075 襲撃とソニアからの報告
薄暗い道の真ん中で、俺は男たちに囲まれている。六人が俺に剣を向けていて、四人がナゼか綱を持っている。金属製の綱だ。四人はその金属製の綱を握って、俺を四方から囲む形に移動し始めた。
「何の用だ? 盗賊か?」
「黙れ、獣人! 盗賊はおまえだろっ! やれっ!」
こいつら、何か勘違いをしてるのか?
誰かが発した声に合わせて、剣を構えていた男たちは後ろに下がって、綱を持った四人が俺の周りを走り始めた。綱が重いのか、かなり走りにくそうだ。
俺はバリアを張っているが、そのバリアごと金属の綱が巻き付いていく。俺をグルグル巻きにするつもりのようだ。こんな幼稚な方法で俺を捕まえられると思っているのだろうか? 思わず笑ってしまいそうになる。
俺はごにょごにょと呟いて呪文を唱えている振りをした。念力魔法を発動して、綱を外していった。
「くそっ! 散れっ!」
誰かが声を上げると、男たちは綱を捨てて逃げ始めた。
俺は逃げ遅れた一人を捕まえた。その男に威圧魔法で脅しをかけながら尋問したが、男は金で雇われただけで重要なことは知らないようだ。
悪い獣人の盗賊がいるから捕まえろと誰かに頼まれたらしい。1時間ほど前のことだと男は言った。その際に金属製の綱を与えられ、その綱を使った捕まえ方も教えられたそうだ。誰に雇われたかは、相手が顔を隠していて分からなかったと男は話した。ほかの仲間もその場で集められた街のゴロツキだった。俺を捕まえて王都防衛隊へ引き渡せば賞金をもらえると言われたそうだ。それ以上のことは何も知らないようだった。
俺は男を解放して、宿屋に向かった。
何だったのだろう? 1時間ほど前というと、俺が王様に会うために王城へ向かっている頃だ。俺を見掛けた誰かが、俺を狙ってゴロツキを雇ったということか……。しかも、そいつは俺が豹族だと知っているようだ。
だが、王都防衛隊へ引き渡せと言ったらしいから、男たちを雇ったヤツの目的は俺を捕らえることではない。とすると、これは俺に対する何かの警告なのか?
ともかく、このブライデンに俺を狙っているヤツがいることはたしかだ。気を付けないといけないな。
この襲撃について深く調べなかったことを数日後に悔やむことになるのだが、このときの俺はそんなことは予想だにしてなかった。
その後も尾行が無いか注意しながら歩いたが大丈夫のようだった。宿屋に戻ると、フィルナとハンナには王様とソニア王女に会った話と帰り道で賊に襲われた話をした。
「だから、おまえたちも用心してくれ」
「でも、何かあってもダイルが助けてくれるから、私は大丈夫」
「あたしもダーリンがいるから平気よ。だけど、今夜は怖いからダーリンの隣で寝かせてね」
「あ、ハンナ姉だけずるーい! 私もダイルの横で寝るよっ!」
俺は二人の言葉を聞きながら溜息を吐いた。
………………
次の日の朝。俺たちが宿屋で朝飯を食べていると、ソニアがやってきた。ハンターのようなかっこうをしていて、どう見ても王女様には見えない。
ソニアはハンナとは以前に会っているが、フィルナとは初顔合わせだ。それと、エドリーも。俺はそれぞれを紹介した。昨夜のうちにフィルナとハンナには王様たちから聞いたことを説明しておいたから、フィルナたちはソニアが宿屋に現れた理由を知っている。
エドリーにはソニアのことを俺の友人で、調査の手伝いをお願いしていると紹介した。もちろん、エドリーはソニアが自分よりも高位のロードナイトであることは探知魔法で知っているはずだ。
朝食の途中だったので、ソニアにもお茶を勧めて、俺たちが食事が終わるのを待ってもらった。
『ソニア、何か分かったのか?』
俺はパンを口に入れながら念話で尋ねた。
『えぇ、ダイル。報告したいことがあるの。そのまま食事をしながら聞いて。エドリーさんには聞かれたくない話なのよ……』
『分かった。フィルナとハンナにも念話を中継するぞ。いいな?』
ソニアからの報告は二つあった。一つは、昨日の午後にベアルたちがベルドランから魔空船で戻ってきたということだ。俺が王城から出た直後に王様のところへ報告にきたらしい。
もう一つは、王様がマイモン公爵の娘をベアル子爵のもとに預けることを承諾したという話だった。
ベルドランから戻ってきたのはベアルだけでなく特別に編成されたロードナイト二十人の部隊も一緒だ。今回もベアルと共に魔空船でベルドランへ出向いたそうだ。この部隊は王様がベルドランのゾンビ禍対策のために立ち上げたもので、ベルドランで俺と連携しながら活動する予定だったらしい。今回も俺が留守だったため、その部隊は何もせずに戻ってきたとのことだ。
部隊の隊長はロイドという名前のロードナイトだとソニアは言った。そう言えば、パイナッツ村で国境警備の隊長がそんな名前だった。あいつか……。俺に対して冷たい態度を取っていた男だ。
『それでね、ロイド隊長は部隊の宿舎をピリル村に置いているらしいわ。ベルドラン救援隊という名前で村に駐屯しているそうなの。王都の近くの村で1時間ほどで行けるわよ』
それまでは俺とソニアは目を合わせずに念話で会話をしていたが、今はソニアが俺に顔を向けて何かを言いたそうな目をした。既に何かを考えてきたようだ。
『で、どうするんだ?』
『考えたのだけど、ダイルがエドリーさんを一緒に連れてロイド隊を偵察しに行ったらどうかしら?』
『どういうことだ? ロイド隊を偵察したって、たぶん何も分からないぞ?』
『それはね、ダイルはエドリーさんに監視されてるでしょ? だから、エドリーさんにダイルが真面目に調査をしてるってところを見せるためよ』
さっぱり分からない。たぶん、俺が怪訝そうな表情をしているのに気付いたのだろう。ソニアは話を続けた。
『今はね、ザイダル神様の誤解を解くためには、マイモン公が影で取引きしていた国を調べることしか手立てが無いでしょ? でも、ダイルが自分でそれを調べると、マイモン公を捕らえたのがダイルだってことがエドリーさんに知られてしまうかもしれないわ。だから、その調査は誰か別の人に任せたほうがいいと思うの。でも、ダイルが何もせずに遊んでるのはマズイでしょ。だから、エドリーさんを連れてロイド隊を偵察に行くのよ。ね? ロイド隊を調べても何も分からないけど、ダイルが調査をしてるって見せ掛けた方がいいでしょ?』
なるほど、そういうことか。
『それは分かった。で、マイモン公爵の娘のほうは?』
『リーナはカルム商会に奴隷として売られてた。カルムという名前の店主が興した新しい商会だけど、ブライデンでは割と大きなオーブ商よ。かなり優れた店主みたいね。私たちがピリル村へ行っている間に、誰かがその商会へ出向いて、リーナを引き取ってベアル邸へ連れて行かなきゃいけないわ』
『引き取ると言っても、相手のカルム商会は奴隷のリーナを簡単には引き渡さないだろう? それにベアルたちにも説明して承諾を得ないといけないな』
『それは大丈夫よ。お父様がカルム商会宛ての手紙を書いてくださったわ。それと、ベアル夫婦にも事情を説明して承諾してもらったから』
『かなり手回しが早いな』
『夜明け前に飛び起きてお父様のところへ行ったの。お父様は既に手紙を書いておられたわ。さすがね。ベアル邸へも朝早くに行って、話をしながら朝ごはんを御馳走になっちゃった。ダイルも了解してるって言ったら、喜んでリーナを預かりますだって』
俺の名前を出したのかよ。まぁ、いいけど。
『フィルナ、ハンナ、聞いてのとおりだ。ここまで用意ができてるみたいだがら、この後のリーナの件はフィルナとハンナに頼みたい。事情を知らない人に頼むより安心だからな。マイモン公爵の娘を引き取りに行ってくれるか?』
俺はマイモン公爵の娘と顔を会わせたくない理由も説明した。
『仕方ないわね。ハンナ姉と一緒に行ってくるわ』
『そうね。今回はフィルナとあたしで行ってくるけど……。あたしはね、ダーリンがいつかその娘に会って、ちゃんと話をした方がいいと思うな』
そうだな。ハンナの言うとおりかもしれない。
『それで、ソニア。あんたも一緒にピリル村へ行くのか?』
『えぇ。久しぶりにダイルに会えたのですもの。私もダイルとご一緒するわ』
まぁ、ソニアには色々と世話になっているし、好きなようにさせよう。ロイド隊を見に行くだけなら危険も無いだろうからな。
俺たちはゆっくりと朝食を食べて、それからエドリーを交えて、これからどうするか話し合う振りをした。
「そういうことで、ベルドランに派遣されていたロードナイトの部隊が戻ってきたらしい。それで、俺はソニアに案内してもらって、ピリル村の偵察に行こうと思うが、エドリーはどうする?」
「ダイル殿、わたしも同行します。それがわたしの役目ですから」
「分かった。フィルナとハンナは王都見物でもしててくれ」
俺の言葉にフィルナたちは渋い顔で頷いた。
そして、俺とソニア、エドリーはピリル村へ向かった。
※ 現在のダイルの魔力 オーブA〈384〉、オーブB〈302〉。
※ 現在のフィルナの魔力〈282〉。
※ 現在のハンナの魔力〈280〉。




