声が聞こえてきた。呪文書を発動する呪文!? あれはカルムさんの声だ。


 ざわつき出した会場でその騒音を掻き消すように呪文がはっきりと聞こえる。


 私は何が起ころうとしているのか一瞬で悟った。時間で爆発するんじゃない! 呪文書を発動する呪文で爆発するんだ!


 呪文書に書き込まれた鍵言葉をカルムさんが唱え終えたらそこで爆発する仕組みだったのだ。


 私ができることは、もうこれしかない。


 花束に向かって自分の体が動いていく。


 ドレスの裾が脚に絡まる。


 なんてゆっくりなの! もっとはやく! もっと速くっ!


 横からソニア姉が動き始めたが、私は止まらない。


 護衛たちも動きは遅い。


 花束を掴んだ。私が作った花束だ。


 祭壇を駆け上がる。


 誰かが手を伸ばしたが、私の脚はその手を擦り抜けた。


 この祭壇を越えたら、その先は湖だ。


 カルムさんの呪文が続いている。鍵言葉がもうすぐ終わりそうだ。


 どうか、間に合って……。天のかみさま、お願い……。


 私は思いっ切り祭壇を蹴って、湖に向けてジャンプした。


 青白く光るバリアを通過。


 体が空を滑っていく。


 右手にしっかり握り締めていた花束を放す。


 ありがとう、神様。


 離れていく花束を見る。


 それが眩く輝いて、私は白い光に包まれた……。



 ――――――― ダイル ―――――――


 外から大きな爆発音が響いてきた。俺が味方のロードナイトたちの魔力を回復させた直後のことだ。


 俺は急いで船の甲板に駆け上がった。ハンナも後から付いてくる。


 ここからは見えないが、街壁の上のから悲鳴や叫び声が上がって、祭り会場はパニックになっているようだ。


 だが、爆発が起きたのは祭り会場ではない。爆発音がしたのは祭り櫓の方からだった。


「ハンナはここで待ってろ。敵が戻ってくるかもしれないから、気を付けるんだぞ」


 俺はハンナの返事を待たずに、蜘蛛糸移動で祭り櫓の天頂を目指して上っていった。


 だが途中で、蜘蛛糸が移動式バリアに弾かれてしまった。仕方ないので、浮遊魔法に切り替えて、上へゆっくりと上がっていく。祭り櫓にいる王族たちが無事か確かめるためだ。


 櫓と同じ高さまで上がると、何人かが湖を覗き込んでいることが分かった。王様やソニアの顔も見える。二人とも無事なようだ。


 ソニアが俺を見つけると、下を指さして何かを言い始めた。


『どうした!? 何があったんだ?』


 念話で俺が問い掛けると、ソニアが慌てた様子で答えてきた。


『早く助けてあげて! リーナが花束を抱えて湖に飛び込んだの。そうしたら、いきなり爆発して……』


 俺はすぐに蜘蛛糸移動に切り替えて、湖に向かって飛び込んでいった。


 水面ぎりぎりで浮上走行に切り替える。暗視魔法で辺りを捜すと、すぐに見つけた。白いドレスが湖面に浮かんでいる。


 リーナだ!


 念力でその体を持ち上げて桟橋まで運んだ。


 体を横たえる。


 リーナは呼吸をしていない。心臓も止まっていた。右半身が焼け爛れている。右腕はもぎ取られたように、肩から先が無くなっていた。


 ダメか!?


 だが、諦めるのはまだ早い! とにかく全身キュアだ。俺は精一杯の魔力でリーナの体に向けてキュアを掛けていった。


 ダメだ。蘇生しない。もう一度……。


 ※ 現在のダイルの魔力 オーブA無し、オーブB〈302〉。

 ※ 現在のフィルナの魔力〈282〉。

 ※ 現在のハンナの魔力〈280〉。


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