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080 敵は判明したが……

 俺はステルスモードのまま一般人を装って桟橋を船の方へ歩いていった。この桟橋に停泊しているのは、ソウルオーブの裏取引が行われるミルガントという船だけではない。その先にも何艘かの漁船が係留されている。だから、俺が桟橋を歩いても漁船の船員だと思われるだろう。


 ゆっくりとミルガントに近付く。取引現場に踏み込んで不意打ちを仕掛けるつもりだから、その前に敵に怪しまれて騒がれるのはマズい。


 ミルガントの甲板には船員が一人立っていて、近付く俺を見ていた。たぶん、見張りだ。そいつに眠りの魔法を放った。男が倒れる。


 俺はミルガントの甲板に跳び移った。ここまでは順調だ。


 船室への入口はどこだ? 甲板の真ん中辺りに扉が見えた。静かにそこへ移動する。よし、中に入るぞ。そう思ったとき、頭上のマストから何かが落ちてきた。


「ガシャ、ガシャッ!」と鈍い金属音が響き、俺のバリアに何か重たい物が当たって覆い被さったことが分かった。


 なんだ!? バリアのおかげで俺は無傷だ。バリアもすぐに回復して、俺の防御力は問題ない。だが、今の状態では身動きができない。とにかく、バリアを覆っている物を外さねば……。


 よく見ると、俺を覆っているのは金属製のネットだった。何かの事故で上から魚を獲る網が落ちてきたのか? そんなはずはない。これは罠だ!


 ともかく、このネットを何とかしなきゃ。俺は念力で金属ネットを動かそうとした。だが、ネットの周囲を何かが引っ張っているらしく、動かない。


 誰かが念力でネットを固定してるのか? 俺よりも強い出力で念力を使えるヤツは……。あのガルーダロードか!


 異変に気付いたのか、周囲にいたロードナイトたちが桟橋に集まってきた。二十人くらいだ。


 桟橋から船の甲板に上がってきたのはロイドとその部下たちだった。


「どうした?」


「罠だ! 罠に掛かった。この金属ネットで動けなくなったんだ。誰かがこの金属ネットを念力で固定しているようだ」


「分かった。部下たちと一緒に念力魔法でその網を外すから、待ってろ」


 かっこ悪い。だが、ここはロイドたちに助けてもらうしかない。


 ロイドたちが一斉に呪文を唱え始めた。俺もそれに合わせて念力魔法を発動する。


 だが、何か変だ! 俺のバリアがガンガンと音を立てている。バリア破壊魔法で攻撃されているのか!? 急速にバリアの耐久度が減っていく。


 俺を攻撃しているのは……、ロイドたちだ! ナゼだ!?


 考える間など無かった。直後に「パリン」という乾いた音がして俺のバリアが破れた。同時に全身に激烈な痛みが走って、俺は気を失った。


 ………………


「おい、起きろ!」


 ロイドの声だ。目を開けると、自分がどこかの部屋の中に寝かされていることが分かった。金属ネットは取り外されている。だが、体が痺れて動かない。これは電撃マヒか!? すぐにマヒを解かねば!


 電撃マヒ解除の魔法を発動しようとして、俺はいつもと何かが違うことに気付いた。が、遅かった。全身を痛みで鷲掴みにされて俺は意識を手放した。


 ………………


「起きろ! 無詠唱で魔法を使おうとしても無駄だ。そのたびに何度でも電撃マヒが発動するぞ。おまえには魔封じの首輪をはめた。ロードオーブからの魔力を察知したら電撃マヒが発動する仕組みだ」


 そんな首輪があるのか!? 無詠唱で魔法を発動しようとして違和感があったのは魔封じの首輪のせいか? いや、そんなはずはない。もう一度……。


 俺は確かめようと電撃マヒ解除の魔法を発動しようとした。再び電撃が体を貫いて気を失った。


「おまえは馬鹿か? ムダなことは止めろ。分かったら、瞬きを2回するんだ」


 くそっ! 今のままでは魔法は使えない。ここは言われたとおりにするしかなさそうだ。


 俺は瞬きを2回した。体がマヒしていても、目だけは動かせる。


「よし、それでいい。おまえは思っていたよりマヌケだな。おれたちが用意した網にまんまと掛かってくれた。ゴロツキどもを使って試した甲斐があったと言うものだ」


 ゴロツキどもを使って試したって? あっ! 何日か前、王城へ行った帰りにゴロツキたちに襲われたが、あれもロイドの仕業か!?


「あの試しのおかげで、おまえを捕らえる工夫ができたからな」


 あのとき、俺はバリアごと金属の綱でグルグル巻きにされたが、念力で簡単に外すことができた。だが、さっき俺を捕らえたのは金属のネットだ。しかも、俺より強力な念力でネットが固定されていた。


 くそっ! あのときもっと調べておくべきだった。ゴロツキたちの背後に誰がいるのかってな。


「捕まったことに納得がいかないか? 捕まったのは、おまえがマヌケだからだ。何が起こっているのか、おまえに見せてやろう」


 ロイドはそう言って、俺の上半身を起こした。


 自分の体は壁を背にして床の上に座らされているらしい。部屋は壁も床も板張りで、見える範囲には何も置かれていない。木の扉と四角い小さな窓が見える。少し揺れているこの感じは……、これは魔空船の中だ。外からは祭の歌声が聞こえてくるから、この船はおそらくミルガントだろう。


 部屋にはロイドと見知らぬ男が一人、それとガルーダロード立っていた。


 いや、もう一人。誰かが床の上に倒れている。長い髪で顔は見えない。女のようだ。


「この女が気になるか? おまえが知ってる女だぞ」


 ロイドは女の体を起こしながら、そう言った。


 俺は目を疑った。ハンナだ! どうして、ハンナがここにいるんだ!?


「そうだ。この女はおまえの愛人だな?」


 ロイドは俺を見てニヤッと笑った。ハンナはぐったりして身動きしない。ハンナは……、ハンナは生きているのか?


「驚いているようだな? 不思議だろ? どうして愛人がここにいるのか? 種明かしをしてやる」


 ロイドはそう言って、もう一人の男に顔を向けた。


「カルム、リーナ様をお連れしろ」


「でも、兄さん。リーナ様にはちょっと刺激が強過ぎないか?」


「いや。リーナ様にはこれから起こることをすべて理解していただくのだ。その上で、我らの女王になっていただく。だから、おまえは嫌かもしれないがリーナ様にはこの場に立ち会ってもらわねばならぬのだ」


「分かった……。リーナ様をお連れする」


 その見知らぬ男は扉を開けて出ていった。


 さっきの男がリーナやハンナたちが親しくしていたカルムなのか!? そうか……。ようやく自分の頭が回り始めた。


 俺はまんまとロイドとカルムが仕掛けた罠にはまったということだ。


 全く知らなかったが、カルムはロイドのことを兄さんと呼んでいたから二人は兄弟なのだろう。この兄弟がガルーダロードと一緒にいるということは、二人は裏で魔族と繋がっているということだ。


 もう一つ分かったことは、ロイドたちがリーナを女王に祭り上げようとしているということだ。リーナもロイドたちの仲間なのかもしれないが、そんなことはないと信じたい。


「ロイド。この男からは魔力が探知できぬ。本当にこの男が皇帝が捜しているあのロードナイトなのか?」


 ガルーダロードが口を開いた。低い声だ。顔は面長で目が少し窪んでいるが、ゴブリンやオークよりはずっと人族に近い顔立ちだ。頭髪は無くつるっぱげだ。身長は200セラを超えているだろう。背中に折りたたんだ翼が見えている。翼は灰色の羽毛が密生していて足首辺りまである。


 ガルーダロードが口にした皇帝というのは、どこの皇帝だろう? 魔族の国の皇帝だろうか? 魔族の皇帝が俺を捜しているのか? なぜだ?


「ガーウェン殿、間違い無くこの男です。この男から聞いたのですが、神族から探知魔法を誤魔化す能力を授かったとか申しておりました」


「なんと! そんなことまでできるのか! バーサットの皇帝が目の色を変えてこの男を捕らえろと言ったのも頷けるな」


 バーサットの皇帝? つまり、敵はバーサット帝国か!? 敵は判明したが、この状態では……。


「そうですな。ロードナイトの能力を無効にできたり、詠唱をせずに魔法を使えたりと、この男はとんでもない能力を身に付けているようです。その能力がどうやったら得られるのか、バーサットの皇帝だけでなく、おれも知りたい。その能力が得られたら、おれたちも……」


 そのとき、扉が開いて男たちが入ってきた。


「隊長、侵入者を捕らえました」


 男たちに引きずられてきたのはエドリーだ。


「ベルドラン王国の身分証を持っていました。でも、我が国のロードナイトだけが持つ識別オーブも身に付けてます。その男の後をつけていたようです」


 男が俺を指さしながら言った。


「その女はおれたちを調査するためにベルドランから派遣されてきたロードナイトだろう。この男の仲間だ。壁のところに座らせておけ」


 エドリーは俺と同じように壁に寄り掛かって座らされた。瞬きをしているから意識はあるようだ。俺と同じように電撃マヒの魔法を掛けられているみたいだ。


 エドリーの視線が俺を捉えた。睨んでいるようだ。こんなことになって怒っているのだろうな……。


 エドリーを連れてきた男が出ていくと、入れ違いにカルムとその後に続いて女性が入ってきた。リーナだ。


 ※ 現在のダイルの魔力 オーブA〈384〉、オーブB〈302〉。

 ※ 現在のフィルナの魔力〈282〉。

 ※ 現在のハンナの魔力〈280〉。


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