082 最大の危機
『おまえをバーサット帝国に引き渡す前に聞いておきたいことがある。おまえの、その能力の秘密だ。神族の加護とか言ってたが、無詠唱や他人のロードオーブを使えなくする能力はどうやって手に入れたのだ? 細かく説明しろっ!』
俺が黙っていると、ロイドは口元に残忍そうな笑みを浮かべた。
ロイドは俺に顔を向けたままハンナに近付いた。そして、さっきエドリーを刺したナイフを鞘から抜いた。
『おれが今から何をするか、おまえには分かるだろう?』
ロイドはナイフを振り上げて、そこで止めた。声を出さずに笑っている。
もし俺が返事をしないと、ヤツは躊躇わずにハンナに向けてナイフを振り下ろすだろう。ハンナの瞳が恐怖に揺れている。
『分かった。言う。言うからハンナを傷付けるのは止めてくれ』
『そうだ。初めから素直にそう言えばいいのだ。さぁ、言えっ!』
ロイドはナイフを腰に戻して壁に寄り掛かった。
仕方ない……。俺のことを話すしかないな……。
『無詠唱やロードナイトを無力化させる機能はどのソウルオーブにも密かに備わっているんだ。言わばソウルオーブの隠し機能だ。だが、その隠し機能を使えるのは異世界から召喚されてきた者だけだ』
『異世界から召喚だと!?』
『あぁ。実は、俺はある神族によって別の世界から召喚されてきたんだ。その別の世界というのは1万年前に天の神様が住んでいた世界らしい。
俺に加護をくれた神族の話では、ソウルオーブの隠し機能を使えるのは、天の神様と同じ世界に住んでいた者だけだそうだ。つまり、俺だけってことだ』
『その加護って言うのは何だ?』
『ええと……、ソウルオーブの隠し機能を使えるようにするには、俺がソウルオーブを装着しただけではダメで、神族の許可が必要なんだ。それが、つまり加護ってやつだ』
『おまえに加護を与えた神族というのは誰だ?』
うっ! 正直に答えたらアイラ神に迷惑が掛かるかもしれない。だが、今までも色々なところでアイラ神の加護の話はしているから、下手にウソは言わない方がいいな。
『加護をくれたのはアイラ神だ。カイエン共和国を支配している神族だ。だが、加護はどの神族でも与えることができるらしい』
『おまえを召喚したのもアイラ神か?』
『いや、違う。俺を召喚したのはアイラ神の姉だと聞いている。アイラ神は姉から頼まれて協力しただけらしい』
『その話が本当だとすれば、おれたちがその隠し機能を使うのは無理と言うことか?』
『あぁ、そういうことだな』
ロイドは俺の話を聞いて、何か考え込んでいる。
『だいたいのことは分かった。詳しいことは、バーサットに着いてから調べることになるだろう。だが、おまえにはここでちょっとした仕事がまだ残っている。時間が来るまで少し眠ってろ』
俺は抵抗することもできず、ロイドの魔法で眠りに落ちた。
………………
背中の焼けるような痛みで目が覚めた。誰かがナイフで俺の背中をほじくり返している!? ロイドだ。肩甲骨の間に埋め込んだ俺のロードオーブを抉り出す気のようだ。
ガルーダロードがロイドの背後にいて、こっちを見ているが、どうでもいい。とにかく痛い。声が出そうなくらい背中が痛い! 電撃マヒが効いてるなら痛みは無いはずだが、マヒが弱まってるのか? だが体は動かないし、声も出せない。
痛くて我慢できないが、朦朧としながらも自分の目はロイドの動きを追っていく。ロイドの指が何かを摘み上げた。俺のロードオーブだろうか……。
『すまんな。起こしてしまったか? これが何か分かるか?』
念話と痛みが頭の中でガンガン響く。ロイドは笑いながら血の付いたロードオーブを俺の目の前に差し出してきた。
くそっ! 腸が煮え繰り返る思いだ。だが今は、背中の痛みが酷くて、それどころじゃない。
『俺のロードオーブだ……』
辛うじて答えた。
『そうだ。おまえのロードオーブだ。それと、これが何か分かるか?』
ハサミのような物を片手に持ち、ロイドはそれを握って、閉じたり開いたりしてカチカチと鳴らしている。だが、これは刃が無いからハサミではない。刃ではなく、そこには金属の塊が付いていた。目を凝らすと金属は半球状の凹凸になっていることが分かった。
『ヒントをやろう。おまえはこれを見たことがないかもしれないが、オーブ商なら必ず持っている道具だ。まだ分からないか?』
ロイドは意地悪そうに顔を歪めた。
『痛くて、頭が回らない……』
『おぉ、そうか? マヒが切れかけてるのか? 掛け直してやろう。大事な体だからキュアもな』
ロイドは俺に電撃マヒとキュア魔法を放った。電撃を受けて強烈な痛みが走ったが、背中の痛みは感じなくなった。
『これはな、使い古して価値が無くなったソウルオーブを壊す道具だ。この丸い窪みにオーブを入れて、ここを握るとパチンと潰れる』
そう言いながら、ロイドは俺のロードオーブを窪みに入れた。
『古いオーブでなくても簡単に潰れるぞ』
くそっ! ロイドは俺のロードオーブを潰す気らしい。しかも、俺を甚振って喜んでやがる! 今までで最大の危機だ。
『だが、おれの言うとおりにすれば、おまえのロードオーブは潰さないでやる。その前に、おまえの恋人を近くに連れて来よう』
『何をする気だ?』
ロイドは俺の問い掛けには答えず、ハサミ擬きを床に置いた。そして、部屋の反対側からハンナを引きずってきた。俺の隣に並べてハンナを座らせたようだ。
『さて、あの声が聞こるだろう? そうだ。リーナ様の王族復帰をダンテ王が宣言しているところだ。ここで、おまえには大事な仕事をしてもらわねばならん』
『大事な仕事? 俺に何をさせるつもりだ?』
外ではさっきから、王様の声が聞こえている。拡声器のようなものがあるのだろう。大きな声でリーナを王族として紹介しているのが伝わってくる。大事な仕事というのは、それと何か関係あるのだろうか?
『今から、おまえが持っている特別な能力を使ってもらう。この国のロードナイトたちのロードオーブをすべて停止させるのだ』
『なんだって!?』
俺は一瞬、頭の中が真っ白になった。だが、バラバラだったパズルが頭の中で少しずつはまり始める。ロイドが今から何を始めようとしているのかようやく分かってきた。
俺の目の前にいる男は、今まさに反乱を起こそうとしているのだ。儀式で王族全員が集まったときを狙って、王族を捕らえるか殺すのだろう。反乱を起こすタイミングで、この国を守るロードナイトたちを無力化できていれば、反乱は成功したも同然だ。ロイドは一気にこの国を掌握するつもりなのだ。
だが、ロイドの部下たちもロードナイトだが……。いや、違う。ロイドもその部下たちも俺がブライデンでロードナイトたちを無力化したときに地方にいた。だから、こいつらは無力化の対象から外れているのだ。
『何を呆けた顔をしている? 何が起ころうとしているのか、やっと分かったのか?』
『この国で反乱を起こしてどうするつもりだ? おまえや部下のロードナイトたちだけでは国は維持できないぞ?』
『だから、話してやっただろ。この国を一新するのだ。大地の神様を敬い、魔族と共に生きる国にするのさ。バーサット帝国の手を借りてな』
『バーサットの属国になるつもりか!?』
『属国だと!? それは……』
そのとき、グゥァーン、グゥァーンと銅鑼を連打する大きな音が響き渡り、急に外が静かになった。
『おっと、おまえと無意味な議論している時間は無いな。儀式が始まるようだ。いいか、よく聞け。今からおまえの首輪を外す。首輪が外れたら、おまえは自分のロードオーブが使えるようになる。そうしたらすぐに、おまえの特殊な能力を使って、この国のロードナイトの魔力を一斉に瞬時で止めるのだ』
『一斉に止めるって!? どうして、そんなことまで知っているんだ?』
たしかに俺はそれに近いことができる。探知範囲内にいる登録済みのロードナイトであれば、それが何人いても俺は瞬時に無力化できるのだ。だが、それを知っているのはダンテ王だけのはずだ。
『王様から聞いた話だ。この国のロードナイトであれば誰もが知っている。できないとは言わせないぞ』
くそっ! 口が軽い王様だ。俺のことは秘密にしろと言ったのに。王様は自分の支配力を高めるためにペラペラと喋ったのだろう。
それはともかく、ロイドになど従うものか!
『俺がおまえの言うとおりに動くと思っているのか?』
俺の言葉にロイドはニヤリと笑った。
『動くさ。おれの手を見ろ!』
ロイドは右手にあのハサミ擬きを持っている。俺のロードオーブを挟んだままで、今にも握り潰しそうだ。左手にはナイフを持って、ハンナの太腿に刃先を当てている。
『もし、おまえが魔法でおれたちを攻撃してきたり、おれの指示に従わなかったりしたら、どうなるか想像できるだろ!?』
ロイドは賢い。綿密に策略を企てて反乱で俺の能力を利用しようとしている。
逆に俺は馬鹿で自惚れていた。自分のこの能力がこんな形で利用されるとは想像もしてなかったのだ。
もし俺が魔法で攻撃したら、ロイドは反応できるだろうか? 俺は魔法でナイフを止める自信はある。だが、ロイドがハサミ擬きでロードオーブを握り潰すのは一瞬だ。そっちは間に合いそうにない。俺はロードオーブを潰されて無力になるだろう。そして、ハンナは刺されてしまう。
もしロイドの指示を拒めば、俺が従うまでハンナは何度も刺されるだろう。と言うことは、ロイドの指示に従うしかないのか……。
俺がロイドの指示に従えば、反乱を手助けすることになる。王様たちは捕らわれるか殺されるだろう。
ハンナを取るか、それとも王様やソニアたちを取るか……。
どっちだ?
※ 現在のダイルの魔力 オーブA〈384〉、オーブB〈302〉。
※ 現在のフィルナの魔力〈282〉。
※ 現在のハンナの魔力〈280〉。




