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083 湖上の感謝祭

 ハンナを取るか、それとも王様やソニアたちを取るか。どっちだ?


 迷うことは無い。ハンナに決まっている。俺はハンナを守ると約束したし、ハンナは俺の家族も同然だ。


 わるいな、王様、ソニア……。


 だが、隙を見つけて絶対に反撃してやる!


『どうだ? おれたちに従うか?』


『分かった……』


『よし。では、連絡がくるのを少し待て』


『連絡?』


『いいから、待つのだ』


 何を待っているのだろう?


 外では儀式が進行しているようだ。舞台で巫女たちが王族を祭り櫓へ導く歌声が聞こえている。王族たちは祭り櫓への石段を上っているところだろう。


 しばらく待っていると誰かが扉から入ってきた。


「隊長、王族が全員、祭り櫓へ上ったそうです。ただ、困ったことにリーナ様も一緒に上ってしまわれたとか……」


「なにっ! うむむ……。仕方ない、リーナ様のことは諦めるしかないな。計画が少し狂うがこのまま続行するぞ。カルムと隊員たちにそのように連絡しろ!」


 男が出ていくと、ロイドは俺に向き直った。手には相変わらずナイフとハサミ擬きを持ち、姿勢を崩していない。


『リーナを諦めるって、どういうことだ?』


『おまえが気にすることではない。それより、今から首輪を外す。おまえはロードナイトたちの魔力を一斉に止めるのだ。瞬時にな!』


 そう言うとロイドはガルーダロードに顔を向けた。


『では、ガーウェン殿。この男の首輪を外してください』


『承知した』


 そうか。この首輪は魔族の特製か……。ガルーダロードが呪文を唱えると、カチッと音がして首輪が外れた。


『よし、早くやれ!』


 ロイドがナイフの刃先でハンナの太腿を突っつきながら催促した。血が滲んでいる。


 くそっ! 必ず反撃してやる! だが、今は従うしかない。


 俺はメニューの「ロードオーブ停止機能」を開いた。一斉停止のような特別な操作はメニューを開くしかないのだ。


 やるしかない……。一斉停止を発動した。


 ロードオーブ停止機能に登録されているロードナイトたちは、これで魔力が使えなくなったはずだ。


 俺の探知範囲にいた多くのロードナイトたちの反応が消えた。腹立たしいが、機能が上手く働いてロードオーブが停止したようだ。


 外からは儀式の声が聞こえていた。祭司の祈りに合わせて観客たちも声を出して祈っているのだろう。


 突然、扉が開いた。男が顔を出した。ロイドがそちらを向いた。今だ! 今が反撃のチャンスだ!


「隊長、成功です! 警備側の魔力が止まったそうです」


 男が何か言ってるが、どうでもいい。今しかない! 反撃だ!


 俺は念力を発動した。ロイドの両手を動かなくするのだ。


 しかし……。


 パチンと音がして、俺の魔力が無くなった。ロイドがハサミ擬きを握り締めている。俺のロードオーブが……、潰されてしまった……。


「おれを攻撃したからこうなるのだ。だが、この女は傷付けないでやる。おまえは指示どおり仕事を成功させたからな」


 くそっ! だが……、俺にはまだ奥の手が残っている。オーブBを有効にすれば魔力が復活するはずだ。だが、有効にした途端に、魔力が回復したことを気付かれてしまうかもしれない。どうすればいいんだ?


 まず、反撃までの段取りを頭の中で整理しておこう。ロイドが俺から目を離すのを待ってから反撃開始だ。俺が無力になったと思っているから、ロイドはきっと油断する。


「そんな恨めしそうな目で睨むな。おまえのここでの仕事はこれで終わりだ。じゃあ、眠ってろ」


 えっ! くそっ……。


 俺はロイドの魔法で眠りに落ちていった。



 ――――――― リーナ ―――――――


 私は今、祭り櫓への長い石段を上っているところだ。


 さっき、街壁上にある祭りの舞台で王様が私の王族復帰を宣言した。私が観客に向かって挨拶をすると大勢の目が自分に集中したが、そんな中でも私は別のことを考えていた。自分の後ろにある石段を上るかどうか迷っていたのだ。祭り櫓へ続く石段だ。


 あのロイドという男は王族復帰の宣言が終わったら祭り櫓へ上らずに戻って来いと言ってたけど、それに従うことはできない。と言うか、従ってはいけないのだ。


 あの男は明らかに謀反を起こそうとしている。この石段を上った先の櫓の上で何かをするつもりだ。


 それはきっと、何か悪いことだ。王族全員が集まったところで何かを起こすつもりなのだ。王族の方々を害するということだろうか……。


 でも、それを周りに告げることはできない。警護のロードナイトや王都防衛隊がいつもと違う動きをしたら街を爆撃すると、あの妖魔は言った。ただの脅しではないだろう。大勢の国民を犠牲にすることなど私にはできない。


 だから、私が一人で何とかするしかないのだ。


 もし、私が戻らずに王様たちと一緒にいれば、あの兄弟は何も起こさないかもしれない。私を王位に就けると言ってたから、私のことを大切に思っているはずだ。私が一緒なら、王様たちを害するようなことはきっと思い止まってくれる。


 そう考えて、こうして王様たちの後をついて私は石段を上ることにしたのだ。


 私が戻らなければ、あのロイドという男は人質のハンナさんに酷いことをすると言っていた。でも、王様やソニア姉たちを見殺しにすることなんてできない。私のせいで政変が起こって、この国の人たちが苦しむことになったら私は耐えられないだろう。ごめんね、ハンナさん。


 やっと長い階段が終わって、櫓の上に出た。この場所はそれほど広くはない。私がベアルさんから与えられた部屋と同じくらいの広さだろうか。


 ここには湖に向かって祭壇が作られていて、昨日、ソニア姉たちと一緒に摘んできた花々が他の供物と一緒に供えられていた。


 櫓の上にいるのは祭司と王族、護衛のロードナイトたちだけだ。合わせて十人くらいしかいない。


 石段から最後尾にいた護衛が上ってきた。それを確認すると、祭壇に向かって祭司が天の神様への祝詞のりとをあげ始めた。我らをこの地に導き、湖の恵みを与えてくれた天の神様に感謝と祈りの言葉を捧げているのだ。


 その祝詞を聞きながらも、私はロイドたちの企みが気になった。


 ロイドたちがこの場で王族たちを害するとすれば、どうやるのだろう? 火砲か熱線の魔法で遠距離から攻撃を仕掛けてくるのだろうか? でも、この場所は下からは見えないから直接の攻撃は難しいはず……。


 いえ、違う。方法はある。あの妖魔が空から攻撃してくるつもりだろう。あの妖魔は爆弾魔法を使うと言っていた。


 でも、この場所は強力な移動式バリアで守られている。それに、ここにいる人たちは祭司以外はみんなロードナイトでそれぞれバリアを張っている。しかも、高位のロードナイトたちが護衛についている。何重にもバリアが張り巡らされていて守りは万全だ。たとえ爆弾魔法を撃ち込まれても防げるはずだ。


 分からない……。あのロイド兄弟の企みが……。


 兄弟と言えば、今でも信じられない。あんなに優しかったカルムさんが、あの非道なロイドという男の弟で、ずっと私を騙していたなんて。カルムさんは奴隷に堕ちた私を買って、まるで自分の娘のように大切にしてくれた。でも、それも芝居だったのだろうか……。


 昨日もカルムさんは花摘みをする丘まで来てくれて、みんなに冷たい物を振る舞ってくれた。それに、こっそりと私に花束へ付けるお守りまでくれたのに……。


 おまもり……、そうだ! あのお守りだ。


 私はカルムさんに言われて、花束の中にお守りをそっと忍ばせたのだ。このお守りは天の神様が祭られている神殿から授かったもので、カルムさんが国が栄えるよう願いを込めて自分で守り袋を手作りしたと言っていた。恥ずかしいから誰にも言わないでほしいとカルムさんから頼まれたが、もしかすると、あの中に何かを仕込んだのかもしれない。もし、そうだとすれば……。


 突然、王様が顔を上げた。護衛のロードナイトたちも辺りを見回している。


 祭司のお祈りはまだ続いているが、王様は近くの護衛を呼び寄せて何かを耳打ちした。どうしたのだろう?


 隣にいたソニア姉が私に小声で話しかけてきた。


「ロードオーブからの魔力が切れて、バリアが張れなくなったの。リーナも同じみたいね?」


 言われて初めて気が付いた。私のロードオーブからの魔力が切れている。バリアも無くなっている。王様や他の王族たち、それと護衛のロードナイトたちも同じらしい。


 祭司は祭壇に向かって祈りの言葉を続けている。その声は拡声器で祭り会場に流され、会場に来ている国民たちも一緒に祈っているから、途中で止めてはいけないのだ。王様はそれを確かめてから私たちや護衛たちを集めて囁いた。


「原因が分からぬが、ロードオーブからの魔力が途絶えた。余だけでなく、ここにいるロードナイト全員が同じ状態のようだ。誰か下へ行って何が起こっているのか確かめてくるのだ。

 儀式はこのまま続ける。幸い移動式バリアは働いているからな」


 頭上を見ると、たしかに青白いバリアの幕が薄っすらと見える。良かった。このバリアが無事なら、あの妖魔が空から爆弾魔法で攻撃して来ても、きっと防げるはずだ。


 王様からの指示を受けて護衛の一人が石段を下っていった。王様や王族たちもそれぞれの位置に戻って祈りを再開した。


 私も祈りの言葉を口にしたが、頭では別のことを考えていた。バリアが一斉に消えてしまったことと、花束に入れたお守りのことだ。


 バリアが一斉に消えた理由は何となく分かっていた。ダイルさんがやったのだ。ダイルさんの特殊な能力は聞いていた。ハンナさんを人質に取られているから、ロイドたちに脅されてやったに違いない。


 でも、王族たちのバリアを消しただけで何の意味があるのだろう? 移動式バリアが働いているから外側から攻撃したって防がれてしまうのに……。


 と言うことは……。えっ!? つまり、外側からの攻撃じゃなくて、内側からの攻撃ってことなの?


 そして、あの花束に入っているお守り……。あのお守りが、もしかすると攻撃の手段ということ? 考えられるのは、お守りに爆弾魔法か毒砲魔法が仕込まれているということだ。


 以前、学校で習ったことがある。魔石に呪文書を付呪した魔具を作ることができるそうだ。発動されると魔石の魔力を使う。だから例えば攻撃魔法なら、発動の呪文を唱えた後で、10秒後に爆発させるとか、投げて落下の衝撃で爆発させるとか、色々と工夫できるらしい。


 あのお守りもそうした魔具の一種かもしれない。


 もしそうだとして、どうやってお守りに仕込まれた呪文書を発動するのだろう? やっぱり時間だろうか?


 ロードナイトのバリアを消したのはその時間が迫っているから? つまり、もうすぐ爆発するってことだ。


 どうしよう? 私はどうしたらいいの!?



 ――――――― ダイル ―――――――


 俺は眠りから覚めた。頭の中に何かの文字列が浮かんでくる。古代語だ。何だろう? 目を閉じたまま、俺は頭の中に浮かんでいるメッセージらしきものを眺めた。


 〈オーブAからの制御が途絶えたためオーブBが制御を取得しました〉

 〈オーブBは亜空間バッグの保持に成功しました〉

 〈30秒が経過〉

 〈オーナーからの反応が無いためオーブBは緊急事態モードに移行しました〉

 〈オーブBは緊急事態モードでロードオーブ回復処理を開始しました〉

 〈オーブBは探知偽装でオーナーを魔力〈1〉に偽装しました〉

 〈オーブBは当オーブからの魔力を有効に設定しました〉

 〈オーブBはオーナーと正常にリンクしました〉

 〈オーブBはオーナーへの魔力供給を開始しました。魔力は〈302〉です〉

 〈バリアを発動しました〉

 〈解毒を発動しました〉

 〈マヒ解除を発動しました〉

 〈魔力不足でマヒ解除は行使できません。電撃マヒ解除を発動しました〉

 〈沈黙解除を発動しました〉

 〈魅了解除を発動しました〉

 〈威圧解除を発動しました〉

 〈混乱解除を発動しました〉

 〈魔力不足で混乱解除は行使できません〉

 〈従属解除を発動しました〉

 〈魔力不足で従属解除は行使できません〉

 〈全身キュアを発動しました〉

 〈筋力強化を発動しました〉

 〈敏捷強化を発動しました〉

 〈探知を発動しました〉

 〈眠り解除を発動しました〉

 〈オーナーからの反応を確認したためオーブBは正常モードに移行しました〉

 〈ロードオーブデュアル機能は継続中です〉

 〈ロードオーブ回復機能が使えるようになりました〉

 〈新たなソウルオーブを装着してください〉


 よく分からないが、オーブBからのメッセージログのようだ。俺はオーブBに救われたらしい。俺の反応が無かったために、オーブBが自動的に緊急事態だと判断してロードオーブ回復処理というのを行ったのだ。


 俺はざっと自分の状況を掴んだ。メッセージログから、ロイドが俺に眠りの魔法を掛けてからまだ1分も経っていないと分かった。


 よしっ! 今から反撃開始だっ!


 ※ 現在のダイルの魔力 オーブA無し、オーブB〈302〉。

 ※ 現在のフィルナの魔力〈282〉。

 ※ 現在のハンナの魔力〈280〉。


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