表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

81/99

081 公爵の志を継ぐ者

 リーナはカルムに腕を掴まれて引っ張られている。かなり嫌がっている様子だ。壁際でぐったりしているハンナを見つけると、カルムの腕を振り解いてハンナに駆け寄った。


「ハンナさん! 大丈夫なの? しっかりして!」


 リーナはハンナの肩を揺すりながらカルムを睨み付けた。


 ハンナが目を開けた。ハンナは生きている! 良かった。瞬きをしているが、体は動かないようだ。


「カルムさん、あなたって人は……。私やハンナさんを騙していたのね? なぜです!? どうして、こんな酷いことを……」


 そう言い掛けて、リーナは途中で「ヒッ!」と小さく悲鳴を上げた。初めてガルーダロードがいることに気付いたようだ。よろけるようにして、壁に手を突いた。その腕をカルムが取って支えた。


「申し訳ございません。リーナ様にここへ来ていただくためには、こうするしかなかったのです。ハンナ様は電撃でマヒしているだけでございます」


「ま、まぞくが、なぜ、ここにいるの……?」


 リーナは少し震えていた。たぶん、初めて魔族を見たのだろう。


「リーナ様、それは自分がお答えいたします」


 ロイドが横から口を出した。


「あなたは? 誰です?」


「ここにいるカルムの兄でロイドと申します。リーナ様のお父上にはカルムも自分も大変にお世話になっておりました。今はベルドラン救援隊の隊長をしております」


「それならばブライデン軍の軍人ですね? どうして魔族と一緒にいるのです?」


「リーナ様はお父上のマイモン公から聞いておられませんか? お父上はこの国を大地の神様を崇拝する国に作り変えようとしておられました。そのために、バーサット帝国と手を組んで革命を起こそうとしていたのです。バーサット帝国は20年以上前から魔族と手を組んで国作りを進めております……」


 そこからは、大地の神様を信奉して魔族と手を組むことがいかに素晴らしいかをロイドは滔々《とうとう》とまくしたてた。


「マイモン公は素晴らしい方でした。我ら兄弟に対して金銭的な援助だけでなく、バーサット帝国の方々や魔族と引き合わせて我らが進むべき道へ導いてくださってのです。ところが、残念ながら、志半ばにしてマイモン公はダンテ王に捕らわれ処刑されてしまいました」


 ロイドは悔しそうに顔を歪めた。心の底からマイモン公爵を尊敬していたようだ。


「しかし、マイモン公は万一のことを考え、我ら兄弟を温存していたのです。カルムはオーブ商として、自分は軍のロードナイトとして世間で一角ひとかどの地位と信用を得ておりました。

 マイモン公と我ら兄弟は裏で深いお付き合いはありましたが、表には出てなかったため、捕らわれることもなく、疑われることもありませんでした。

 ですから、マイモン公が処刑された後、我ら兄弟は公爵の志を継ごうと決意しました。この国で革命を起こして、大地の神様を崇拝し魔族と共に生きる国にしようと心に固く誓ったのです」


 ロイドは一旦言葉を切り、カルムの方に顔を向けた。カルムはその視線を受けて、コクリと頷いて話し始めた。


「私は兄と相談し、まずは何としてもマイモン公爵の一人娘であられるリーナ様をお救いしようと必死に裏工作をいたしました。リーナ様を私どもの家にお連れすることができて、どれほど嬉しかったことか……」


 カルムは涙ぐんでいるようだ。よほどマイモン公への忠誠心が高かったということか。その様子を見たロイドがまた話を続けた。


「自分はなぜマイモン公が捕らえられたのか調べ始めたのです。マイモン公が捕らえられたとき、モーイットという国境の村にいたので、急いで転属を願って王都に戻って来ました。そして何があったか調べていくうちに、この男の存在が分かってきたのです」


 ロイドが俺を指さした。リーナは初めて俺に視線を向けて、驚いた顔をした。


「ダイルさん! あなたまで捕らわれて……」


 リーナは俺からロイドに視線を移して睨みつけた。ロイドはそんな視線に構わずに話を続けた。


「リーナ様、あなたもご存じかもしれませんが、この男は神族の加護を得て何か特別な能力を身に付けているようです。

 実はバーサット帝国の皇帝もこの男に興味を持ったのです。バーサット帝国はベルドランを滅ぼすためにゾンビ症を蔓延させようとしていたのですが、その軍略を潰した男がいると分かりました。それがこの男だったのです。皇帝はこの男を捜し出して生きたままバーサットへ連れて来いとお命じになりました」


 やはり敵はバーサット帝国。それと、その裏にいる魔族だ。そして、俺が殺されずに捕らえられたのは、敵の皇帝が俺の能力を調べたいということらしい。


「でも……、ハンナさんや私までどうして捕らえたのですか?」


「そのハンナという女はこの男の恋人です。男に色々と話してもらうには、その恋人が役に立つのです。それに、この男も一人でバーサットへ旅立つのは寂しいと思いましてな。ファッ、ハッ、ハッ。おっと、これは失礼」


 ロイドはハンナを人質にして俺に喋らせるつもりらしい。リーナもそれが分かったのか、眼から光線が出そうな感じでロイドを睨みつけた。


「私も人質ということですか?」


「いえいえ、とんでもございません。リーナ様にはすぐにこの国の王位に就いていただく予定です」


「な、何を不敬なことを申すのです! この国にはダンテ王がおられます! あなたは謀反を起こそうと言うのですか!」


「おっと、これは少し早まったことを申し上げてしまいました……」


 ロイドはそう言って、恭しく頭を下げた。


 どうやらリーナはロイドたちの企ては知らなかったようだ。ロイドの仲間ではなさそうだ。


「おっ! もう時間ですな。急がねば祭の儀式が始まってしまいます。儀式が始まる前にダンテ王がリーナ様の王族復帰を宣言されるとか。この宣言は必ずお受けなさいませ。その場で国民にリーナ様の晴姿を見せるのです。そして、その後はすぐにここへ戻って来なさい」


「私にまたここへ戻れと言うの?」


「そうです。おっと、ご忠告申し上げますが、あなたは今、ここで起こっていることを誰かに告げて助けを呼ぼうとか、ご自分がここに戻るはずがないとか、考えておられますね? しかし、そうはさせません。我らの言うとおりにリーナ様が動かないと、あなたのせいで周りの人々が不幸になりますぞ」


「え? どういうことなの?」


「ふふっ。ここにちょうど良い実験台がおります。お見せしましょう」


 ロイドは腰からナイフを抜いてエドリーに近付いた。エドリーの瞳が恐怖に大きく見開かれる。


「なっ、なにをするのです!?」


 リーナの悲鳴に近い叫び声を無視して、ロイドは無言のままナイフをエドリーの太腿に突き立てた。血が噴き出て、エドリーの体が痙攣けいれんした。エドリーは身動きもできず声も出せないまま気を失ったようだ。


「なんてっ! なんてことをするのっ!?」


 リーナが叫ぶ。


「はやく、早くキュア魔法を掛けてあげて! ねぇ、お願い……」


 リーナは泣きそうな顔をして懇願しているが、ロイドは素知らぬ顔で話を続けた。


「いいですか、リーナ様。もしあなたが我らに従わないなら、この女のように恐怖に震え苦しい思いをする国民が大勢出るのです。

 ここで起こっていることをあなたが誰かに話して、警護のロードナイトや王都防衛隊が不審な動きを始めたら、計画が破綻したと考えて祭り会場を攻撃します。

 我らはそこまでしたくないのですが、ここにいるガーウェン殿から強く言われてしまいましてな……」


 ロイドがチラッとガルーダロードを見た。


「祭り会場を攻撃だと? ロイド、おぬしは何を生温いことを言っておるのだ。計画が破綻すればこの国に価値はない。我がおぬしに言ったのは、この王都への攻撃だ。空に我が舞い上がって、空から爆弾魔法でこの街を爆撃する。祭り会場だけでなく王都を破壊し尽くすのだ!」


 ガルーダロードは本気のようだ。この国のロードナイトたちが防戦するから王都を破壊し尽くすというのは無理だろうが、夜中に空中から攻撃されると、その迎撃は容易ではない。犠牲者が大勢出るだろうな。


「リーナ様。このガーウェン殿は普通の魔族ではありませんぞ。ガルーダロードです。我らのようなロードナイトよりずっと魔力が高い妖魔なのです。

 ガーウェン殿が本気で攻撃すれば、大勢の国民が死んだり傷ついたりすることになるでしょうな。その隙に我らは脱出させてもらいますよ」


 ガルーダロードとロイドの言葉にリーナは唖然としているようだ。その様子を見てロイドはニヤリと笑って話を続けた。


「それから、もしあなたがここに戻って来なかったら、ハンナさんがこの女と同じ目にあうかもしれませんな」


「けだものっ! 人殺しっ!」


 リーナが憎しみが籠った目でロイドを睨む。


「いえいえ、あの男の大事な恋人ですから殺したりはしません。ちゃんとキュアで治療します、こうやって」


 ロイドはエドリーに向けて呪文を唱えた。キュア魔法だ。


「でも、リーナ様にご理解いただくまでは何度でも続けますよ。リーナ様が我らの言うとおりに行動しなければ、この女やハンナさんだけでなくブライデンの民が同じような苦しみを受けることになるのです。それを分かっていただくためにねぇ」


 そう言いながら、ロイドは再び短剣をエドリーの太腿に振り下ろした。さっきとは違う脚から血が噴き出した。エドリーはガクガクと仰け反って体を震わした。意識は失ったままのようだ。


「わ、分かりました。だから、もう止めて。おねがい……」


 リーナは泣きながら懇願した。


 ロイドは再びエドリーに向けてキュア魔法を放った。出血は止まったみたいだ。


「ご覧になったとおり我らは躊躇うことなく攻撃します。我らの言うとおりに動くと約束していただけますか?」


 ロイドの念押しに、リーナはガクガクと頷いた。


「ダンテ王がリーナ様の王族復帰を宣言して、あなたの顔を国民に見せたら、すぐにここへ戻ってくるのです。よろしいですな?」


「でも、宣言の後は王族全員で祭のやぐらに上って、儀式を行うと聞いています」


「儀式には絶対に参加してはなりませんぞ。お分かりですか? 祭り櫓への石段は上らずに、必ずここに戻りなさい。気分が悪くなったと言えば儀式への参加は断れるでしょう」


「分かりました……」


 リーナは力なく頷いた。


「では、カルム。リーナ様をお連れしろ」


 カルムとリーナが出ていくと、ロイドは俺の方に顔を向けた。


「何が起こっているか少しは理解できたか?」


 俺は声が出せないから瞬きを2回した。分かったという合図だ。


「おっと、そうだったな。おまえはマヒしていて話もできないのだな。では、念話で話ができるようにしてやろう」


 ロイドが念話魔法の呪文を唱えた。


『どうだ? 聞こえたら返事をしろ。返事をするだけなら、その首輪の電撃は発動しない』


 ロイドの方から念話を発動しているから、俺の魔力は使わないってことのようだ。


『聞こえている……』


『よし。この念話をガーウェン殿とおまえの恋人にも中継する』


 ロイドは呪文を唱えてガルーダロードに念話が通じていることを確認すると、また俺の方を向いて話を始めた。


『おまえをバーサット帝国に引き渡す前に聞いておきたいことがある。おまえの、その能力の秘密だ。神族の加護とか言ってたが、無詠唱や他人のロードオーブを使えなくする能力はどうやって手に入れたのだ? 細かく説明しろっ!』


 俺が黙っていると、ロイドは口元に残忍そうな笑みを浮かべた。


 ※ 現在のダイルの魔力 オーブA〈384〉、オーブB〈302〉。

 ※ 現在のフィルナの魔力〈282〉。

 ※ 現在のハンナの魔力〈280〉。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ